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4 中等部3年 高辻 慧麻

1 由緒あるΩ

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 登校早々、あの一件があって朝から何となく落ち着かない。

 いつもと変わらない始まりだったらこんなこともないのに、いつもと違うことが起きるとその日1日が良いようにも悪いようにも転んでしまうのは自分自身の勝手な見解なんだろうけど、これがまた自分の思い込みじゃなかった。

 朝のHRが終わって次の授業の準備をしようと、机の中から教科書を探ってたとこに
「新田ぁ、朝から災難だったって?」
 机の中を探ってた視線を向けると、いつの間に居たのかクラスの友達が数人で僕の机を囲んでた。
「‥‥へ?」
 何のことだかさっぱり。
「中等部の高辻って奴に朝から絡まれたって‥‥?」
 別な友達が怪訝そうな眉をして言った。
(え…っと?高辻‥‥?)
 記憶を辿っていくと、そうそう、朝から一悶着あって…確か、莉久くんが“高辻 慧麻”って呼んでた子が頭に浮かんだ。
「あ~ぁ、あのことねぇ‥‥ま、僕も不注意だったんだ」
「よくそれで済んだよなぁ」
 またその横に居た友達が苦笑いしてる。
「新田、気をつけろや。あいつちょっとなぁ‥‥」
 意味深にそう言うから気になるじゃない?
「え?なに?なんで?」
「まぁ、あいつもだけど、あいつに取り巻いてる連中が居たろ?それがウザイんだよねぇ」
「そ~!すっげぇウザイ」
 僕の机を囲んでる友達がみんなすごく嫌そうな顔して言った。
(ど、ゆこと?)
 よく分からん。初めて会った子だし、状況が状況だったからそんな風に言われても‥‥

 それから――僕の頭の中で、振り返ってこっちを見てた高辻 慧麻って子の顔が何度も何度も浮かんできた。

 朝、教室に入って自由に自分の席を決める。その日1日は自分が決めた席で授業を受ける形だから、机の中はほんと、必要なもの以外は入ってない。次に誰が座る席か分かんないからね。常にきれいな状態で教室は使用されてる。ある意味、自分の身の回りの整理整頓の習慣が身につくよ。

 授業中なのに頬杖を付きながら窓の外へ視線を向ける。
 今日は窓際の席の前から2番目の席。智哉くんは、朝のうちにサッカー部の顧問の先生に用があるからって後から教室に入ったから、廊下側の後ろから3番目の席だった。
(なぁんでみんなあの子のこと毛嫌いするんだろ…)
 駐車場の敷地を挟んで校庭の樹の間から中等部の校舎が見えてる。
(パッと見た感じでも目立つ子だったから、みんなそれが気に喰わないとか?まぁよくあるよね、目立つ子って鼻につくみたいな?)
 そんなことを思いながらぼんやりとその風景を見てた。
(あとで智哉くんに聞いてみよ)




 「智哉くん、お昼どうする?」

 いつもみたいに智哉くんとお昼を過ごすつもりだったんだけど
「ごめん、川口先生とミーティングしなきゃいけないから先食べてて」
 机に置いてた教科書をカバンに片付けながら智哉くんは急いでる風だった。
「あ…分かった」

 川口先生とは、サッカー部顧問の先生のことだ。
 智哉くんはサッカー部の2学年リーダーなんだ。それで、打ち合わせや2年生部員の状況を先生と伝達し合うためにちょくちょくこうやって呼び出される。忙しいみたいだけど、大好きなサッカーしてて、智哉くん自身、高校生活を満喫してるって楽しそうに話してくれたことがあった。

 そんなとこに

「新田ぁ、昼飯一緒に行かね?」
 ってクラスメイトの竹内くんが誘ってくれた。
「うん」
 竹内くんと他にクラスメイトの5人で今日のお昼はカフェテリアへ。



 カフェテリアっていわゆる“学食”なんだけどさ、どこかのショッピングモールのフードコートみたいで、入り口にはメニューの看板がオシャレな感じで立ってる。
 中に入るとこれまた学校とは思えないスペースで、ガラス張りの内装は、中庭から入ってくる陽射しですごく明るい雰囲気なんだ。それに、中庭にはテラス席まであって、心地いい風の中で友達とお昼の団らんを過ごしてる生徒もいる。

 僕たちは中の方の席に座ってお昼の時間を過ごしてた。

 僕を誘ってくれた竹内くんは入り口でカツカレーのチケットを買ってセルフで装って持ってきた。テーブルにカツカレーの乗ったトレイを置きながら竹内くんは
「新田、あの高辻って奴になんか言われたの?」
「‥‥え‥‥?」
 うわ。ここでもまた?聞く?
「てかさぁ…あいつもだけどその周りに媚びてる奴ら?あれどうにかなんないかねぇ」
 僕の横に座ってる谷屋くんは普通のカレー(大盛だけど。)をスプーンでかき混ぜながら迷惑そうにそう言うんだ。
「そう!高辻専属取り巻き?みたいな?」
 って、今度はその横に座ってた平山さんは持参のお弁当のウィンナーを頬張りながら勝手にそんな名前つけて言ってた。
「あのさ…なんでみんなそんな風に言うの?」
 いや…ただ僕はその状況を知りたかっただけなんだ。
「いやいや。新田の方こそ朝から取り巻きの連中にガタガタ言われて何ともねぇの?」
「そうそう!高辻の周り囲ってキャーキャー言ってんの朝からうるさいって」
「俺が新田だったら睨みつけてやるけどな」
 一気にみんなして捲し立てるんだもん。
「あ…いや…でも‥‥」
 なんも言えなくなっちゃうよぉ。



 「あぁぁぁ!!充稀ぃぃっ!!」

 え?どこに居た?今、来た?

 どこから湧いてきたのか、この声は
「莉久く…ん‥‥」
 そのおっきな声で呼ぶのやめてくれる?
 周囲の視線を気にしながら、せっかくのお昼のひと時が台無しだよ。
 僕を見つけたみたいで、すぐさま僕の横に座ってた谷屋くんに席をずるように半ば強制的だよ?無理やり隣に入り込んで座ってきた。
「もぉ。ここで食べてるんなら言ってくれればいいのに。俺も一緒に昼飯食べれたのにぃぃ」
 莉久くんはぷぅっと頬を膨らませる。
「金井くん、もうお昼済んだの?」
 平山さんがそう言いながら莉久くんの顔を覗き込んで少しだけ頬を赤くしてた。
「ん。昼からの授業で使うプロジェクターの準備を先生に頼まれてたから、ちょっと早めに行かなきゃ…」
 オリーブグリーンの髪をクシャっと掻いた。

「金井も朝からあいつらに巻き込まれたんだって?」
 竹内くんがニヤって笑って言った。
「巻き込まれたんじゃなくて、俺は充稀を守っただけ」
「はい、はい」
 椅子に背中をつけて胸を張るみたいにして莉久くんは恥ずかしげもなくさらってそう言うけど、こっちの方が恥ずかしいから…僕はちょっとだけうな垂れた。

「でもあいつって、いいとこの坊ちゃんなんだろ?」
 谷屋くんが持ってたスプーンを目の前でくいくい動かしながらそう言うと
「そうそう。それに優秀な家系で…しかもそれがΩ系らしい」
 竹内くんはこそっと話すようにして上半身を乗り出した。

(え?あの子ってΩな…の…?)

 それに、優秀な家系って―――

 意外だった。あんなに目立つ子だし、容姿も文句なく完璧で、まあまあ名の知れた島澤学園ここの生徒だし、誰が見てもエリートαじゃない?
 僕はその会話が気になってうな垂れてた首を上げて
「でも…でも、なんでみんなそんなにあの子のこと‥‥」
 気になってたことを聞こうと思って口を開いたすぐに
「こっほん。高辻家って昔から繁殖系統の家系で、番になるαは誰だっていいわけじゃない。いくら容姿や学歴がよくっても高辻家に選ばれたαじゃないと受け入れないんだって。エリート中のエリートαを厳選してもっと質のいい子孫を残していくってのが高辻家Ωの謂われらしいよ」
「あたしちゃんと調べたんだから~」って平山さんがぐんと背筋を伸ばして「どうよ?」みたいにして話してくれた。

 お~~~!そんなとこまで調査済みだとは。


「んなの俺が噛み潰してやる」
 その話を聞いてた莉久くんが揶揄するように笑って言う。
「よく言うよ。充稀、充稀ってばっか言ってるお前が」
「そんな血筋がなんだよ。俺はそんなんに負けねぇαだっつ――のっ」
 莉久くんだからそんな開けっ広げに言えたもんだよ。
 竹内くんは呆れて苦笑いしてた。

 破天荒なαが血統書付きのΩに噛みついたらど―なるんだろ。

 そんなことを思いながら食べ終わったお弁当を片付けてたら
「充稀、ちょっと時間ある?」
 莉久くんがちらっと僕の方を見てニコリと笑う。
「なに?」
「次の授業で使うPCも借りに行きたいんだけど…時間あったら付き合ってよ」
「ね」って。ほら、きた。爽やかな笑顔でそうやって取り込むんだから。
 莉久くんのそ―ゆうところ、悪気がないから「しょ―がないか」で受け入れちゃうんだよね。もう慣れちゃったけど、何度向けられてもその笑顔にこんな僕でもキュンとしてしまう。

(うぅ…自己嫌悪)

 智哉くんもミーティングで居ないし、どうせなんにも予定ないから莉久くんの用事に付き合うことにした。
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