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5 長谷川 祐一という男 (Side 祐一)
3 なんてな、いっぱしなこと言う俺だけど
しおりを挟むそれから―――
自分でもこの気持ちが何なのか理解しがたいものだった。
「長谷川先生――」
名前を呼ばれるだけでもドキッとする。
「は!はいっ!」
「明日、学年担の会議をしますけど、調整できてます?」
「あ…はい。大丈夫です」
「‥‥その顔はぁ‥‥」
野中先生がくすって笑った。
そうだったぁぁぁ―――!!
今週末、2学年担当職員の会議が入ってたことをすっかり忘れていた。
だから、がっつり部活も練習指導する予定だったのにぃ。
学校の仕組みや仕事内容、部活に関係することもだいぶ自分の中では把握できていて、一応、頭の中で1週間、1日ってシュミレーションしながら動いてるつもりだけど、最近、うっかりが多いんだよな。
(俺の得意な?自己嫌悪‥‥)
計画に入れてなかったのを察知されて
「長谷川先生、もう少し肩の力抜いて」
また、くすって笑われてしまった。
「‥‥はい」
反省、とばかりに目を瞑った。
「ハンド部の部員にはしっかりフォローしてくださいよ」
って、ちょっと皮肉って笑いながら野中先生は軽く手を上げて次の授業がある教室に向かった。
そうやって笑うとこ。
野中先生の笑顔が、
野中先生のことが、
好きなんだ。
いやいやいや‥‥
そんなことはなかろう。
これまでの経験から言わせてもらえば、普通に初恋もしたし(その時は小学4年の時、同じクラスの小柄な女の子だったなぁ…)、中学んときはこんな俺でも告られたこともあったし…自分の中ではそれが普通だった。
普通ってなんだ?
頭の中が色んな思考でごちゃごちゃしてた。
野中先生のことが―――
好き?
それは、単なる憧れ?尊敬?
からくる気持ちだろうか‥‥
「‥‥せい?長谷川先生――っ?」
呼ばれてはっとなる。
そうだった。今はHRの時間。
「せんせー大丈夫っすか?」
「熱でもあるんじゃね?」
午後のHRは、まずは生徒たちとの信頼関係。ってことで、和気あいあいで話をしたり、意見を言い合ったりしていた。
(何やってんだ俺…集中!集中!)
いつもにない俺の様子にこいつらもちょっと心配してくれてる。
教師になったらやりたかったこと‥‥
「…で、今日の長谷川語録は―――」
気持ちを切り替えて、背後の黒板に白チョークで書き上げる。
コツコツ…と黒板を奔るチョークの音が響いた。
『どうあるか、ではなく、どうありたいか』
そう記した。
教師になったら――人生まだ未熟者の自分だけど、これまで自分が経験した失敗や、やってみてよかったと思ったことなんかを自分なりの語録にして生徒たちに伝えたい。少しでもこれからの人生に役立つことができたら。
「俺さ、前にもお前らに言ったことあるけど、父親とはケンカばっかしてたって。進学するのもダメみたいなこと言われて…」
「で、せんせ、啖呵きったんだろ?」
「あんまし言うなよぉ」
生徒たちとは友達みたいに話す。これが俺にとって自然体でいいから。
教師面して生徒の上に乗っかったみたいに偉そうにしてる、どこかにもいた教師には絶対なりたくないって自分の中で決めてた。
「そん時に思ったんだ…自分はこの一律した学校や世の中に同じように溶け込んでどう生きていくか?そう考えるか、そんな世の中で自分は、自分っていう人間はどう生きたいのか?ってこと考えるようにしたんだ――」
ちょっと言い回しが難しかったかな?でも、真剣に聞いてくれてるのは生徒たちの目で分かる。
なんてなぁ‥‥
いっぱしなこと言ってるけど、俺はどうなのよ?
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