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29.母親
しおりを挟む辺境伯領を訪れてからずっと憂鬱で、学園でもレティシアに心配されてしまった。
あまり学園で話せる事でもないし、人に聞かれたくないため、後日レティシアの家にお邪魔する事になった。
お邪魔した日はシリウス様はおらず、庭のガゼボでお茶を用意し人払いをしてから話した。
「辺境伯は確かに見た目はいいと思うわ。私も王城でのパーティで挨拶した事あるし、その時もダンスの申し込みとかひっきりなしだったと思うわ。権力もあって、強くて、男らしくて、見目もいい。となると、結婚相手としては好条件よね」
レティシアは率直な感想を言う。
「そうね。表面的にはいい条件でしょうね」
リーディアは俯く。
「でも、ディアのタイプではないし、生理的に無理だと思ったんでしょ?」
レティシアは、リーディアの顔を覗きこむ。
「うん。ライナス様に見られて、鳥肌たつくらいにはね」
「それを、お父様に話したら?変な話ではないんじゃないかしら。生理的に無理な相手となんか結婚なんてできないわよ。それに本人の意思が尊重されるんだから、言ってもいいのよ?言わなくて後悔なんかしたくないでしょ」
レティシアは、白黒つけ、自分の意見は突き通すタイプだ。しっかり意見してくれる。
「ありがとう。聞いてくれて、話してみる気になったわ。家には相談できる女性はいないから、言いにくいかったの」
母がいれば、自分の気持ちを相談できたかもしれない。
「ディアの相談ならいつでものるわ。まぁ母親が居ても私は相談なんてしないけどね。うちの母は私と趣向がにているけど、意見がぶつかっちゃって、よく喧嘩になるのよ」
レティシアは母とよく喧嘩をするというが、そういえば、屋敷でも挨拶はまだしてなかったなと思った。
レティシアの母ということは、シリウス様の母親でもある。シリウス様の母はシルヴィア様といって、シリウス様を女性にしたような容姿をしている。
スレンダーでぴったりと体に合うドレスが似合う、社交的で、レティシアと違ってキリッとした目で、迫力がある美人である。喋り方はシリウスと似ているらしい。
今日はシルヴィア様が屋敷にいるらしいから、邪魔されないように外の屋敷から離れたガゼボにしたのだと、レティシアは言った。
「母は、私と趣向は似ているから、絶対にディアを気に入っちゃうと思うの。だから、取られたら嫌だから会わせたくないのよ」
レティシアはシルヴィア様からわざと、遠ざけていたようだ。そっぽをむいたレティシアは、つらつらとシルヴィア様と喧嘩した内容について話し出す。
リーディアは聞き手にまわっていた。
風が吹いて後ろから薔薇の香りがし、誰かに抱きつかれた。柔らかさからして女性だろう。殺気がないため、リーディアは身構えはしなかった。
「何やら、私の悪い話が聞こえたが、友に話す内容にしてはつまらないのではないか」
シルヴィア様がリーディアを背後から抱きしめてきたようだ。
「お母様!いつの間に!ちょっと、ディアにくっつかないで頂戴!」
レティシアはシルヴィアからリーディアを引き剥がして、顔を見られないように抱きこめられた。
「何を必死に隠しているかと思えば、お前の婚約者の妹か。隠さずに顔を見せてごらん」
シルヴィアは、リーディアをレティシアから引き剥がし、じっくりと顔と身体を舐めるように見た。
シルヴィアの様の視線に、シリウスに見られている感覚になって、ゾクリとしてしまった。
シルヴィアは至高の笑みをリーディアに向け、手を引いてきた。
「さぁ、こっちへおいで。よい逸材じゃないか。腕がなるねぇ。久々に本気が出せそうだ」
レティシアは、つれさられそうになっているリーディアを必死に体に縋って止めている。
「だから!お母様には合わせたくなかった!取られちゃう!つれさられちゃうー!リーディア!抵抗して!つれさられたら最後よ!数日監禁なんだから!」
レティシアは怖い事を口にしている。リーディアはレティシアの必死さと、シルヴィア様の表情を見て、本当に監禁されかねないと悟った。
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