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8.追憶
しおりを挟む「お兄様ね、あれからずっと話しかけても、なかなか返事をしないし、帰りも遅いのよ。いったい、何をしてるのかしらね」
レティシアはリーディアにシリウスの状況を話していた。あれから、ひと月たつが何も音沙汰はない。
リーディアは少し不安になっていたところだった。
「最初は悩んでるみたいだったから、ディアが喜びそうな事をいろいろ、話してたんだけど。転移魔法を頻繁に使って、私の呼び出しで帰ってくるのに驚いていたって話をしたら、何か思いついたみたいよ。」
「なら、楽しみに待ってることにするわ」
リーディアは、初めてレティシアの家に招かれた茶会の席を思い出す。
あの日は、シリウスが屋敷に居り、兄にレティシアが親友であるリーディアを紹介した。
親友と紹介され、笑みをみせていたシリウスだったが
リーディアが名乗ると、家名に気づいたとたん、表情が一変した。
「あいつの妹が、私の妹の親友だと。ありえないな。シア、付き合いは考え直したほうがいい。」
と、去っていったのだ。
あの日のシリウスの冷たい目は忘れない。初恋だと自覚した日から、シリウスとまた話せる事を夢みていたリーディアにとって衝撃的だったのだ。
それが何かの間違いだったかのように、ダンスを踊れた、名前を呼んでもらえた、自分のために悩んでくれている。それだけで、リーディアは満足だった。
「でも、リーディアは兄と面識は今までなかったでしょ?あの兄を見てどこを好きになったの?やっぱり顔?」
レティシアは楽しそうだ。
「んー。顔は確かに美形だし。好きだけど。私が初めて会ったのは、8歳になる前あたりかしら。母が亡くなってまだ、喪があけてない時期だったわ」
リーディアは目を閉じ、その時の事を思いうかべる。
リーディアの母は、身体が弱く。社交に出る事なく屋敷にずっといたのを覚えている。身体は弱かったが、できるかぎり自分達を愛してくれ、いつも笑顔を絶やさなかった。父は母をとても大切にしているのがわかるくらい、溺愛していた。母が体調を崩すと、当時騎士団長であった父は、すぐ家に帰って来ており、よく母に怒られていた。
母は、私たちが、父の様に剣を振るう姿をみて、とても喜んでいた。母が喜ぶのが嬉しくて、たくさん練習だってした。きっと、母は、私たちの身体が丈夫な事が嬉しかったんだと思う。
私と兄は、母似で髪の色は父に近い。とくに私は、母に似ていて、ラベンダー色の髪だけが違う。
兄は黒髪に見えるが、光が当たれば紫がかっている。
母が亡くなり、豪胆で、豪快な性格だった父が、みるからに塞ぎ込んで、仕事も手につかなくなった。
自分達が関心を引こうとしても、父には私たちの声は届かなかった。
なんとか父の関心を引こうとしたけど、結局だめで、そんな状況が続いて家にいるのが、苦しくなって屋敷を飛び出した。
気づけば、母と唯一出かけた丘の大きな木がたっているところまで来ていた。
そこからは屋敷がみえる。前に母と来た時にみた屋敷とは違うものに見えて、もっと苦しくなった。
屋敷全体が暗く感じる。
私はまだ、母が亡くなってから、泣けていなかった。泣けば父が泣けないだろうから。困るだろうから。母がいなくなって、みんな悲しいはずだから。
これ以上、母が大切にしていた場所が変わってしまうのは耐えられなかった。
みんなの笑顔が早く元に戻るように、母との思い出の場所を壊さないように。泣く変わりに笑うようにした。
いつまで、そこにいたかわからない。日が暮れて、あたりが夕日で赤く染まり、急に寂しく感じた。感情が揺さぶらる感じがした。
沈みそうな太陽を見ていたら、急に風が吹きつけ目を瞑る。目を開けるとローブをきた誰かがたっていた。
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