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2 僕の世界は180度変わってた話
4 夢のような学園
しおりを挟む進学率、就職率ともに実績のある“島澤学園”の厳かな門を前にして僕の足が竦んだ。
(ほんとに…夢じゃないんだ)
見回す辺りには通学してきた生徒たちで溢れてる。それに中高一貫の学校だから中学部の生徒たちの姿もかなりの数だった。基本、門扉は同じだから中学生も高校生も入り混じってごちゃごちゃになってしまう。見分けはっていうと制服のデザインで区別ができるくらいかな。
色はほぼ同じ深い緑をベースにした紺色なんだけど、中学部の男子生徒の制服は学ランで、女子はというと同じ色の柄なし、今時にしては地味な方だけど、学年別で色分けされてるリボンスカーフだけはおしゃれな感じ。という僕ら高等部の女子の制服は可愛いと清純さを兼ねたデザインで、チェック柄のスカートは確かに中学部の子からすると憧れるよねぇ。リボンタイだけは僕ら男子と同じえんじ色でそこだけは地味ぃ。
左奥の方が中学部の校舎で、どこかあどけなさが残る中学生の子たちは流れるようにそっちへ向かう。
門を入るとすぐ大階段があって、一歩一歩踏みしめる僕は、先に歩いてる智哉くんたちの後を慌ててついて行った。
大階段を上がりきった目の前にはどこかの大企業の敷地みたいなエントランス広場が見えて、もう僕は溜め息しか出ない。
学校とは思えないほど近代的な造りで、エントランス広場の両端には薄い緑の葉を茂らせた庭木が落ち着いた空間を醸し出していた。
(これが、学校?僕がここに?)
夢みたいだけど、これが死に戻りした僕の第2の人生だ。
夢じゃないのはどうやらこれだけじゃなかった。
「充稀、また後で。昼ごはんの時ね」
先の方を歩いてた莉久くんがくるっと振り返ってそう言いながらニッコリ微笑んだ。
「お前は科が違うから無理だってぇの」
智哉くんはいつも聞き慣れた風で軽くシャットアウト。
彼もまた智哉くんのあしらいに動じず。
「充稀がちゃんと応えてくれるまで俺は待ってるから」
と、僕の手を両手でキュッと包んで、ほらまた悪気のない笑顔で見つめてくる。
(あ――まだ言ってる…)
「じゃぁね!」って片手を上げてメインエントランスの方へ駆けてく。
「あ~っ、莉久くぅん!おはよっ」
「きゃぁ~莉久く~ん!」
女子の弾んだ声が響いた。
「おはよ!」
朝にぴったりなその爽やかな笑顔を振り撒いて、彼は校舎に向かった。
(莉久くんって、人気者なんだぁ)
それも分かる気がする。
日本人離れした顔立ちに嫌味のない笑顔は、僕だって惹きつけられるもんね。学校内でも割と注目される存在だって、後から智哉くんに聞いて納得できた。
入り口のガラスの扉は開け放たれていて、メインエントランスに差し込んでくる朝陽が眩しかった。
校舎に入るとまたまた驚く。
(ここは美術館ですか…?)
奥行きのあるコリドーは天井もかなりの高さがあって圧倒される。コンクリートの材質をそのままに活かした柱や壁は肩っ苦しくもなく、言えば自然体で居られる空間のようだった。学校らしくない学校って表現も難しいけど、生徒一人ひとりの個性が大事にされるようなそんな場所にさえ感じた。
(これじゃ迷子になっちゃう…)
僕が通ってるはずの学校なんだけど、全てが初めてで右も左も分かんない状態。
迷子にならないように智哉くんにぴったりとくっついて教室へ向かった。
僕らが入ってきた1階のコリドーにはちょっとしたラウンジのスペースが設けてあって、そこに掛けて談話したり待ち合わせをしたりするのにはいいスペースになってる。
コリドーの右側に階段があってそこを上っていくようなんだけど、僕たち2学年の校舎は3階にあるようで、3階までの階段をなんとか智哉くんについて行きながら上がってきた。
僕らがいる棟は西棟で反対の東棟は別の科の教室になってるみたい。たぶん、莉久くんはそっちの棟にいるのかな。
教室に入ると、懐かしい感じさえした。教室の雰囲気、席について友達とおしゃべりしたりしてるそんな光景がもうだいぶ昔のことのように思えた。
すぐ横にあった机をそっと指で撫でてみると、少し冷たい感触が全身の神経を刺激する。
(学校だぁ‥‥)
当たり前だよ、ここは学校なんだから。でも、しみじみと実感。
「おはよ、新田くん。あのさ、この前新田くんが教えてくれたアップルパイがおいしいってパン屋さん?えっと…なんて言ったっけぇ‥‥えっと‥‥」
教室の奥の方から2人の女子が僕に話しかけてきた。
「菜々美と昨日行ってきたんだよね~」
「うん。新田くんのお薦めってだけあってすっごいおいしかった!」
2人で顔を見合わせて同調し合ってる。
僕が“アップルパイ”を好きってことも知ってるの?それで、僕がお薦めのパン屋さんを?
僕の記憶にあるよ、そのパン屋さん。
「…“果実の森”ってパン屋さん…のこと?」
「そう!それ!」
1人の女子が目を大きくして人差し指をツンって立てた。
「うちの家族にも買ってったら評判よくて」
もう1人は身を乗り出して話してくれた。
「そ、そう…それはよかった。喜んでもらえて‥‥」
お気に入りのパン屋さんを紹介した記憶はないんですけど。誰かに喜んでもらえるのなら僕も嬉しいし、こんな風にクラスの子と話してることも僕には嬉しい。
「今度、おいしいアップルパイのお店見つけたら、新田くんにも教えるね」
ごく自然な笑顔で2人は席に戻った。
(ぅわぁ‥‥なんか、嬉しっ)
僕のこと普通に見てくれて、普通に話してくれて、そして僕の好きなアップルパイのおいしいお店があったら教えてくれるって!高校生活、最高っ!
「充稀~‥‥どこ座る?」
智哉くんが教室を見渡しながらそう言った。
(どこって、席は決まってるんじゃないの?)
僕は首を傾げた。
「自由席なのはいい学校だけどさぁ‥‥良かったり悪かったり」
1,2,3‥‥席の数を指先で確認しながら智哉くんは前から4番目と5番目を「ここ」っていう風に指した。
それにも驚いたよ。席は自由だって?!そんな学校あり得ないでしょう。そんなことしたらずるっこい奴はずるっこいからね。
賛否両論あるみたいだけど、それは生徒一人ひとりの自主性を大事にする教育の一環らしい話。
(僕って‥‥運がいいのかな?)
死に戻りしてしまった僕の生活は、思ってた以上にラッキーなことばかりだった。
4時限目はプログラミングの授業で、1階東棟のPCルームに移動。
この授業は選択科目だから違うクラスの子も自分の目的に合わせて授業を受けられるってわけ。
教室っていうより大会議室みたいな広さはあるけど、部屋が4分割できるようになってるから受ける生徒の人数や授業内容によって教室の広さも調節できるんだ。
これまでの固定観念が強すぎる日本の教育は、欧米の教育思考を柔軟に受け入れていく体制に変わってきているんだろう。なんて自由な教育方針だろうと、これから先の日本の教育の在り方が変わっていくだろうと少しだけ期待しておこう。
後ろの席からデスクトップPC越しに僕に声をかけてきた。
「新田さぁ、正直、迷惑じゃない?」
PCから覗いてる顔は見慣れない顔だった。
振り返った僕を憐れんでるような目で見てるんだけど。
「莉久の奴、しつこいだろ?あいつちょっとおかしいんだよ」
って言いながら人差し指で自分のこめかみのところを指してた。
「悪い奴じゃないんだけどさ」
そう言う君は誰?莉久くんの友達?
「あいつのおかしいのは今に始まったことじゃないだろ」
僕の横の席でキーボードを操作しながら智哉くんが言った。
(ん?智哉くんは知り合い?)
「お前、言うよねぇ」
たぶん、智哉くんと知り合いな彼は苦笑いしてPCの向こう側に引っ込んだ。
どういうわけか、莉久くんの事情は、知ってる人は知ってるみたい。
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