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56.思いの内
しおりを挟む声が聞こえた方を振り返ると、シリウス様がいた。だいぶ服装も髪型も乱れている。
「本当に君があの時の少女だったんだな・・・」
シリウス様は近づいてこられ、リーディアの髪に手を伸ばした。
シリウス様が髪を一房手にした事で、リーディアは自分の髪が夕日で、オレンジ色に見えていた事に気がつく。
シリウス様の髪は赤く光って見える。
ずっと、オレンジの髪と言われていたのは、あの時のリーディアも、髪が夕日に染まっていたからだろう。
幼い頃だし、シリウス様は、勘違いして記憶してしまっていたようだ。
シリウス様は、申し訳なかったという表情で見つめてくる。
「髪の色だけで決めつけ、勘違いして、君を傷つけてしまった。密かに探していた少女は、こんなに近くにいたというのに」
シリウス様は、抱きしめようとされる。
だが、リーディアは、後ろへ下がり、シリウス様をかわした。
シリウス様は、リーディアにかわされた事で傷ついた表情をされるが、リーディアには怒りが沸いていた。
「なぜ私が傷ついたと思われるのですか・・・。私は傷ついたなんて言ってはいません。あの時の少女だからどうしたというんですか・・・、今の私には関係がない事です」
リーディアは、自分をシリウス様が探しに来たのは、あの時の少女がリーディアだとわかったから、来たのだと理解した。
つまり、リーディアがその少女でなければ、今シリウス様はここにはいないということだ。今の自分を探しに来てくれたのではない・・・。
シリウス様が探していた少女がリーディアだとしても、リーディアは、自分から名乗り出る気は無かった。
子爵令嬢が、あの時の少女だと勘違いされていたとしても、リーディアは、シリウス様が違うと気付いて、今の自分を見てくれるのではないかと。
同一人物だと気付かれなくても、今の自分を選んでもらいたかった。
あの時の少女だとわかったからと、好意を向けられても、リーディアはもう素直に喜ぶ事はできない。
「君に出会ってから、令嬢達と交流しないといけない時は、つい君を思いだし、比べていた。いつの間にか君を好ましくもっていた事に気がついて、探してまた話したいと思っていた」
「話なら、いつもしていたではないですか。今更、改めて話す事はありません」
リーディアは、今更話したいと言われても、素直になれない。
「私が愚かなのはわかっている。君があの少女だと気づかず、髪の色だけで判断していた。あの少女に惹かれたのは髪の色ではないというのに」
シリウス様は、リーディアに近づく。
「私が好ましく思ったのは、泣くのを我慢して笑った笑顔と、その強い心にだったはずなのに・・・。いつの間にか探す事に躍起になり、見つけたと思い込んで、今の彼女を見ていなかった。だから、人に言われるまで気づけなかった」
シリウス様はリーディアの手を取り、膝をつく。
「君があの少女だと、気付き困惑した。だが嬉しかった。また、君に惹かれたんだと。私は君が・・・ディア嬢が、すきだ。あの少女が君とは別であの子爵令嬢だったとしても、今私が惹かれていたのは君だと言える。あの時は、意地が悪い態度をとったのも理解している。私は、君に惹かれている自分を誤魔化していた。ジルベルトの妹だったから。意地になっていたのかもしれない」
シリウス様はリーディアに打ち明けた。リーディアはシリウス様が自分をすきだと言ってくれ、泣きたくなった。だが、今のリーディアの心情では返事をする事ができなかった。
「今はまだ、返事はしなくてもいい、私が君を思っている事を知っていて欲しい。これからも、君に思いを伝える事を許してくれ」
リーディアは頷く。シリウス様は、柔らかい笑みを浮かべ、戻ろうと言い、転移魔法を使用した。
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