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10.お願い
しおりを挟むレティシアはリーディアの話しを聞いて、幼い頃に、確かに兄に同じ魔法をみせてもらったなと思った。
「確かに、兄ね。白いローブきて、氷の魔法。それに今と大差ない口調。」
レティシアは兄がリーディアに出会っていた事を自分に言わないのはなぜかと思った。
「昔から今と口調は変わらないね。今の方がまだ礼儀がある分、優しく感じるわ。あの時、泣けばいいって、泣いて先に進めって言われて、とても救われたの。彼のぶっきらぼうな優しさに助けてもらった。ずっとお礼をいいたかったのだけど、改めてシアに紹介してもらった時にすぐ、いなくなられてしまったから、言えなかったのよね」
リーディアは苦笑いだ。
レティシアもあの日の事はしっかり覚えている。兄にはしっかり、あのあとお説教をして、態度が悪かったから1週間口をきいてあげなかった。
「あの日の兄の失礼な態度は、本当に申し訳なかったわ。ジル様とライバルだとは知ってはいたけど、あんな風にいうなんて、思わなかったのよね。何かあった後だったのかしらね」
「そうなの。私も帰って兄に話したら、何かバツが悪い顔してたし、何かあったんでしょうね。」
「めいわくなお兄様たちよね」
「本当に」
2人は笑いあった。
「それで、婚約発表の準備は順調?」
リーディアはレティシアに問う。
「ええ、兄にはばれないように会って相談できてるわ。ディアに会っているっていえばいいしね」
レティシアは悪気はないのだろうが、リーディアには婚約発表後のシリウスの態度を想像してしまい、不安にかられた。
「それで、今度騎士団の方に行く用事があるのだけど、さすがに、私が行くと言い訳が難しくって、ディアに頼みがあるんだけど」
レティシアは申し訳なさそうだが、何やら楽しそうだ。
「私にできることなら、構わないけど」
「ありがとう!!リーディアについて私も騎士団に行ったって事にしたいから、一緒にいってほしいの」
レティシアがシリウスに使う言い訳として、リーディアから誘われた事にしたいようだ。
「なら、今度模擬戦をする予定があったから、私の応援に来たことにしたらどうかしら」
「え?ディアが?模擬戦?剣をつかって?」
レティシアは驚いている。
「小さい頃に母が喜んでたから、兄ともよく鍛錬していたわ。それが、ある程度習慣になってるの。感覚が鈍らないように、何か起きた時のために、しておかなくてはならなかったから。うちの領地は、国境に面しているし、気をつけるに越した事はないわ」
リーディアはレティシアに、嫁いでくるのだから、心構えをさせるつもりで話しを続けた。
「今は何も問題ないのだとしても、人同士の争いが絶えない時はないし、魔物のスタンビートだって起こり得る。その時に備えておくことは大事よ。シアも嫁いできたら、何かしら身を守る術は身につけないといけないわ。兄はシアを守ってくれるだろうけど、守りながらは戦うのは不利になりやすいから」
リーディアはレティシアの顔をみた。つまりは、守られる存在では困ると厳しいことを伝えている。
「ディア。ありがとう。ジル様の変わりに私に伝えてくれてるのよね。戦うことは難しくても、逃げる事なら可能よ」
リーディアはそういうと、耳飾りを指差した。
「これね。実はお兄様が私が危険な目に合った時に、移動ができるようにしてあるの。」
リーディアはいつも耳飾りは同じなのはなぜかと思っていた。たまに、色が違っていたように思うが。
「確かに、これがあれば、大丈夫ね。安心したわ。」
リーディアの心配は杞憂に終わったようだ。ちょっぴりシリウスに大切にされているシアが羨ましかった。
「ええ、お兄様に感謝だわ。そんな兄を騙してて申し訳ないとはおもうけど、ディアもよろしくね」
リーディアの幸せな時間は、もうすぐ終わりを迎えることに、気持ちが沈む。シリウスに秘密を作りシアに協力する自分は彼にどう映るのかも、不安だった。
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