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20.婚約発表

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 ついに、婚約発表の日だ。その日は、シリウスの率いる魔導師団が、物理攻撃の効かぬ魔物を討伐するため、いない日だった。
 

 レティシアと、ジルベルトは婚約式を、シリウスに邪魔されない様にするため、あえてシリウスがいない日を選んでいた。


 婚約式は、教会で行われる。双方の相違がないことを、神の前で誓うのだ。そして、両家で事前に話し会われた契約書が読み上げられる。読み上げる事で、皆に内容を知らしめ不正が起こらぬように水晶へ記録される。
 お互いに契約書を持つが、把握するためだけの意味をもつ。契約書に違反がある事をすれば、決められた、対価を払う事になる。


 婚約式は無事に終了した。レティシアとジルベルトの婚約が成立したのだ。


 しかし、予定とは違うことが起きる。予定より早くに討伐を終えたシリウスが帰還してきたのだ。


 シリウスは婚約式の事を知り、凄まじい冷気を放ちながら、教会に乗り込んできた。ジルベルトに射抜かんばかりの鋭い視線を向けている。
 リーディアはシリウスの鋭い視線に、胸が苦しくなった。次にあの視線を向けられるのは自分だと、わかっているから。


 シリウスはローブをはためかせ、威圧しながらジルベルトに向かい合った。
「貴様が、シアと、私の妹と婚約だと。ふざけるな」
 シリウスの声は地を這う様に低く、今にも掴みかかんばかりの勢いだ。


「ふざけてなどいない。本気でなくては、婚約式などしない。契約書の内容も、彼女が望んだものばかりだ。シアが望むものを俺は全て捧げる。命と言えば、それが彼女の望みならさしだそう。」
 ジルベルトは真剣に、シリウスに向きあい、レティシアへの思いを言葉にする。
 

「納得など、できるか。貴様になど、妹をやれる訳がないだろう」
 シリウスはジルベルトのいう事は受け入れられない様子だ。


 レティシアが、ジルベルトの横に並び、シリウスを見据える。


「お兄様。伝えるのを黙っていてごめんなさい。私はジル様をお慕いしています。お兄様が彼を気にいらない事はわかっています。けれど、それは私には関係ありません。彼が私を裏切る様なことがあれば、怒っていただきたいですが、そうでないなら、お兄様には私が好きな方と結ばれるのを祝ってほしいのです」


 レティシアはシリウスに切に願う事を伝える。シリウスの眼光はレティシアの言葉に少しだけ鋭さを落とすが、シリウスからの了承の言葉はでない。


 シリウスの瞳は、怒りの感情に揺れていて、青い炎を連想させた。その炎は消えそうにはない。
 

 ならば、そのほこ先をかえるしかないだろう。リーディアはシリウスの前に歩み出た。
 シリウスの瞳がリーディアをうつす。


「君も、この婚約を知っていたのだろう。知っていて黙っていたんだな。いったいいつから、私は謀られていたのだろうな」
 シリウスは、リーディアをゆっくりとした口調で責めたてる。シアの幸せを思えば、黙っている事が1番だとわかる。けれど、シリウスにとっては、裏切りなのだ。


「知っていて、黙っていました。私はシアの親友です。あなたが認めなくても。私が考えるのは親友であるシアの幸せです。あなたが考えるのは、一体誰のための幸せですか。あなたの発言は、シアの事を思っての発言ですか、私にはそうは思えません」
 リーディアの言う事は、正論であろう。シリウスは返す言葉もでてこない。

 しかし、感情というのは正論であろうが、関係ない。高ぶった感情を鎮める事は難しい。シリウスの放つ冷気は変わらず、視線もリーディアと交わったままだ。


シリウスは一息吐き出すと、リーディアに背をむけた。
「君の言いたいことはわかった。今更交わしてしまった婚約はどうにもなりはしない事も。だが、私が認めるからどうかはまた別だ」


 シリウスは、振り返ることなく教会を出て行った。リーディアはシリウスが去るまで、その背を見つめ続けた。


 そんなリーディアに、レティシアが抱きつく。
「ごめんなさい。あなたにとって、辛い事をさせてしまって。本当にごめんなさい。兄は私が時間をかけてでも、絶対に納得させるから、あなたとも、また普通に接する事が出来るようになんとかするから」

 レティシアは、泣いているのだろう。震えるレティシアに兄が寄り添うように肩をだき、この場を後にするのだった。


 婚約式は無事に終わったが、リーディアの恋は、まだ完全には終わりきってはいない。嫌われる存在になったとしても、少しの可能性があるなら、もう少し行動してからでも遅くはないと思うのだった。
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