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10 鬼様=兄様に溺愛されてるなんて大きな勘違いだった?

5 匂いで分かるの?!

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 ドスドスドス‥‥

 (来た来た来た!)

 スタ――――ン!

「みんな!おはようっ!」
 勢いよく障子戸を開けて、僕の知ってるハバラ兄さんがいつものように朝食の席に戻ってきた。
あの時外れた障子戸はすぐにムキ兄様が直してくれた。きっとDIYが得意な兄様なんだろうね。
(くふふ‥‥っ)
 いつもの日常に戻ったみたいで嬉しくなった。
「変形してもバカは治んねぇな」
 ぽそっとルカラ兄さんが言う。
「んぁぁ?!」
 ハバラ兄さんの目がぎろりと睨む。

(あれ…?でもなんか少し違う気も‥‥)
 異変に気づいたのは僕だけじゃなかった。
「あ~ん♡ハバラ兄様、変形してもカッコいいっ!」
 ちょっとした変化なんだけどやっぱり兄弟、分かるんだね。
そう、見た目には気づかないくらいなんだけど、なんだか赤毛の髪色が少し濃くなったような。でも、僕でも一番に気づいたのがその目の色だった。ハバラ兄さんは琥珀の目の色をしてるんだけど、透明感が増したっていうか透き通るくらいにきれいな琥珀色に変わってた。
「はっはっはっ!だろぉ?この髪の色、気に入ってんだよなぁ」
 ちょっと自慢気に指で毛先を引っ張ってた。

 「‥‥?あぁん?鬼畜の匂いがする‥‥」
 不意に鼻を上げてハバラ兄さんが低い声で言った。
「お前がのん気に寝てる間に一騒動あったんだよ」
 呆れ顔でルカラ兄さんが匂いのもとを言って聞かせた。
「はぁぁ?!あの鹿どもなにしに来やがった?」
 あの時の状況なんて見てもないのにハバラ兄さんは眉間にしわを寄せて空間を睨んでた。
ただ匂いだけで誰が来たなんて分かるの?
鹿なんぞと、あまり悪口を言うもんじゃないぞ。本当のことだがな…」
 って、優しい口調でムキ兄様が言う。
それは…忠告になってないですよ、ムキ兄様。

「あ―――っ!ミツキ!ミツキはぁぁっ?」
 で、今頃になって。
(ここにいるよぉ‥‥)
 
 僕は自分で自分の座る席を決めた。

 ハバラ兄さんは周りをキョロキョロしながら僕のこと探してる。
いつもみたいに自分の席の隣にいるはずの僕は、一番遠いとこにある下座に愛用の椅子に座ってるよ。
「ミツキィ―――ッ!なんで?!どうして?!」
 って慌てて僕んとこへ来ると片膝をついて僕を見上げながら、
「ミツキ…もしかして…もしかして…オレのこと怖くなった?」
 弱々しい瞳が僕を見つめてる。
「ふふっ…ううん、違うよ。僕はここの席がいいんだ。こうしてここの席に座ってると兄様たちみんなの顔がよく見えるんだ。それに、ここだと華歯さんの手伝いにすぐに行けるからね!」
 にひっと笑って見せた。

 華歯さんが――――
今、「うん」って頷いたように見えた。


 なんとか承知してくれてちょっぴり肩を落としながらハバラ兄さんは座った。

 いつもの朝食の時間がいつもとは違った。
だって、九十八の兄様たちみんなが勢揃いしてるなんて…この圧倒感。凄すぎる。
 先――――っの方には頼もしいムキ兄様。多分だけど、ムキ兄様がみんなに招集をかけたんだろう。
食事をしながら、
「明日、天道界にて宰相会議が行われるということだ。母様の代理で私が行く」
 この場で兄様たちに伝えておかなければいけなかったことをムキ兄様はしっかりとした口調でそう言った。
ムキ兄様の伝えにみんな声には出さなかったけど頷いて了解してた。

(宰相会議って…なんのことだろ)
 
 僕の知らないことがまだまだたくさんあるんだ。

「あ…それから‥‥華歯、天道界の妹になにか届けるものはないか?」
 そう言って食堂の端で待機している華歯さんへ視線を向けた。
「よろしいのですか?それなら‥‥妹の好物ですが帝釈天様もお好きだと聞いております、柘榴の甘露煮を」
 華歯さんは瞳を輝かせてた。
「そうか、分かった。それに、妹に伝えておくことがあれば聞いておこう」
 寛大な笑顔が僕にとっても誇らしかった。





 今日は洗い物が多いだろうな。
この人数分の食器の片付け、それも僕にとってはやりがいがある。
 気合を入れて両手に持ってた食器を下げようと厨房に向かってたところに、
「‥‥ミツキ…」
 呼ばれて声のする方へ顔を向けると、階段の踊り場の下からこっちを覗き込むようにしてちょいちょいと手招きする。
「‥‥ルカラ兄さん?」
 持ってた食器を先に厨房へ運んでからそこへ向かった。

 踊り場の下は奥まったとこにあるから少し薄暗かった。
「ミツキ‥‥」
 にゅうっと手が伸びてきて腰を引き寄せられての、壁ドン状態。
「ルカラ…兄さん‥‥?」
 すぐに赤い唇で僕の唇は塞がれた。
ぷちゅっと音を鳴らしてからルカラ兄さんの唇が僕の首下から耳元に這い上がってきた。
「…ん‥‥っ」

 フンす…フンす――――ぅ‥‥

 ルカラ兄さんの息が微かに荒い。
僕の耳たぶから首の後ろ辺りの匂いを嗅ぎながら、
「まだ…大丈夫‥‥かなぁ‥‥」
 って?大丈夫…って?匂って何が分かるの?
吐息の声でルカラ兄さんが囁いた。



 「なら別のところでやってくれ」

 ドッキィィィ――――――ッ!

 通りかかっただけだったのかな、サドゥラ兄さんの声がルカラ兄さんの背中越しに聞こえた。

(こんなとこ見られるなんてぇ‥‥)

 そう言い残してサドゥラ兄さんは音もなく行ってしまった。
僅かに振り返った呂色の目がルカラ兄さんの身体の向こうに見えた。


 それから‥‥三日後、ルカラ兄さんの姿を見なくなった。
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