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2 僕の世界は180度変わってた話

1 夢か?現実か?

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 ピピピッ…ピピピッ…

 目覚ましの音?

 ぼんやりと意識はあるけど目が開かない。
 僕は眠ってる?のかな。
身体は横になってる感覚は分かる。それに、別に違和感があるわけでもない布団の中に居る気がする。

 ピピピッ…ピピピッ…

 2度目のスヌーズ。

 これ、5分おきに設定してあるやつ。
 僕の頭元で軽快な音を奏でているのは…そう思って手を伸ばした指先に携帯らしきものが触れた。まだ脳が働き出さないでいるから指先にもあんまり力が入らなくて、何度か握り直した携帯を薄目を開けて覗いた。
 薄い視界に時間の数字が映る。

 “6:05分”

 朝なんだ。
と脳のシナプスが伝達する。

 外はもう明るくて、部屋の中にはカーテン越しに朝陽が差し込んでた。

「‥‥部屋?」

 ここで僕は気づいたみたいだ。
 部屋にいるようだけど、部屋って言っても‥‥
 握っていた携帯をまた頭元にポトンと落としてゆっくりと瞼を開けた。

 落ち着いたベージュ色の天井が見えた。それから左に首を向けた壁には、姉さんからBirthdayプレゼントに貰ったキャップが掛けてあった。
(‥‥え‥‥?)

 見覚えがある部屋。
 僕に関する品々が、そこにも、反対の右側にも、で、僕のベッド。

 ここは――僕の居場所。



 「‥‥稀!」

 僕を呼んでる?

「…稀!充稀!時間っ!早く起きなさい!」

 って、この声は―――――

 ドアの向こう、多分、リビングから呼んでるんだ。
 少し籠ったように聞こえてくるこの声は
晴凪はな、姉さん‥‥?!)


 僕は“新田 充稀”

 16歳になったばかりで自殺した。
 そんな僕は地獄に堕ちた。

 そして色々あったんだよなぁ。
 鬼様は僕の兄様だって‥‥

 鬼様‥‥‥‥


 えぇぇ――――――っっ?!

 “ここはどこ?!私はだぁれ?!”

 僕は、僕は地獄に住んでたんじゃなかったっけ??!!

 脳のシナプスが急いで回路を繋いでる。
(華歯さん…華歯さんは?!)
 毎日のルーティンで、僕は朝食の準備を手伝っているはず。
それに、僕がどこに居ても「ミツキ~」ってごっついガタイに似合わない甘い声で僕のこと呼んでくれるハバラ兄さんの匂いもしない。
 ただ分かるのは、視界に映ってる見慣れた僕の部屋。
もう1回、確かめるようにベッドの上で周りを見回してみたけど、どう見てもここは僕が居た部屋だった。

(夢…見てたのかな?)


 「充稀ってば!学校、遅れるよっ!」

(ぅわ…晴凪姉さんの声が…これ以上はヤバイかもぉ)
 
 聞き慣れてる姉さんの声のトーンで限界が分かるって、姉弟だからだよね。なんだかこんな光景が懐かしく思えた。

 まだスッキリしない身体を起こして、僕の思考回路を繋ぐ。
「学校、遅れるよ」って姉さんが言ってたから、僕は学校(たぶん、高校生の時のまんまだろうと思う)に行かなきゃいけないんだろうからまずは制服に着替えなきゃね。
って、あれ?
 ドアの横の壁に行儀よくハンガーに掛けられてる制服、僕が知ってる制服じゃない。ていうか、僕が通ってたはずの高校の制服は濃紺の学ランでシルバーのボタンには学校のシンボルマークが刻まれてるやつだ。
(どういうこと…?)
 僕の思考回路は悉く捻じ曲げられていく。

 深い緑がかった紺色のブレザーにグレーのスラックス。ブレザーの肩のところにえんじ色のタイがヒョロんと乗っかってる。
知らない制服じゃなかった。
(この制服…って‥‥)

 “島澤学園中学校高等学校”の制服だ。

 私立の中高一貫の学校で、進学校としてまぁまぁ名が知れてる。進学コースだけじゃなくて、専門科目コースも大手企業に就職できるくらいのレベルはあるみたいだけど。
(僕の制服?)
 思い起こしてみる。
 僕の学力能力はというと、それまで順調に学校に通ってたわけでもなかったし、平均並みのやや下降気味。敢えて言うことのモノでもない。むしろ、隠しておきたい成績だった。
 そんな僕がまぁまぁの高校に通ってると?なんの冗談だよ。
(こっちの方が夢なんじゃ…?)
 あれこれ考えてるうちに、とうとう、姉さんの足音まで限界にきてた。

 パタパタとスリッパを鳴らす音に焦りながら、どうにかこうにかその着慣れない制服に着替えた。
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