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7 鬼様は兄様

2 ここはほんとに…?

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 『‥‥‥‥痛‥‥い——?』

 確かに僕は堕ちた。
あの冷たくて暗くて硬そうな所?に。
なはずだったんだけど?

 「————‥‥ん‥‥‥‥っ‥‥」

 なんとなく意識が戻ってきてるみたい。
でも、身体中が強張ってるような、おまけに頭痛までしてる。
そりゃそうだよね。僕、ビルの屋上から落ちたんだもん。

って———?
なんで意識があるの?なんで僕、生きてる?

 重い重い瞼を開けようって力を入れるけど、全身の細部まで力が入んない。
少しだけ感覚があるかな、右手の指先がピクって動いた。
 その感覚が分かったのと同時に僕の頭の周りで、小鳥の声?

 チュピチュピ‥‥‥‥
って、可愛らしい声で鳴いてるのが聞こえてきた。

 (確か——僕は地獄に堕ちたんだよね‥‥?)

 まさか、ここはなのではないかと自分に都合よく勘違いしてしまった。
それに——‥‥
(なんていい匂い‥‥)
 どこから漂ってくるのか、やんわりとした風に運ばれて、爽やかなそれでいて甘い香り。

 チュピチュピチュピ‥‥‥‥

 また頭の周りで囀りが聞こえてる。
それに合わせて、くっくっ…って僕の髪を引っ張ってるみたい。
(僕を‥‥呼んでるの?)

 それが何なのか確かめたくなって、強張った身体のまま首だけ動かして顔を向けた。重い瞼をどうにか開いたけど、まだ焦点が合わないや。
「んん———‥‥」
 僕は深~くお腹から息を吐きだした。

 徐々に身体の強張りが解けてきたような感じ。
 視界も戻って‥‥‥‥?

(‥‥へ?)

 僕の周りでわちゃわちゃしてるこのは?!
チュピチュピ…って小鳥じゃなかったの?!
 僕が極楽じゃないかって勝手に勘違いしてたこの可愛い鳴き声の正体は、どっから見ても見紛うことはない!
「‥‥‥‥鬼」
 だよねぇ。だって、地獄に堕ちたんだもん。

 今、僕はどんな状況なのかって身体を起こして確かめたいんだけど、まだ無理みたい。
意識は正常に(だぶん)戻ってきてるんだろうけど、元々、丈夫な身体じゃないからね。身体の痛みっていうのかな?強張りがなくなるまで休んどこ。


 
 意識が戻ってきた僕をさっきからずっと周りで囲ってる。
わちゃわちゃしながら、なんだか賑やかだ。なんか話してるのかな?鬼語?ていうの?
にしても、君たちは鬼だから、僕のこと捌いたりしないの?閻魔様のとこに連れてったりするんじゃないの?
僕も覚悟はできてるよ。

 にしても、僕の周りできゃぴ、きゃぴしてるだけで何ともない。
なんか、痛いことしたりとか?槍で刺したりとか?
一向にそんな気配すらない。

「‥‥‥‥ねえ‥‥」
 僕の突然の声に、このちっこい鬼くんたちはピクッ、ピクッ、ピクッて驚いっちゃったみたい。
「あ…ごめんね、驚かせちゃった‥‥」
 いやいや、ここは地獄。なはずだが?僕の方が気を遣ってる?

 少し身体も楽になってきたようだ。
僕はゆっくり身体を起き上がらせて周りを見回してみた。
「ここは——‥‥ほんとに地獄?なの?」
 誰に話しかけよう、を会話の相手にして、僕は目の前に広がる景色を疑った。
 まるで、映画でも観てるみたいな。
果てしなく広がる草原と、さらさらと吹き抜けてく心地いい風。
 
 ワキャワキャ…って、僕の言葉に応えてくれてるみたいにしてまたくんたちは盛り上がってた。僕の言葉は理解できるのかな?何となくだけど、反応してくれてるから。
 にしても‥‥
「なんか、かわいっ」
 小鬼くんたちのワキャワキャ反応する様子がなんだか可愛らしく見えた。

 あ——‥‥そういえば、小学校の時に読んだ『ガリバーの冒険』の話を思い出した。
僕、ガリバーになった気分だよ。

「くふふ…っ。でも、こんなにちっこいのに、みんな違うんだね」
 体長10センチくらいの大きさかなぁ?サイズは違うけど人間と同じで、肌の色もそれぞれに違うし、角(一応あるみたい)だって1本のもいれば、2本あるだっている。目の色だってそう。
なんとなく親しみを感じる。
 僕の右手のとこにいた小鬼くんの頭をちょこんと撫でた。
 キュルルル…って、鳴いたのかな?甘えたみたいな声で首をすくめた。

 鬼って…こんなもの?
僕が思い描いてた想像は自己暗示に過ぎない。
『百聞は一見に如かず』だね。
 

 さわわ———‥‥
また風が吹いた。
の後ろに静かに佇んでたこの樹。
とてつもなく大きくて悠然としてる、この樹の花だったんだね。
さっきから風に乘ってくる匂い。
たっくさんの白い花をつけて優しく揺れてた。 
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