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15.彼はマイペース
しおりを挟む彼はあれから何度か唐突に訪ねてきては、ディミドラと会話をしては、その日のうちに王都に帰って行った。
王都から距離はあるのに、休みのたびに来ているみたいだ。今日は父に捕まって、剣を振るっている。初めがあんな形でなければ彼を受け入れられたのかもしれないと、彼が剣を交えている姿を見て思ってしまった。
8年前に見た時と変わらない姿は、昔を思い出す。ディミドラを助けた彼は、初めてディミドラに異性というものを意識させた。
あんな人と結婚したいなと、あの時は思ったものだ・・・。だが母の事もありその感情が長く続く事はなかった。
あの頃のことを思い出しながら彼の姿を見ていたら、彼がこちらに気づいたようで、剣を鞘に収め歩いてくる。
彼は歩いているだけで、人を惹きつける力を持っていると思う。一つに結ってある黒い長髪が少し揺れ見惚れそうになったが、彼の自信満々な顔を見て考えを改めた。
「どうしたんだ、じっと見ていたが。俺に見惚れたか?」
彼は相変わらずなようだ。
「戦っている人を見るの好きなんです。強い人なら尊敬します。ただそれだけです。貴方だから見ていたわけじゃありません」
「そうか。強い男がすきか・・・」
彼は何やら思惑しているようだ。戦っているのを見るのが好きだと言ったのに言いように変換しているし、都合の良い耳をしていると思った。
「では、私は出掛けるので失礼しますね」
彼が何か言い出す前にと、さっさと出掛けることにする。
「まて、どこに行くんだ」
去る前に手を掴まれ、止められてしまった。
「・・・街ですけど。手を離してください」
仕方ないので行き先は告げる。街なので特に珍しい事はない。それより手を離して欲しい。
「そんな格好で、一人でか?」
彼は何が言いたいのだろうか。ディミドラにとってはいつもと何ら変わりはないのだが。
「この服に何か問題でも?」
服は至ってシンプルなコルセットワンピースなだけなのだが・・・。
「可愛い格好はより人目を引く。俺も一緒に行こう」
特別可愛らしくお洒落をしたわけではないが、可愛いと言われるのは悪い気はしない。だが続く言葉は遠慮したかった。
「結構です。自分の領地ですから危険はありません。貴方がいたら目を引くので嫌です」
こんな体格がよくて、容姿がいい男を連れて歩けば、どうなるか・・・。想像しただけで針の筵になるのはわかっている。
「一緒なら人目を引いても問題ないだろう。行くぞ」
ディミドラにしたらかなり問題なのだが、彼は一人で完結して掴んでいた手を繋ぎかえると、強引に歩き出すのだった。
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