21 / 102
20.婚約発表
しおりを挟むついに、婚約発表の日だ。その日は、シリウスの率いる魔導師団が、物理攻撃の効かぬ魔物を討伐するため、いない日だった。
レティシアと、ジルベルトは婚約式を、シリウスに邪魔されない様にするため、あえてシリウスがいない日を選んでいた。
婚約式は、教会で行われる。双方の相違がないことを、神の前で誓うのだ。そして、両家で事前に話し会われた契約書が読み上げられる。読み上げる事で、皆に内容を知らしめ不正が起こらぬように水晶へ記録される。
お互いに契約書を持つが、把握するためだけの意味をもつ。契約書に違反がある事をすれば、決められた、対価を払う事になる。
婚約式は無事に終了した。レティシアとジルベルトの婚約が成立したのだ。
しかし、予定とは違うことが起きる。予定より早くに討伐を終えたシリウスが帰還してきたのだ。
シリウスは婚約式の事を知り、凄まじい冷気を放ちながら、教会に乗り込んできた。ジルベルトに射抜かんばかりの鋭い視線を向けている。
リーディアはシリウスの鋭い視線に、胸が苦しくなった。次にあの視線を向けられるのは自分だと、わかっているから。
シリウスはローブをはためかせ、威圧しながらジルベルトに向かい合った。
「貴様が、シアと、私の妹と婚約だと。ふざけるな」
シリウスの声は地を這う様に低く、今にも掴みかかんばかりの勢いだ。
「ふざけてなどいない。本気でなくては、婚約式などしない。契約書の内容も、彼女が望んだものばかりだ。シアが望むものを俺は全て捧げる。命と言えば、それが彼女の望みならさしだそう。」
ジルベルトは真剣に、シリウスに向きあい、レティシアへの思いを言葉にする。
「納得など、できるか。貴様になど、妹をやれる訳がないだろう」
シリウスはジルベルトのいう事は受け入れられない様子だ。
レティシアが、ジルベルトの横に並び、シリウスを見据える。
「お兄様。伝えるのを黙っていてごめんなさい。私はジル様をお慕いしています。お兄様が彼を気にいらない事はわかっています。けれど、それは私には関係ありません。彼が私を裏切る様なことがあれば、怒っていただきたいですが、そうでないなら、お兄様には私が好きな方と結ばれるのを祝ってほしいのです」
レティシアはシリウスに切に願う事を伝える。シリウスの眼光はレティシアの言葉に少しだけ鋭さを落とすが、シリウスからの了承の言葉はでない。
シリウスの瞳は、怒りの感情に揺れていて、青い炎を連想させた。その炎は消えそうにはない。
ならば、そのほこ先をかえるしかないだろう。リーディアはシリウスの前に歩み出た。
シリウスの瞳がリーディアをうつす。
「君も、この婚約を知っていたのだろう。知っていて黙っていたんだな。いったいいつから、私は謀られていたのだろうな」
シリウスは、リーディアをゆっくりとした口調で責めたてる。シアの幸せを思えば、黙っている事が1番だとわかる。けれど、シリウスにとっては、裏切りなのだ。
「知っていて、黙っていました。私はシアの親友です。あなたが認めなくても。私が考えるのは親友であるシアの幸せです。あなたが考えるのは、一体誰のための幸せですか。あなたの発言は、シアの事を思っての発言ですか、私にはそうは思えません」
リーディアの言う事は、正論であろう。シリウスは返す言葉もでてこない。
しかし、感情というのは正論であろうが、関係ない。高ぶった感情を鎮める事は難しい。シリウスの放つ冷気は変わらず、視線もリーディアと交わったままだ。
シリウスは一息吐き出すと、リーディアに背をむけた。
「君の言いたいことはわかった。今更交わしてしまった婚約はどうにもなりはしない事も。だが、私が認めるからどうかはまた別だ」
シリウスは、振り返ることなく教会を出て行った。リーディアはシリウスが去るまで、その背を見つめ続けた。
そんなリーディアに、レティシアが抱きつく。
「ごめんなさい。あなたにとって、辛い事をさせてしまって。本当にごめんなさい。兄は私が時間をかけてでも、絶対に納得させるから、あなたとも、また普通に接する事が出来るようになんとかするから」
レティシアは、泣いているのだろう。震えるレティシアに兄が寄り添うように肩をだき、この場を後にするのだった。
婚約式は無事に終わったが、リーディアの恋は、まだ完全には終わりきってはいない。嫌われる存在になったとしても、少しの可能性があるなら、もう少し行動してからでも遅くはないと思うのだった。
0
お気に入りに追加
508
あなたにおすすめの小説
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
官能令嬢小説 大公妃は初夜で初恋夫と護衛騎士に乱される
絵夢子
恋愛
憧れの大公と大聖堂で挙式し大公妃となったローズ。大公は護衛騎士を初夜の寝室に招き入れる。
大公のためだけに守ってきたローズの柔肌は、護衛騎士の前で暴かれ、
大公は護衛騎士に自身の新妻への奉仕を命じる。
護衛騎士の目前で処女を奪われながらも、大公の言葉や行為に自分への情を感じ取るローズ。
大公カーライルの妻ローズへの思いとは。
恥辱の初夜から始まった夫婦の行先は?
~連載始めました~
【R-18】藤堂課長は逃げる地味女子を溺愛したい。~地味女子は推しを拒みたい。
~連載中~
【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身
上司と雨宿りしたら種付けプロポーズされました♡
藍沢真啓/庚あき
恋愛
私──月宮真唯(つきみやまい)は他社で働いてる恋人から、突然デートのキャンセルをされ、仕方なくやけ食いとやけ酒をして駅まであるいてたんだけど……通りかかったラブホテルに私の知らない女性と入っていくのは恋人!?
お前の会社はラブホテルにあるんかい、とツッコミつつSNSでお別れのメッセージを送りつけ、本格的にやけ酒だ、と歩き出した所でバケツをひっくり返したような豪雨が。途方に暮れる私に声を掛けてきたのは、私の会社の専務、千賀蓮也(ちがれんや)だった。
ああだこうだとイケメン専務とやり取りしてたら、何故か上司と一緒に元恋人が入っていったラブホテルへと雨宿りで連れて行かれ……。
ええ?私どうなってしまうのでしょうか。
ちょっとヤンデレなイケメン上司と気の強い失恋したばかりのアラサー女子とのラブコメディ。
2019年の今日に公開開始した「上司と雨宿りしたら恋人になりました」の短編バージョンです。
大幅に加筆と改稿をしていますが、基本的な内容は同じです。
王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。
ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる