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6 充稀 Last years
2 だよね。
しおりを挟む確実に。
僕に夢見る時間なんてないんだ。
少しばかりの幸せは掌から零れ落ちてしまった。
「あ——‥‥また、忘れた!」
今日もおいしくいただきました。で、ありがたく感謝の気持ちで空になったお弁当箱を片付けながら、僕はメガネケースを忘れてきてしまったことに気がついた。
普段は裸眼でもまぁまぁ見えてたから常にメガネをかけてることはないんだけど、授業中、見えにくかったり、パソコンなんか扱う時にはメガネは必需品。
4時限目、パソコンの授業だったから、そのままパソコン室に忘れてきたんだ。多分、座ってた机の中に放り込んでるだろう。いつも、かけてたメガネをポケットに入れてしまう癖があるから、ケースなんて忘れられてしまってた。
「智哉くん、ケース忘れてたから取りに行ってくる」
ポケットに入れてたメガネを取り出しながらそう言って教室を出た。
3階まで上がると僕は慣れた足取りでパソコン室に向かった。
パソコン室は階段を上がって左奥の方からA室、B室ってあって、階段を挟んで右の方にC室ってのがあるんだけど、1年生の僕たちがよく使っているのがB室。さっきの授業がB室だったから、多分、ここに忘れてるはず。
だいぶ、学校の構造にも慣れてきた。
入学始めの頃は、階段上がってみたら「ここどこ?」ってな感じで迷子になっちゃうくらいだった。今は笑い話だけどね。
お昼休憩中だから、特に3階は全体がしんとしてた。たまに外から聞こえる生徒の声が窓から入ってくる。
やけに静かだから、近づくにつれて誰かの話し声にすぐに気づいた。
階段を上がって左先にある手前のB室?から?
(誰か——いる?)
戸が閉まってるからはっきりとは聞き取れない。
大丈夫かな?って思いながら、僕は「ケースを取りにきただけ」と言い聞かせて、パソコン室の戸に手をかけようとした
「‥‥の、なか‥‥せんせ?」
掠れた声が聞こえた。
‥‥え————?
この声‥‥
また?
前にも同じように声を、声だけを聞いた。これってデジャヴ?
「長谷川先生‥‥ごめん」
じゃない。
今度ははっきりと。
長谷川先生だ。それに‥‥
(のなか‥‥って聞こえた?)
のなかって…野中先生のこと?
どういうこと?!どんな状況?!
また心臓がバクバクいってる。
戸にかけようとした手を引っ込めた拍子にバランスが崩れちゃって、後ろの壁に背中からぶつかってしまった。
ゴトッ!
鈍い音はこんな静けさの中だからやけに響いた。
(うわぁぁ———っ‥‥また、まただぁ‥‥神様、助けてぇ!)
この場から一瞬で消えてしまいたいぃぃ!
焦ってる!焦ってる!
先生出てきたらど—しよっ!
右を左を何度も見ながら崩れた体勢をどうにか戻して、僕は逃げるみたいにC室に滑り込んだ。
だけじゃ…見つかっちゃう!
まるで、かくれんぼしてる?冗談言ってる場合じゃない。すぐに教卓の下に潜って僕は息を凝らした。
(バレませんように‥‥バレませんように‥‥!)
なんか悪いことしてるのかな、僕?自分の方が犯罪者みたいで、息を潜めながら教卓の下で蹲ってた。
あの時、パソコン室にいたのは疑いもなく、長谷川先生と…野中先生だった。
『長谷川先生‥‥ごめん』
の意味は?
勝手に解釈して、勝手に妄想してるだけかもしれないけど、あの時の空気で感じた。
長谷川先生と野中先生は———‥‥
そういう関係——だった?
そんなこと、これっぽっちも思いもしないで(当たり前だろうけど)僕はなにを浮かれてたんだろ?
僕を呼んでくれる声に、
僕を見てくれる目に、
いつも見せてくれる笑顔に、
僕は勝手に浮かれてた。
この日から、僕は自分をすごく咎めるようになってしまった。
僕はいけない子。
僕は幸せになってはいけない子。
僕は余計な子。
だよね。
だから、
僕は——いらない子。
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