好きな人は兄のライバル〜魔導師団団長編〜【本編完結】

ドール

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後日談

後日談:息子と父親の区別

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「お会いしたかった!」
 ある令嬢がシリウス様にだきつく所を目撃してしまった。それも目の前でだ・・・。


 シリウス様と出かけた先で、馬車に乗ろうとしている所に彼女はいきなり現れた。
 彼女は後ろに護衛をつけていて、ただの令嬢ではないみたいだった。


 金髪に碧眼のお姫様の様な可愛らしさがある。


「私ずっと貴方を探していましたの!まさか隣国の方だったなんて、見つからないはずですわ」

 シリウス様は何故か彼女を遠ざけようとはしなかった。シリウス様に抱きつくような勇気ある女性は、今まで居なかったが、いきなり女性が抱きついてくれば、絶対にすぐ引き剥がすだろうと思っていたのに・・・。

 リーディアはそれだけで少なからずショックを受けた。先ほどまで彼と愛を確かめ合っていただけにだ。身体に篭った熱が冷めていくのがわかった。


「私・・・初めてお会いしてから、ずっと貴方の事を・・・あのッお名前を教えて下さいませ」
 彼女は恥じらいながら、頬を染め、シリウス様を見上げて来た。あの表情は完全に恋する乙女だろう・・・。そんな視線をシリウス様に向けているだけでもリーディアは不愉快だった。


「名を名乗る前に、女性が男性にこの様に抱きついてはなりせん。貴方は一国の王女なのだから、考えて行動をしなければ」
 シリウス様は彼女の行動を嗜める。だが、シリウス様は彼女を王女だと言った・・・。
 


「まあ、私の事をご存知だったのですね。嬉しいですわ。つい嬉しくて抱きついてしまって・・・お恥ずかしいです。どうぞ私の事はエルと呼んで下さい」
 彼女はシリウス様に愛称で呼ぶように言った。リーディアは表情がこわばらないように気をつける。


「それはできません・・・。エリシュベール様」
 シリウス様は他国の王族としての接し方のようで、少し安心する。


「まあ、そんな遠慮なさらなくても」
 彼女はシリウス様に好意を抱いているようだが・・・彼女は一国の王女。それにシリウス様との年齢はユーシスくらいだろうから、だいぶ離れている。


 きっと彼女の父親とシリウス様の年齢は、かわらないくらいではないかと考える。
 一国の王女のため、シリウス様に触れている部分には仕方なく目を瞑り、リーディアは口を挟まずに、事の成り行きを見守る。


「それで、私に貴方の名は教えていただけませんの?」
 王女はシリウス様に、甘えるように腕に手をかけ、問いかけた。



「・・・シリウス=ウィンザーと申します」
 シリウス様は王女の接触に、どうしたものかと思惑しながらも返事をされた。


「ウィンザー・・・公爵家でしたわね・・・。それならばお父様もきっと許して下さるわ」
 彼女はシリウス様の名を聞き、何かつぶやいた。


「シリウス様!私と一緒に王城へ行きましょう」
 王女はいきなりシリウス様の手を握った。


「それは出来ません・・・今日は休暇中ですし、私は彼女をエスコートしたいので」
 シリウス様はリーディアの存在をアピールする。


 王女は、リーディアの方を凝視したあと、表情を曇らせた。好意を寄せているであろう王女は、リーディアが気に食わないようだ。だがそれはリーディアも同じことだ・・・。夫に好意を寄せられても困る。


「彼女は一緒でなくてもいいわ・・・。下がらせて頂戴」
 王女は護衛に命じ、護衛がシリウス様とリーディアを遠ざけようと、リーディアに触れようとした。



「触るな!」
 だが、シリウス様が護衛へ声を荒げ、護衛とリーディアの間に氷の壁を作った。

「シリウス様・・・」
 リーディアに触れようとしたため、シリウスは声を荒げて、不快感を露わにした。


「シリウス様ッ、私とご一緒してくだされば、彼女は護衛に送り届けさせますわ。以前のようにエスコートして下さいませ」
 シリウス様の纏う雰囲気が変化し、王女は一瞬たじろいだが食い下がる。


「私の最愛を、そのへんの者に託そうとは思わないし、私が貴方と行動を共にする理由も必要も感じない・・・」


「その者が・・・最愛」
 またしても王女はリーディアを睨みつけるように見てきた。


「最愛でなければ妻にしてはいない・・・。それに、私は貴方をエスコートした事は1番も無い」



「そんなはず・・・優しく微笑えまれながらエスコートして下さったではないですか」
 シリウス様の返答に王女は戸惑われるが、シリウス様はリーディアや、溺愛している娘のシェリーくらいにしか、微笑むなどはしないため、王女の発言をリーディアは疑問に思った。


「私は貴方をエスコートした事はない・・・顔は知っていたので貴方が誰かは理解しているが、顔を合わせたのは初めてです」
 シリウス様はもう一度、はっきりと初対面だと口にする。


「何故そんな嘘をつかれるのですか・・・。私に、可愛らしい方ですねって、言ってくださったのに。王女としてではなく・・・私を見て言ってくれたと・・・」


「本当に初対面ですよ・・・。私は貴方の国へ訪問したこともないのですから」
 王女はシリウス様に初対面だと言われ、ショックを受けているようだった。確かにシリウス様が他国にどうしてもいかないといけない時はリーディアも知らせられるが、彼女の国へシリウス様が行くというのは聞いた事がなかった。


 何がどうなっているのか、わからずどうしたものかと思惑していると、誰かに肩を叩かれる。リーディアが振り返ると後には、長男のユーシスが立っていて、こんな往来で何をしているのかと聞いてきた。


 リーディアが説明しようと口を開こうとしたのだが、それよりも先に王女の声が響いた。


「シリウス様が二人!?」
 王女はユーシスに気づき、ユーシスとシリウス様凝視して、視線を彷徨わせていた。


「・・・貴方は隣国の・・・、私の父と何かありましたか?」
 ユーシスは王女を知っているようで、シリウスの近くに歩んで行った。

「・・・ユーシス、王女とお会いした事があったのか。聞いた覚えはないぞ?」


「王女?彼女がですか・・・?それは・・・知らずに申し訳ありません。お会いしたのは確かに隣国で、少しだけエスコートしながら話をさせて頂きました」
 どうやらユーシスは彼女が王女だと知らなかったようだ。今の話を聞くと、彼女が探していたのはユーシスのようで、シリウス様とユーシスを勘違いされたようだった。


「そうか・・・。エリシュベール様、どうやら、私と息子をお間違いのようです。いかがしましょうか・・・」
 シリウス様は王女へ声をかけるが、王女は肩を振るわせて俯いている。恐らく、好意を寄せていた相手を勘違いしてしまった事で羞恥しているのだろうと察した。


「・・・もう、お帰りになられて結構ですわ・・・。私の勘違いだったようで、お恥ずかしい事を申しました。・・・忘れて下さると助かりますわ」
 王女は自分の非を認め、俯いている姿は年相応に見えた。


「シリウス様、人の目がありますから、ここはユーシスに王城までエスコートさせましょう」


「そうだな・・・ユーシス頼めるか」


「もちろんです」
 ユーシスは王女に手をさしのべて、近くに待機していた馬車へエスコートしていった。王城までの間にユーシスが王女の表情を変えてくれる事を期待する。


 
 馬車を見送り、リーディア達も乗ろうとしていた馬車に乗り込み並んで座った。
「きっと、シリウス様が眼鏡でもなく、いつもの服装ではなかったから間違われたのでしょうね」
 今日はリーディアと昔デートした事がある時の服装に近く、ラフだったので、シリウス様も若く見えたのだろうと考えた。


「ユーシスとそこまでは似ていないと思うぞ。私とでは表情が違うから似ても似つかないと言われた事がある」
 確かに普段のシリウス様とユーシスの違いは、その部分が大きいだろう。シリウス様はあまりユーシスのように笑みを浮かべたりはしないからだ。


 だがそれは、リーディアがいなければの話だ。リーディア前では二人が並ぶと本当に瓜二つに見えるのだから。


「誰にいわれたんですか・・・。失礼ですね。私はユーシスとシリウス様は、よく似ていると思いますよ。違うのは髪の色くらいです」


「私にそんな事を直接言うのは、あいつだけだ」
 シリウス様があいつというのは、兄だけだろう。


「兄も、まだまだわかっていませんね。シリウス様が私を見て笑みを浮かべている優しい顔と、ユーシスの表情は似ているのに・・・まぁ兄は、シリウス様にそんな表情は向けられた事がないので、致し方ないのでしょうが」
 リーディアはシリウス様の手を握った。


「あいつに向ける笑みなどない・・・。全てディアにだけだ」
 シリウス様はリーディアの手を握り返し、甘い視線を向けてきた。


「まあ、それは嬉しいですわ。ずっと私だけに向け続けてくださいね。シリウス様の笑みは私がずっと独占いたします」
 シリウス様の甘い視線が向けられる時は、シリウス様が口付けたい時だとリーディアは理解していた。


「笑みだけでなく、全てを独占してくれ」
 シリウス様は甘く囁いて、やはりリーディアに口付けをおとしてくるのだった。














 



 









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