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8 拝啓… ~僕は地獄でセカンドライフを謳歌しています~
1 Morning time
しおりを挟む毎朝のルーティンはいつもの食堂で朝食を頂いて、優雅にコーヒーなんか…って、僕はコーヒーは飲めないからココアを頂く。あの長——いテーブルにちょこんと座って。
でも、毎朝、顔ぶれが違うんだ。
あ、そうそう、この前は蚯蚓兄さんが横に座ってきて一緒に朝食を食べたんだけど、とっても穏やかな兄さんなんだ。それに見た目とは違って優しいんだよ。自分の皿にのってた目玉焼き(何個あったかな?)を1つ僕の皿にのっけてくれて
「んわん」って言ったんだ。
「‥‥?」
言葉は分からない。だけどね、「どうぞ」って言ってくれたような気がしたんだ。
蚯蚓兄さんに「ありがとう」って言ったら
「おふおふ‥‥」って笑ってた。
地獄の構成もだいぶ理解できるようになったかな。というより、僕なりに解釈するようにしたんだ。でないと、一般的な常識は通用しないからね。
地獄での生活もなかなか悪いもんじゃない。地獄って言うだけあってそれなりの覚悟はいるけど、毎日が新鮮で、初めましてのことがいっぱいで楽しく過ごしてます。
「あ…おはよう‥‥ございます‥‥」
静かな物腰で食堂に入ってきたサドゥラ兄さんの姿が視界に映って、僕は胸がドキンとした。
まずは朝の挨拶を、ってでも声が段々小さくなってしまった。
(やっぱり…この兄さんには気軽に声かけられないや‥‥)
自分の定位置に座ろうとしていたサドゥラ兄さんが違和感を感じたような目つきで僕を見た。
僕じゃなくて、蚯蚓兄さんを見てる。
「あ‥‥」
そういうことか。
いつもの定位置じゃないからサドゥラ兄さんは不可解に思ったんだ。
「あの…僕が…僕が一緒に食べようって誘ったんです」
怒られても仕方ない覚悟でちょっと首をすくめた。
勝手な真似をしてしまった後で反省しても遅いけど、1人で食事するよりも誰かと一緒っていうのは気分もいい。それに、早く兄さんたちと仲良くなりたかった。
流し目で僕を見ると何も言わずにサドゥラ兄さんは席に座った。
(どう捉えていいんだろ?怒ってるの?それとも大丈夫なの?)
ほんとに掴みどころのない兄さんだ。どう対応していいやら、心の中はオロオロしてる。それも、見透かされてる?
落としてた視線を気づかれないようにって思いながらサドゥラ兄さんの方へ向けた。
ふっ———‥‥
て、さらっと僕を見て微かに笑った。
また僕の心臓がドキン、てした。
まぁ、色んな鬼様=兄様がいるもんで。
後に、これまた「ううぅ…」って唸りたくなるくらいの兄様が入ってきて、サドゥラ兄さんの横の席に座った。
覚悟はいるって言ったけど、びっくりするよ、ほんと。
カチャカチャ‥‥‥‥
さっきから耳に障る。
小刻みに食器の音が響いてる。
「慳鬼——…もう少し落ち着け」
サドゥラ兄さんの声はそれでも優しかった。
そう、サドゥラ兄さんの横に座ったのが何番目なのかな?“慳鬼”って呼ばれた鬼様=兄様なのですが‥‥
この鬼様=兄様、さっきからひっきりなしに貧乏ゆすりっていうの?テーブルの下の足元は見えないけどそれが伝わってくるくらいひどいゆすりなんだ。
(ごめんなさい。先に謝っときます。こんな貧弱な鬼様っている?)
本当にごめんなさい。こんな僕が言うのもなんだけど、その姿は、骨、皮、まるで飢餓状態の身体なんだよ。おまけに皮膚の色と言ったら、赤銅色で全身の血の気が浮き出た感じ。これは、鬼様=罪人なのではないか?間違って逆界から来たんじゃないよね?
でも、サドゥラ兄さんがちゃんと名前を呼んでる。それに応えて慳鬼兄さんも
「だって、癖なんだもん」
って。あれ?以外に高い声だね。
思わずその声に僕は二度見しちゃった。
「食事の時は我慢しなくては」
「はい」
慳鬼兄さんはなんて素直なんだろう。
僕は心の中がぽっとした。
あ、来た来た。
足音で分かる。
スタ———ン!
(当ったり~!)
「あぁぁぁっ!蚯蚓兄さん!そこはオレの席っ!」
「‥‥うるさいっ!」
なんと!慳鬼兄さんが怒った。
それにまたまた僕は二度見してしまった。
このハバラ兄さんを一喝できるなんて、笑っちゃう。
僕は笑いそうになる口元を手で隠しながらハバラ兄さんを落ち着かせるように言った。
「ごめんなさい。違うんだよ、僕が一緒に食べようって誘ったんだよ」
「‥‥う゛」
ハバラ兄さんは口をへの字にして渋々、蚯蚓兄さんの隣の席に座った。
だからって、僕のこっち側が空いてるけど、そこは違う兄さんの席だからって、そういうとこ見た目によらず礼儀正しいとこが好きだな。
華歯さんに聞いたんだけど、あの目の色が銀色の白鼠色の…
「ルカラ様なら早朝に出かけられました」
って、今日もきっしりとした身なりで、朝食の席で兄様たちの世話をしている華歯さんが教えてくれた。
まだ今の時間でも早いくらいなのに、ルカラ兄さんはもう仕事に出かけたらしい。
『最近、色々忙しくってな‥‥』
ハバラ兄さんの言葉が過ぎった。そんなハバラ兄さんもさっき来たばっかりなのに、ガツガツっと食べて
「ごちそうさまでしたぁ!」
ほんの数分の朝食時間。
がばっと立ち上がると僕のとこへきて、片膝を付きながら哀愁漂う瞳で言う。
「ミツキ、ごめんね。今日も仕事忙しくって‥‥行ってくるね」
「うん、大丈夫。ハバラ兄さんもがんばってね」
「うん♡うん♡」
で、これも毎朝のルーティンのおでこにチュッ。
僕は少しだけサドゥラ兄さんの視線が気になった。
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