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29.私は確信犯
しおりを挟むドアが叩き割られるように壊れ、現れたのはやはり彼だった。仕事なのか騎士団の制服を着ている。
かなりご機嫌が悪いようで、凶悪な顔をしており、その視線は扉の前にいた男に向けられていた。ディミドラは、自分に向けられたら、さすがに耐えられそうにないなと思ってしまった。
彼が騎士団団長ということを、普段は忘れていたが、背後には部下であろう騎士が控えているし、彼の発する凶悪な雰囲気が彼の地位を思いださせる。
「お前・・・何をした」
彼は、目の前の男を掴み上げて、睨みつけている。
「なっ何も・・・」
この状況で逃げられるとでも思っているのだろうか・・・。答えはノーだ。直ぐに男は彼の視線だけで・・・気を失ってしまった。
彼は男を後ろに控えている部下に投げ渡すと、ディミドラに近づいてきた。
「怪我はなかったか?」
彼はディミドラに、先程の視線とは違う優しい視線を向けてくる。
「どう見ても大丈夫に決まっているでしょう」
ディミドラは彼が来なくても解決できたし、手柄をとられた感が否めなかった。
「こんな怪しい奴についていくとは、危険なのがわからないのか」
彼は急にお説教モードだ。
「怪しいから、わざとついて行ったに決まっているじゃない?わからないの?」
ディミドラはつい喧嘩腰になってしまう。
「だから・・・なんでついていくんだ。怪しかったらついていくな。何かあったら危ないだろう」
彼は自分の番を心配して言っているのがわかる。ディミドラ自身にではない・・・。
「だから、確かめようとしたんです。他で被害が出たら大変でしょう。私なら問題ありません」
ディミドラは自分の非を認めはしない。悪い事はしていないのだから。
「デラ、デラが戦えるのは団長も知っているわよ。それでも、団長は心配してくれているだけだから、お礼でも言ってもう行きましょう」
埒があかないと思ったのだろう。リンジェーラは会話の間に入ってきた。仕方ないのではやく切り上げることにした。
「・・・まあ、心配されるだけならいいですけど。わざわざありがとうございます。後はお任せしますから、それじゃ」
きちんとお礼だけは言って、彼から離れようとした。
「待て・・・送って行く」
だが、彼はディミドラの手を引いてきた。
「送ってもらわなくていいです。まだ帰りませんから」
ディミドラは彼に掴まれた手を振り解こうとした。
「そんな可愛らしい格好でこれ以上うろつくな・・・。部下からこうなった報告を聞いている。本当は部下達が今回の奴らを誘い出そうとしていたが、奴らは部下達より、お前達の方が目立っていたから声をかけたようだとな」
騎士団はもともと、今回の人達を捕まえる気でいたようだ。すでに部下も任務についていて、囮捜査をしていたのだと。
だが、目をつけられたのは、部下ではなく自分達だったため問題になった・・・。彼は代わりに獲物になったのが、自分の番だとしり焦って来たのだろう。
まあ・・・だからなんだというのか。
「目立つのは当たり前です。だって私達けっこう可愛いですしね」
ディミドラはリンジェーラににっこり笑みを浮かべた。
彼にも可愛いから仕方がない、不可抗力だと、普段は絶対にしないようなスカートをつまんで首を傾げるという、可愛らしさをアピールして動作をしてみせた。
自分は大人しくしていれば、見てくれはいいのだ。番が大好きな彼には可愛いらしい動作は効果があるだろうと確信しての行動だ。
やはり、彼はぐうの音もでないようで、言葉を詰まらせる。彼の表情からは、可愛らしさにやられている事が一目瞭然だ。
番の可愛らしさに弱いとは、ちょろいなとディミドラは思った。
そして、ディミドラは彼の隙をついて、リンジェーラの手を掴み、その場を逃げるのだった。
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