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2 僕の世界は180度変わってた話
5 回想
しおりを挟むお昼は教室で智哉くんと一緒に持参のお弁当を頂く。
2階の東棟にはカフェテリアもあって、そこでお弁当を食べる子もいれば、買ってきたお昼をそこで済ませる生徒もいるみたい。
4時限目終わってからそこに設置されてる自販機で智哉くんはお茶を、僕はパックのバナナ・オレを買っていつものように教室でゆったりと昼休みの時間を過ごしてた。
「あのさ‥‥」
僕は智哉くんに言いたいこと、聞きたいことがいっぱいあった。何からどこから話したらいいか頭の中で順を追って言葉に出そうとする。
「知ってる。充稀はあん時の事故の後遺症があるかもしれない…って」
「え?なんで?それを知ってるの?」
まさか、智哉くんの方からそのことを聞くなんて思ってもなかったから、食べようとしてたご飯がぽろっと箸から落ちた。
「充稀の姉さんに聞いた。まだ充稀が意識が戻んなくて入院してた時、何度か俺、病院行ったんだ。そん時に充稀の姉さんに会って、事情を聞いたんだ」
「‥‥あ…そう…なの」
智哉くん、僕のことずっと心配してくれてたんだね。
「今さらだけど‥‥ありがと」
智哉くんがちょっと照れくさそうに笑った。
僕たちはそれからのことや自身のことなんかいっぱい話しした。
でも、さすがに兄様たちのことは話せなかった。
「そっか。智哉くんサッカー部なんだね」
好きだったサッカーを今の智哉くんも続けてるんだ。
かという僕は‥‥体力がないのは変わってない。もちろんやりたいスポーツはあるけど、ま、応援してるくらいがちょうどいいかな。
話の中であの莉久くんもサッカー部だってことを知った。だから‥‥智哉くん繋がりで莉久くんは僕のことを知ってるんだね。
「ごめんな充稀。莉久の奴、あんなことばっか言って」
どうしてだか智哉くんの方が体裁が悪そうに苦笑いしてた。
「ううん。大丈夫。それより、莉久くんてハーフなの?」
見た目からして気になってたんだけど
「ん—…なんか、おばぁちゃんがドイツ人らしいことは話してたけど‥‥小さいうちは向こうに住んでたらしいけど。父親の仕事の関係で日本にいる方が長いって言ってた」
「へぇ――…」
どうりで、日本人離れした顔立ちなんだ。
「将来はあっちでサッカーしたいってことも言ってた」
「へぇ、すごい。現実的な夢だね。何年後かはドイツのプロチームに入ってたりして」
なんておちゃらけて言ってみたけど、莉久くんならやりそう。何の根拠があるのか、どこからくる自信なのか、莉久くんのあの笑顔を見たら、どんな風だって帆に受けて進んで行きそうな気がした。
非の打ち所がない容姿に、普通科コースだからそれなりに頭もいいんだろうし、ドイツへ行ってサッカーやりたいってくらいの自信があるようだからスポーツも熟せる多才な人なんだ。持って生まれたエリート人種ってやつ?羨ましいよ。
「あ、そういえば‥‥智哉くん、生体検査って知ってる?」
多才でエリート気質を持つのがα性の特性らしいけど、莉久くんの姿を思い浮かべてたら生体検査のこと思い出して、世間一般、どの人もみんな生体検査を受けるのかなって思って智哉くんにも聞いてみた。
「ん、知ってる。充稀は受けたの?」
「まだ…今朝、姉さんから通知が来てるってこと聞いたんだけど。智哉くんは?」
「んぁ――俺もまだ‥‥なんか面倒っちいって思ってさ‥‥」
智哉くんは頬杖をつきながらマウスを軽く動かしてる。
(だよね‥‥)
わざわざ何の得があって生体検査なんか受ける必要があるのか?って思えば別に重要なことでもなさそうだし、自分の生体って当てはめていけば自ずと憶測の答えに辿り着く。
エリート気質でもなければ、生まれてこの方、発情期なんてのも起きたこともない。
(姉さんも言ってたけど、僕もβ家系なんだろう)
PCの画面がぼんやり見えてた。
(だから僕は‥‥)
兄様たちの子どもも産めない。
必要とされなくなっちゃったのかな。
(だから僕はまた人間界へ戻されたんだろうなぁ)
僕の心臓がきゅうって締めつけられる。敵わず瞼まできゅって閉じた。
『ミツキ~ミツキ‥‥‥‥』
兄様たちの声が今も耳の奥で聞こえてる。
(会いたい…よ)
『ミツキ‥‥‥‥』
僕を呼んでくれる声に、重ねた唇に、溶けそうなほど熱い身体で。
僕の身体の奥がぶるっと熱を帯びて、堪らなくなって両手で身体を抱え込んでた。
「‥‥稀‥‥充稀?」
ハッとした僕の横で智哉くんが心配そうな顔で見てる。
「あ…ごめん‥‥」
なんでもないよって、笑って誤魔化した。
分かりきってることだけど‥‥
(検査受けに行こ)
とりあえず、来週に控えてる学力テストが済んでからということで。
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