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後日談

キール視点:娘は溺愛、母は父の最愛

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 俺は、キール=ウィンザー。公爵家の次男だ。
 
 母に似たラベンダー色の髪はクセがあるため、後ろに流し固めるようにしている。父とは目の色が同じだ。顔や性格も父に似ていると言われているが、自分ではあまりわからない。

 今は魔導騎士という、魔法も剣技もこなせる騎士を目指して日々鍛錬している。双子の弟とは魔法を競い合い高め合っていたが、シエルは治癒師を目指す様だ。

 父に鍛えられ、魔力量はそれなりにある。途中から魔法だけではなく、身体も鍛えれるため叔父の家で剣を習いだした。

 父と叔父の仲は良いとはいえないが、自分が魔法ではなく、剣に興味を示したため、仲は一時期に悪化した。自分のせいだとは理解している。

 しかし、母が間を取り持ってくれて、関係は修復している。

 叔父の家から帰ると妹が庭で遊んでいた。今年8歳になる妹は、この家の宝だ。みんなが可愛いがっている。妹にひどくするやつは絶対に許さない。妹の願いなら叶えてやりたいと思う。

「お兄様!お帰りなさい!」
 シェリーが気づいて走り寄ってくる。シェリーはだいぶお転婆だ。

「走らなくてもいい。ドレスで走ると転ぶぞ」

「だって、お兄様が帰って来て嬉しいんだもん」
 可愛い妹からの攻撃に胸をうたれ、にやけそうになる。

「そうか・・・。俺もシェリーが出迎えてくれて嬉しいよ」
 シェリーの頭を撫でる。

 シェリーは嬉しそうに、にこにこしていたが、急にシェリーの身体が浮き、父が現れた。
 また転移魔法で帰ってきたのだろう。

「ただいま。可愛いシェリー。父がいなくて寂しかっただろう」
 シェリーはきょとんとしている。

「んーん。大丈夫!いっぱいみんなに遊んでもらってたから!」
 父は妹の返事に少しショックを受けている。

「シェリー、父上に帰宅の挨拶わすれてるぞ」
 すかさず、フォローするためにシェリーに声をかける。

 そして、妹はおかえりなさい、パパと言ってほっぺにキスをするのだ。みんなはシェリーが親の真似をしてやり始めたと思っているが・・・。これは、こっそり父が教えた事だと俺は知っている、というか、その現場を見た。

 父もシェリーの頬にキスを返す。

 シェリーがもっと幼い頃、転移魔法で父は1番に妹に会いに行っていた。だが、いつの間にか2番になっているようだ。キスを仕返したシェリーの頬に口紅がついている。

 1番には、母の所に寄ってきたのだろう。俺はシェリーの頬についた口紅を拭ってやる。父は俺の行動に怪訝な顔する。
 
「父上、そんなに睨まないで下さい。付いていた口紅をとっただけですから」
 父は、納得したような顔をし、咳払いをする。

「次からは気を付けて下さいね。周りにばれると、母上がしてくれなくなりますよ」
 父は自分の忠告を受け入れてわかったと頷く。

 その隙をついて、シェリーを父から解放し、一緒に夕食を食べるため、シェリーの手をとって歩きだした。

 父は黙って、後ろをついてくる。本当は自分がシェリーを抱えて行きたいのだろうが、今回は譲ってもらう。
  
 夕食は今日は、兄以外が揃った様だ。

 シェリーは、父と母の近くに座り、上手に食べている。昔は甲斐甲斐しく皆んなで世話をしたものだ。父はデザートを食べるシェリーを見続け、顔が緩んでいる。頬にクリームがついたのを指摘するか迷ってもいるようだ。

 父の代わりその役は母が拭ってあげていた。それをみても父は更に顔がデレた感じになっている。妻と娘が可愛すぎるとか思っていそうな顔だ。父の態度はあまり小さい頃の記憶とかわらず、家では顔が緩みっぱなしだった。

「シェリーは可愛いな・・・」

 父が呟き、シェリーが頬を膨らます。確かにその仕草さえ可愛いと思う。

「パパ、可愛いばっかり!可愛いばっかり嫌!」
 何故かシェリーは可愛いと言われるのが嫌だと言った。

「そうなのか・・・。シェリーは言われるのが嫌か・・・。本当に天使の様に可愛いのに・・・」
   父は項垂れる。キールも可愛いはなるべく言ってはいけないのを残念に 思った。

「シェリーは自分の王子様にだけ言ってほしいのよね」
 父が母の言葉に反応する。

「王子・・・だと。どこの王子だ」
 父は目をぎらつかせた。

「例えですよ。貴方が私だけの王子様だったように。シェリーは将来現れる自分の王子様にだけ言ってもらいたいんですって」
 母の言葉に、父は少し口元がにやけている。

「・・・なるべく気を付けるようにしよう。では私の可愛い最愛の妻と2人で、庭を散歩してくるとしようか」
 父は少したじろいだ母の手をとり、出て行ってしまった。

 きっとあそこに行くのだろう・・・。母がたじろぐのもわかる。鍛錬をするようになって、男に囲まれると必然と下品な類の話になる。

 兄と話した事もあるが、親の話は絶対にしないように言われた。する気はないが、興味本位聞いてくるやつはどこにでもいる。
 大人になれば、父と話すといいと言われたが、まだ自分は大人にならずに、可愛い妹と過ごしたり、鍛錬に時間を費やして過ごしたいと思った。
 
 置いてけぼりにされた感じのシェリーはきょとんとしている。父の方こそ、もうちょっと子どもに配慮をすることを、学んでもらわなければならないないと息子目線ながら思うのだった。

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