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4 充稀 16 years

3 いいのか、悪いのか‥‥

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 長谷川先生は、僕たち情報処理科1年の副学担の先生。
だから、名前も顔もよく知ってた。

 入学式の時、先生の自己紹介で覚えてる。

 『長谷川 祐一』先生——歳は28、専門教科は数学。僕が苦手な分野だ。趣味は筋トレだそう。見た目はスラってしてるけど、はがっちりなのかな?教壇に立って自己紹介を続ける長谷川先生を見ながら僕はの想像しちゃった。
 この高校に来て3年目らしく、まだまだ自分は“新人”だって自分を謙遜して言ってた。
 1年目からハンド部の顧問監督を任され、不安ながらもハンド部だった自分の経験を活かして試行錯誤しながら今に至ってるって。ハンド部の紹介も兼ねて、新1年生の僕たちにも「ハンド部に入らないか?」の勧誘の言葉も添えてそう言ってた長谷川先生の、教師という名の立場の人間の笑顔を僕は初めて見たような気がした。僕が知ってる“先生”の中で、初めての存在だったかもしれない。


 
 は僕が同じ高校だったってこと、知ってたんだ。
 あの日以来、まただ‥‥

 奴はどうやら普通科コースらしく、胸元に付いてる校章と並んで普通科のバッジが見えた。
 おんなじ高校だから、そうだよね。いつ、どこで、どのタイミングで会うか、その可能性は0じゃなかった。

 いつもの時間の電車に乗って、駅から歩いて15分くらい。駅から歩いてくのも今の僕にとっては苦痛じゃなかった。自分の歩く速さでも学校に着くのには余裕があった。

 朝の登校時間の靴箱周辺は生徒たちで賑やかだった。
たまに、なんの騒ぎかって思うくらい、高いトーンで話が盛り上がって叫ぶ女子の声にびっくりするけど。

 「おはよ—!新田!」

 スリッパに履き替えてクラスへ向かおうとしてたら、後ろからの声にビクッってなった。
 振り返ると同じクラスのが、靴箱からスリッパを取り出してるとこだった。
その後からも、一緒に登校してきたのかな?
え…っと、山内くんの後ろは——?川崎くん、吉岡くんだったよね?
 僕のクラス(じゃないね)、情報処理科のクラスは定員40名だけど、今年度在籍数が37名なんだって。定員数には満たなかったらしいけど、僕はその方がいい。だって、あんまり大所帯だとさ、名前覚えるの大変だし(でも名前くらいは1週間で覚えられたけどね)、僕みたいな学校生活にあんまり馴染めない奴にとってはこれくらいがちょうどいい。
「あ…あ、おはよ‥‥」
「おはよぉ!」
「おっはよ~!」
 山内くんの後に続いて、みんななんて爽やかな笑顔で挨拶してくれるんだろ。
「っ…しょっと!」
 それに——
 スリッパに履き替えた友達が真っすぐ立つと、なんてしてんだ。山内くんはハンド部で、川崎くんはサッカー部だったかな。さらにでっかいのは吉岡くん!僕の弟と同じでスポ少の時からバレーやってたんだって。だから、背ぇ高いのなんのって。みんな小さい時からスポーツやってたらしいから、身体もこんなに大きくなるんだね。羨ましいよ‥‥。
 でも、みんなさ、何の偏見もなくいつも僕に挨拶してくれる。彼らにとって当たり前のことなんだろうけど、それが嬉しい。
 友達‥‥って言ってもいいのかな?

 目の前に山みたいな壁がある。
(すご…威圧感‥‥)
 3人の後ろをひょこひょこしながら、余計に小さく見えるだろう僕もクラスに向かってた。

 靴箱を後に右に向かって行くと先の方に階段があって、僕たちのクラスはその階段のとこをまた右に、渡り廊下を通った所にある。
 登校してきた生徒たちで廊下や階段下はごたごたしてた。
そんな中、僕も3人の後を追ってついてくのがやっとだった。だって、この3人の歩幅と僕の歩幅の違い。言うまでもないでしょ?そんなこと頭の中で思ってたら、それもなんだか可笑しくって、周りが見えてなかったみたい。

 ドンッ——!

「———え‥‥‥‥?」

 聞こえた。

『あ—!ごめ—ん!見えなかったわァ!くくく‥‥』
 って。
 まただ‥‥
の笑い声。
癇に障るその笑い声。
 どうやら僕はまた跳ね飛ばされたみたいだ。周りがよく見えてなかった僕も悪いけど…そこら辺にいた生徒たちの驚いてる声が僅かに聞こえてた。

 ほんと、ハイエナみたい。狙ったは逃がさない。
 階段下、クラスへ向かうところ、ちょうど2階から下りてきてた奴はにRock-On!
 階段から駆け下りてくる勢いでそのまま僕にぶつかってきたのだとか‥‥?
その時の状況なんて分かるはずもない。突然のことだったんだから。
 振り返ったら…僕、また宙を浮いて、てか、ボールみたいだったって。
 後からあの3人に聞いたことだったんだけどさ。ドン!ってすごい音がして3人ともびっくりして振り返ったら、こんな状況‥‥。

 僕も吹き飛ばされた感覚はあったんだけど、吹き飛ばされてからのドン!‥‥って?
壁にぶつかったんじゃないよね?この感覚。
 こんないっぱい生徒がいる中だから、ごめんなさい!誰かにぶつかったんだ!
「ご、ごめんなさいっ!」
 ぎゅって目を瞑って、こんな状況から消えてしまいたいぃぃ!
「ん…?あァ?新田ぁ、なに?今度は?」
「‥‥え?」

(この声って‥‥)

 ぎゅっと瞑ってた瞼を片方だけちょっと開けて、また恐る恐る頭の上から聞こえる声の方を見上げてみた。

(あぁぁぁ———‥‥っ!!)

 心の叫びが喉の奥から吐き出てきそう。
「はせ…がわせんせ‥‥」
 もぉぉぉ!一度ならず二度まで!
こんな羞恥たる姿、お許しくださ——いっ!僕はまたぎゅぅぅっと瞼を閉じて首をすくめた。
 今度こそ叱られるかと思って覚悟はしてた。
でも‥‥
 僕の頭に腕を乗っけてきて
「ほら教室、行くぞ!」
 大きなその掌で僕の頭をポンポンって叩いて、何もなかったようにして先生は僕たちのクラスへ向かった。
 そんな長谷川先生の後ろ姿を、まだぼんやりする視界に見ながら僕はドキドキしてた。

(なんだろ…この気持ち‥‥)

 でも、忘れもしない。
ぶつかった時に奴の声が聞こえた。

『チビで見えなかったわぁ!ひょこひょこ犬みてぇに…恥ずっ』

 そう言い捨てた言葉が頭の中を吹き抜けてった。
 悔しくて、悔しくて、睨んでやろうって奴の姿を探そうとしたけど、こんな状態。
 結果オーライだったのか、どうなのか‥‥。
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