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12 余話
こわいもんはこわい (Side ルカラ)
しおりを挟む時間を追って段々と身体の自由が利かなくなる感覚だ。
変形発情期に入る約1週間ほど前から症状は強くなる。前ぶれというものなのだろうが、息がしずらいし、身体の中のあらゆる水分という水分が蒸発してしまうんじゃないかぐらい全身が熱くなる。大抵、このくらいはまだ我慢できる範囲内。それから順を追って次に襲ってくるのが関節の痛み。自分でも聞こえるくらい身体のあちこちの関節がバキバキと音を立てる。これはさすがに痛くて堪らない。
「んッ‥‥はぁ――――――‥‥」
荒い呼吸に交じって長く息を吐く。
火照る身体を少しでも安らげようと風の丘にきていた。いつ来てもここは心地いい風が吹いている。今はこんな状態だからなおさら風が気持ちいい。
「す―――――――ぅぅ…ん」
鼻の穴からめいっぱい、これでもか、というくらい風を吸い込んでやった。少しはこのバキバキに熱くなった身体が冷やされるんじゃないか―――?
気の持ちようなわけで。
どう足掻いても現実は変わらん。
「ぷっはぁぁ――――――っ!」
風の丘の草原に大の字になって寝転がった。途端に柔らかい草が熱い身体を包んだ。
(このまま眠ってしまえば‥‥分からないうちに発情期が終わってれば‥‥‥‥)
目を瞑った。
草の匂いに交じって
(‥‥ミツキの匂いだ)
親しみを越えてもう愛しさを感じる匂い。近くにいることを察して身体を起こしたら
「うわぁぁっ!!」
やっぱり。
すぐそこにミツキがいた。
オレが居ることなんて気づきもしないだろうよ。ミツキのすっごく驚いた顔って…なんか怖いもん見たような顔してるよ。
ちょっとショック。
「ミツキ、風の丘で何してるの?」
「あ、あ、あ…ル、カラ兄さん?」
「そんな驚かなくても。くふ…っ」
目を丸くして声が出てない。そんなミツキを見て可愛らしくて笑った。
「ル、カラ…兄さんも…どうしたの?」
「ん―――気分転換ってとこ。ミツキは?」
「あ、僕…今から小鬼くんたちのとこに行って手伝いを頼もうと思って‥‥」
「そっか。ミツキはほんとえらいよ。色んなことしてくれて」
「い、や、あ、の、ただ自分でやりたいから‥‥」
ちょっと言いにくそうに頭を指で掻いたミツキに、「ここにおいで」と手招きする。
きょとんとした目で見てたけど、なんのことか理解したみたいで、ぽふんと横に座ってくれた。
「身体…キツイよね」
先にミツキが口を開いた。
「あ…うん‥‥正直、キツイ」
って言ったけど、でも、はぐらかすみたいにして笑って見せた。
人間より強いだろう鬼のオレが弱音を言ってる。弱いところなんか見せられない。見せてはいけない鬼様がしかも人間相手に弱音の本音を言っている。
なんか、情けないな。
そんなことを思っていながらも身体は加速している。
「僕…なんにもしてあげられなくてごめんなさい‥‥」
しゃがみ込んでいたミツキが哀しそうに瞼を伏せた。
「ミツキはそんなこと思わなくったっていい。いつもみたいにしていてくれれば。ね」
何ともないよってニカっと笑った。
「でも‥‥‥‥」
そんなミツキだから、ミツキだったからこんなこと言えるんだろ。
「こわいもんはこわい‥‥」
ふっとミツキの潤んだ目がオレを見た。
「発情期のせいで身体が戻らなくなったら…ひょっとしたらミツキを喰い殺してしまうんじゃないか…って考えて…正直、こわいよ」
そんなミツキの目と、目が合ってほんの少し苦笑いになった。
「そ、そんなんだって、なんだって、ルカラ兄さんはルカラ兄さんだよっ」
って、そのちっこい身体で、ほっそい腕で、オレのことぎゅゅっと抱きしめた。
「ありがと…ミツキ」
ミツキの匂いがふぅんと熱い身体の中に満たっていくのを感じた。
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