獣人の番!?勝手に結んだ婚約なんて破棄してやる!〜騎士団長の求愛と番の攻防〜【完結】

ドール

文字の大きさ
上 下
30 / 75

29.私は確信犯

しおりを挟む


 
 ドアが叩き割られるように壊れ、現れたのはやはり彼だった。仕事なのか騎士団の制服を着ている。
 かなりご機嫌が悪いようで、凶悪な顔をしており、その視線は扉の前にいた男に向けられていた。ディミドラは、自分に向けられたら、さすがに耐えられそうにないなと思ってしまった。


 彼が騎士団団長ということを、普段は忘れていたが、背後には部下であろう騎士が控えているし、彼の発する凶悪な雰囲気が彼の地位を思いださせる。


「お前・・・何をした」

 彼は、目の前の男を掴み上げて、睨みつけている。


「なっ何も・・・」
 この状況で逃げられるとでも思っているのだろうか・・・。答えはノーだ。直ぐに男は彼の視線だけで・・・気を失ってしまった。

 彼は男を後ろに控えている部下に投げ渡すと、ディミドラに近づいてきた。


「怪我はなかったか?」
 彼はディミドラに、先程の視線とは違う優しい視線を向けてくる。


「どう見ても大丈夫に決まっているでしょう」
 ディミドラは彼が来なくても解決できたし、手柄をとられた感が否めなかった。


「こんな怪しい奴についていくとは、危険なのがわからないのか」
 彼は急にお説教モードだ。



「怪しいから、わざとついて行ったに決まっているじゃない?わからないの?」
 ディミドラはつい喧嘩腰になってしまう。


「だから・・・なんでついていくんだ。怪しかったらついていくな。何かあったら危ないだろう」
 彼は自分の番を心配して言っているのがわかる。ディミドラ自身にではない・・・。


「だから、確かめようとしたんです。他で被害が出たら大変でしょう。私なら問題ありません」
 ディミドラは自分の非を認めはしない。悪い事はしていないのだから。


「デラ、デラが戦えるのは団長も知っているわよ。それでも、団長は心配してくれているだけだから、お礼でも言ってもう行きましょう」
 埒があかないと思ったのだろう。リンジェーラは会話の間に入ってきた。仕方ないのではやく切り上げることにした。
 

「・・・まあ、心配されるだけならいいですけど。わざわざありがとうございます。後はお任せしますから、それじゃ」
 きちんとお礼だけは言って、彼から離れようとした。


「待て・・・送って行く」
 だが、彼はディミドラの手を引いてきた。


「送ってもらわなくていいです。まだ帰りませんから」
 ディミドラは彼に掴まれた手を振り解こうとした。


「そんな可愛らしい格好でこれ以上うろつくな・・・。部下からこうなった報告を聞いている。本当は部下達が今回の奴らを誘い出そうとしていたが、奴らは部下達より、お前達の方が目立っていたから声をかけたようだとな」
 騎士団はもともと、今回の人達を捕まえる気でいたようだ。すでに部下も任務についていて、囮捜査をしていたのだと。


 だが、目をつけられたのは、部下ではなく自分達だったため問題になった・・・。彼は代わりに獲物になったのが、自分の番だとしり焦って来たのだろう。

 まあ・・・だからなんだというのか。


「目立つのは当たり前です。だって私達けっこう可愛いですしね」
 ディミドラはリンジェーラににっこり笑みを浮かべた。

 彼にも可愛いから仕方がない、不可抗力だと、普段は絶対にしないようなスカートをつまんで首を傾げるという、可愛らしさをアピールして動作をしてみせた。

 自分は大人しくしていれば、見てくれはいいのだ。番が大好きな彼には可愛いらしい動作は効果があるだろうと確信しての行動だ。


 やはり、彼はぐうの音もでないようで、言葉を詰まらせる。彼の表情からは、可愛らしさにやられている事が一目瞭然だ。
 番の可愛らしさに弱いとは、ちょろいなとディミドラは思った。


 そして、ディミドラは彼の隙をついて、リンジェーラの手を掴み、その場を逃げるのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...