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13 結い人(Side 祐一)

4 ゲームな世界

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 「とりあえず、ここを出ましょう」
 
 なだけに?

 朱雀さんは周りを見渡してそう言ったかと思ったら、

 バサ――――‥‥

 ほんとにきれいだった。
 勝手な妄想してゴメン。

 広げた両翼は眩しいくらいに輝いて、1回、2回と羽ばたいた。その羽圧が突風みたいになって俺は両腕で顔面を庇った。

 はふっ。

 次の瞬間には俺の足が浮いて宙ぶらりん。

「なっ!あぁぁ―――っ?!」

 何が起こった?

 子どもみたいにジタバタしている俺の襟首を、白虎さんが甘嚙みしてのそりと立ち上がっていた。その恰好といったら…まるで親犬が仔犬を連れてくみたいに後ろ首を甘噛みされて、てろ~んってなった感じ。

「行きますよ」

 重低音の声がもうそこ、後頭部から聞こえていた。



 朱雀さんがなんの躊躇もなく俺たちの頭上へ舞い上がると、その後を追うように

 タンッ!

 ふっとい前足で弾みをつけて俺を咥えたまま天井に向かっていくじゃぁないかっ!

(おいって!そこは出口じゃないんですが―――っ!!)

 見ての通り!床も天井も壁も、コンクリートでできてんの。
 何をこの2人…じゃない、この1頭と1羽、血迷ったのか、体当たりでもする気だろうか?確かに、体当たりしても負けない体格はしてるよな。

 もう、恐怖でしかない。
 
 白虎さんに咥えられながら、俺はぐっと縮こまって身体に力を入れてた。








 何の感覚もなかった。

 気づいたら‥‥ここは――

 ヒョォォ―――

と、まっぽしに風が当たる感覚にそぉっと目を開けた。
(…って、どっかのビルの屋上?!)
 強い風に煽られて浮いている俺の身体が揺れる。さっきからずっと白虎さんに咥えられたままだから、手も足も着かない。
「あ、の…下して‥‥いや、下さないで‥‥」
 下してほしいけれど、下された弾みにこの風で飛ばされそうで怖かった。

 そんな俺を察してくれたのか、白虎さんは屋上の端から離れたところにゆっくりと下ろしてくれた。とたんに、腰が抜けたようになってそのまま冷たいコンクリートに座り込んだ。

 ファサァァァ―――

 朱雀さんが長い羽を整えるように広げた。
夜の暗闇の中でも、炎のように煌めく羽が浮き立って見えて神々しかった。
 立つこともできないでいる俺の側には、飼い主に従順な犬のように、白虎さんがそっと座ってポスン、ポスンとふわふわの尻尾を穏やかに揺らしている。

「あの‥‥状況が…理解できないのですが‥‥」

 強い風で頭が冷やされたのか、少し落ち着きを取り戻していた。

「ですよね」
 柔らかい声音がへたばってる俺の頭上から聞こえた。
「そもそも、朱雀さんと白虎さんはどっから現れたんですか?」
 大きな金色の目で俺を見下ろしている白虎さんを俺は見上げて言った。

 これは夢で、夢の中でゲームの世界を体験してる。
 これからが始まりで、まずは第1ステージってとこかな?共に第1ステージをクリアするために現れたのがこの珍獣?

「話はそこからですね‥‥」





 朱雀さんは自分たちが人間界へ来た経緯を話してくれた。


「そして、あなたが我々の界と人間界を繋ぐ逸材なのです。ここ幾数年とその存在は現れなかった。ですが、今、ここに居るあなたが、あなたこそが“結い人”なのです」
 耳の奥まで響く声で白虎さんはそう言った。

「ユイビト?‥‥ユイビトって?」

 どうやら“結い人”そう呼ばれているのは俺のようで―――



「人間界と我々の界は一定の秩序を保って成立しています。その秩序を乱さないためにも結い人あなたという存在があるのです。ユウイチさん、あなたは普通の人間には見えないものが見えているはずです」
 白虎さんの言葉の後を継いで朱雀さんが長い首をくねらせて言う。

「見えないものが?見える?」
 
 それは、霊とか?この世にはないモノがってことの意味なんだろうか。いや、はっきり言って俺にはそんな霊感的なものもないし、そんなことすら経験したことはない。

「俺はそんな…見えないものが見えるなんてそんな能力なんてないです」
 と、はっきり言いきった。

「ただ――まだあなたは勘にきていないだけなのです。見える形がどうであれ――」

 朱雀さんの声がぐっと引き締まった。


 朱雀さんと白虎さんに言われたことは、その後すぐに確信になった。


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