好きな人は兄のライバル〜魔導師団団長編〜【本編完結】

ドール

文字の大きさ
上 下
10 / 103

9.ローブの少年

しおりを挟む
 

 白いローブをまとった少年があたりを見渡している。

「ここは、、。どこだ?まだ思ったより、自由には扱えないようだ。イメージがはっきりしないところは難しいということか」  


 少年は1人でしゃべっていたが、いきなり振り返りかえった。ローブの少年と目があう。綺麗な男の子だなと思った。自分よりは年上だろう。兄と近い年齢かもしれない。
 

「子どもがこんな時間に、1人で何をしている」
 自分も子どもだろうに、ずいぶんえらそうな態度だった。まるで兄のようだ。
 
 何か言おうとするが、言葉にならない。見ず知らずの彼に話す事は何もない。リーディアは俯く。


「なんだ?しゃべれないのか?それとも話すつもりがないのか?」

 少年はリーディアに対して、淡々と話しかけてくる。


「話すつもりがないなら、早く帰るんだな。時期に暗くなるぞ」


 リーディアははっとする。帰らなければ。何も言わずに飛び出してしまった。みんなは探しているかもしれない。

 でも、なかなか足は動こうとはしない。帰りたくない。
まだここにいたいと思ってしまう。楽しかった、母との思い出がある場所に。


 少年は俯いて動かない自分を、不審に思ったのか
「どこか、怪我でもしているのか?」
 
 急に優しい言葉にリーディアは、顔をあげる。
少年はリーディアの顔をみて、しまったという表情をした。


「つけあがるなよ。気になっただけだ。送るなんてしないからな」
 少年は視線を一瞬逸らしたが、またじっとリーディアの顔を見て言った。

「泣いていないんだな。」

 
 リーディアは首をかしげる。

「1人でこんな所にいるんだ。何かあったのかと思うのが普通だろ。」
 少年は素っ気なく言う。


「でも、泣いてはないわ。泣いても、どうにかかなるわけじゃないし、悲しませるだけだから泣けない。みんなを元気にしないといけないから泣かないの。」
 リーディアは笑った。


「・・・そうか。・・・女なのに泣かないなんて、変わってるな。女は泣けば気をひけると思ってる節がある。優しくすればつけあがる。だから、泣く女は嫌いだ。でもお前は泣かなかったから、特別にいいものをみせてやるよ」
 少年は呪文を唱え、片手を空に向けた

 空には小さな氷が砕け、宙をまった。さまざまな光が周りにちらばり、氷と反射しあう。小さな氷の粒が一箇所にあつまり花のつぼみの形になった。そして、つぼみが開き大輪の氷の花が咲き、煌めいた。


「すごい!綺麗、、」
 リーディアは空を見上げ、笑顔になった。

「妹に見せようとして、練習したんだ。特別にみせてやるんだから感謝するんだな。1人で泣くならいつでも泣けばいい。泣いて辛いことを乗り越えろ。そういう泣き方は嫌いじゃない」
 
後ろから馬の蹄の音が聞こえてくる。
「どうやら、迎えが来たようだな」

 少年は来た時と同じように消えてしまった。また、私が1人にならないでいいように、帰らないでいてくれたみたいだ。

 
 少年が消え、父と兄が馬で駆けてきた。父は、いなくなった私に気づいて必死に探してくれていたそうだ。兄が私がいなくなったことを伝え、母から預かっていた手紙を渡したらしい。


 母からの手紙には、残した大切な宝物。子供たちをよろしくと、幸せな時間が過ごせて、本当に幸せだったのだと。みんなの思い出の中で、ずっとこれからも生きていくから、いつものみんなでいてほしいと書いてあった。
 

 父は母の手紙を読んで、我に返ったようだと兄が言っていた。迎えにきた父は、強く私を抱きしめてくれた。
 
 私は父を抱きしめかえして、父の泣きだしそうな顔をみて、笑った。



 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...