84 / 103
後日談
キール視点:娘は溺愛、母は父の最愛
しおりを挟む俺は、キール=ウィンザー。公爵家の次男だ。
母に似たラベンダー色の髪はクセがあるため、後ろに流し固めるようにしている。父とは目の色が同じだ。顔や性格も父に似ていると言われているが、自分ではあまりわからない。
今は魔導騎士という、魔法も剣技もこなせる騎士を目指して日々鍛錬している。双子の弟とは魔法を競い合い高め合っていたが、シエルは治癒師を目指す様だ。
父に鍛えられ、魔力量はそれなりにある。途中から魔法だけではなく、身体も鍛えれるため叔父の家で剣を習いだした。
父と叔父の仲は良いとはいえないが、自分が魔法ではなく、剣に興味を示したため、仲は一時期に悪化した。自分のせいだとは理解している。
しかし、母が間を取り持ってくれて、関係は修復している。
叔父の家から帰ると妹が庭で遊んでいた。今年8歳になる妹は、この家の宝だ。みんなが可愛いがっている。妹にひどくするやつは絶対に許さない。妹の願いなら叶えてやりたいと思う。
「お兄様!お帰りなさい!」
シェリーが気づいて走り寄ってくる。シェリーはだいぶお転婆だ。
「走らなくてもいい。ドレスで走ると転ぶぞ」
「だって、お兄様が帰って来て嬉しいんだもん」
可愛い妹からの攻撃に胸をうたれ、にやけそうになる。
「そうか・・・。俺もシェリーが出迎えてくれて嬉しいよ」
シェリーの頭を撫でる。
シェリーは嬉しそうに、にこにこしていたが、急にシェリーの身体が浮き、父が現れた。
また転移魔法で帰ってきたのだろう。
「ただいま。可愛いシェリー。父がいなくて寂しかっただろう」
シェリーはきょとんとしている。
「んーん。大丈夫!いっぱいみんなに遊んでもらってたから!」
父は妹の返事に少しショックを受けている。
「シェリー、父上に帰宅の挨拶わすれてるぞ」
すかさず、フォローするためにシェリーに声をかける。
そして、妹はおかえりなさい、パパと言ってほっぺにキスをするのだ。みんなはシェリーが親の真似をしてやり始めたと思っているが・・・。これは、こっそり父が教えた事だと俺は知っている、というか、その現場を見た。
父もシェリーの頬にキスを返す。
シェリーがもっと幼い頃、転移魔法で父は1番に妹に会いに行っていた。だが、いつの間にか2番になっているようだ。キスを仕返したシェリーの頬に口紅がついている。
1番には、母の所に寄ってきたのだろう。俺はシェリーの頬についた口紅を拭ってやる。父は俺の行動に怪訝な顔する。
「父上、そんなに睨まないで下さい。付いていた口紅をとっただけですから」
父は、納得したような顔をし、咳払いをする。
「次からは気を付けて下さいね。周りにばれると、母上がしてくれなくなりますよ」
父は自分の忠告を受け入れてわかったと頷く。
その隙をついて、シェリーを父から解放し、一緒に夕食を食べるため、シェリーの手をとって歩きだした。
父は黙って、後ろをついてくる。本当は自分がシェリーを抱えて行きたいのだろうが、今回は譲ってもらう。
夕食は今日は、兄以外が揃った様だ。
シェリーは、父と母の近くに座り、上手に食べている。昔は甲斐甲斐しく皆んなで世話をしたものだ。父はデザートを食べるシェリーを見続け、顔が緩んでいる。頬にクリームがついたのを指摘するか迷ってもいるようだ。
父の代わりその役は母が拭ってあげていた。それをみても父は更に顔がデレた感じになっている。妻と娘が可愛すぎるとか思っていそうな顔だ。父の態度はあまり小さい頃の記憶とかわらず、家では顔が緩みっぱなしだった。
「シェリーは可愛いな・・・」
父が呟き、シェリーが頬を膨らます。確かにその仕草さえ可愛いと思う。
「パパ、可愛いばっかり!可愛いばっかり嫌!」
何故かシェリーは可愛いと言われるのが嫌だと言った。
「そうなのか・・・。シェリーは言われるのが嫌か・・・。本当に天使の様に可愛いのに・・・」
父は項垂れる。キールも可愛いはなるべく言ってはいけないのを残念に 思った。
「シェリーは自分の王子様にだけ言ってほしいのよね」
父が母の言葉に反応する。
「王子・・・だと。どこの王子だ」
父は目をぎらつかせた。
「例えですよ。貴方が私だけの王子様だったように。シェリーは将来現れる自分の王子様にだけ言ってもらいたいんですって」
母の言葉に、父は少し口元がにやけている。
「・・・なるべく気を付けるようにしよう。では私の可愛い最愛の妻と2人で、庭を散歩してくるとしようか」
父は少したじろいだ母の手をとり、出て行ってしまった。
きっとあそこに行くのだろう・・・。母がたじろぐのもわかる。鍛錬をするようになって、男に囲まれると必然と下品な類の話になる。
兄と話した事もあるが、親の話は絶対にしないように言われた。する気はないが、興味本位聞いてくるやつはどこにでもいる。
大人になれば、父と話すといいと言われたが、まだ自分は大人にならずに、可愛い妹と過ごしたり、鍛錬に時間を費やして過ごしたいと思った。
置いてけぼりにされた感じのシェリーはきょとんとしている。父の方こそ、もうちょっと子どもに配慮をすることを、学んでもらわなければならないないと息子目線ながら思うのだった。
10
お気に入りに追加
512
あなたにおすすめの小説
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ★9/3『完全別居〜』発売
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる