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「ん…っ!…っ!ひっ…!ああぁっ!も、おく、や、めて」
泥濘んで腫れぼったい後穴の中を、熱くて強いものが拓いていく。出し入れされることで生まれるのは紛れもない快感で、それを認めたくない思いで制止の声を出す。けれど、その声は甘く、拒んでいないことは明らかだ。
頭上にある黒板は、もう使われておらず古びている。ここは、半年ほど前に使用禁止になった校舎の一番端にある空き教室だ。改修工事をするらしいがまだ始まっておらず、ここに立ち寄るのは朝の清掃業者ぐらいだろう。
教壇に座り、壁に背を押し付けられながら、揺さぶられる。目の前には教卓が置かれている。俺は何でこんなところでこんなことをしてるんだ。そんなことを思っていると、体内にある彼のものが俺を咎めるように奥深くまで入ってくる。
「ちょ、っと、んぅ……」
下腹部が圧迫される息苦しさを感じて抗議するが、熱い吐息は彼の唇に吸い込まれていく。右足にはかろうじてブレザーのズボンとパンツがぶら下がっているが、下半身の大部分は俺の出したものや彼の唾液でドロドロだ。
いまだって、彼から与えられる刺激に合わせて、俺の先端から粘り気のあるものが小刻みに噴いている。相手は俺のそんな様子を見て、クッと笑い、その振動でまた喘いでしまう。
「ぁっ!んぁぅ…」
「◯×△…?」
彼は笑いながらも、抜き際に一際感じるしこりに亀頭を押しつけるのは忘れない。どんなテクニシャンだ。
俺に性器を入れているのは、今日から俺の高校に留学することになったアーディルくんだ。石油が採れるアラブの国からの交換留学生で、いわゆる貴族の嫡男だと聞いた。
アーディルくんは、浅黒い肌をしており、ゆるくウェーブした黒髪を後ろで一つに括っている。俺より頭一つ分は背が高く、民族の違いなのか体格はしっかりしている。東洋人にはない彫りの深い顔をしており、日本人よりもスモーキーな真っ黒な瞳をしている。
アーディルくんと出会ったのは、つい先ほど、一限の前に職員室に行ったときだ。俺はクラス委員長をやっていて、転校生の世話などを基本的に任されている。
担任曰く、アーディルくんはまだ日本語が分からないそうだ。どうやってコミュニケーション取るんだよと思っていたら、通訳兼従者がいると言われた。その通訳兼従者は、先ほどまで一緒にいたはずなのにどこかへ行ってしまった。
アーディルくんは、壁に押し付けられた俺を囲むように腕をつき、同い年には見えない色気を振りまいている。彼の荒い息が首筋にかかると、快感がはしる。
彼について知っているのはそれくらいだ。あと、日本にいるのは半年だけだと聞いている半年だけのお世話係のはずがどうしてこうなったと思いながらも、すぎる快楽によって思考が溶けていく。
密着していると、彼のスパイシーな体臭が鼻をくすぐる。
「や、やぁっ、あーでぃる、くんっ!…っや」
「…※×△!」
揺さぶる速度が一層速くなったと思うと、熱いものがかかり、中で射精されたのだとわかる。
「な、なかは、やだぁ…」
パニクった俺は女の子のようなことを言って、半泣きになっている。日本語は分からないはずなのにアーディルくんは、また中のものを固くしている。
もう無理。そこで俺の意識はブラックアウトした。
~~~~~~~
「委員長」という肩書きは、ただ内申を良くするために引き受けた。できれば3年にあがったとき、有名私立の推薦枠に入りたい。そうすれば地獄の受験勉強なんてせずに済む。正直、学校の勉強は今後何の役にたつのか分からない。国語やら社会やらに時間を割く必要はなくなる。
俺は頭が悪いわけではないと思う。けれど、この進学校でトップになれるほど優れているわけではなかった。だからこそ、生存戦略を組まなければならない。
他の同級生は部活動に励むなか、俺は虎視眈々と人生が楽になる方法を探して実践する。部活に打ち込む同級生は眩しいが、羨ましいとは思わなかった。これ以上ないリアリストだが、こんな性格になってしまったものはしょうがない。
そんなこんなで、俺は自分の将来のために「委員長」になったのであり、愛校心だとかリーダーシップなんかは発揮したくない。そう思っていたのだが、ある日、学校に到着して1限の準備をしていたところ、担任から声をかけられた。
「委員長、ちょっといい?」
こういう声のかけ方は、大体がよくないことだとぴんと来た。少なくとも俺にとっては面倒なことである可能性が高い。
心の中で担任に対して(もう一限目が始まるだろうが。目、見えてんのか。お前のその安そうな腕時計見ろよ)と罵りながらも、目の前の担任の顔に内心の点数を浮かべて、「はい。大丈夫です」とにこやかに答える。
担任について職員室に行くと、校長室の方が騒がしいことに気がつく。そのとき、校長室のドアが開き、はげかけた校長とSPのような大柄なスーツ姿の男が出てきた。
その後に続いて、一際身長が高い人物が部屋から出てきた。職員室の女性陣の視線は、その男に釘付けになっていた。
皆の視線の先にいたのは、アラブ系の顔立ちをしたイケメンだった。浅黒い肌に彫りの深い顔で、立っているだけで男性フェロモンを滲み立たせているようなザ・肉食獣という男がいた。俺も思わずその男に見惚れていると、校長が担任を呼んだ。
「吉田先生。こちら、アーディル=ヤースィル・アブドゥ様だ。半年間、交換留学生として、我が校にいらっしゃった。くれぐれも丁重にもてなしてくれ」
「は、はいぃ…」
校長の言葉を聞いた後ろの従者の一人が、アーディル様とやらに耳打ちしている。おそらく、アーディル様は日本語が十分分からないのだろう。
「じゃ、じゃあアーディルさ、くん。ちょっとこっちにきていただ、もらえま、るかな?」
担任は必死に敬語を使わずに接しようとしているが、全然上手くいっていない。
通訳の従者の方を見ると、外国人お馴染みの手のひらを上に向けて肩をすくめるポーズをしていた。こんなのが日本人だと思わないでほしい。
そうしてなんとか職員室の隣の応接室に、担任、アーディル様(+通訳)、俺が入り、ようやく詳細を聞くことになった。
「アーディルさ、くん。こちらは、花見くん。うちのクラスの委員長、えっと、リーダーだね。彼が君の身の回りのお世話をするから。彼は日本美人、ジャパニーズビューティーボーイ、綺麗でしょ。この高校の人気者だよ、はは」
おい、担任。端的に言って、頭おかしいぞ。
「花見くん。こちら、アーディル様。アラブの方の国で王族をしていて、油田持ってるみたい。商談で日本に来ることになったらしくて、親御さんから日本の教育システミムを見てくるように言われたらしいよ。日本語は分からないっぽいね」
アーディルさまの背景はなんとなく分かったけれど、担任はやばい。聞いた情報を話しているだけだ。こんなにやばい人だとは思わなかった。
「……はぁ。そうなんですね」
戸惑いつつも、迷惑オーラは出さない。なぜなら、俺は優秀な委員長だから。内申点満点で卒業すると心に決めている。
「そう。委員長は面倒見もいいし、真面目だし、アーディル様を安心して任せられるね」
こいつじゃ話にならんと、アーディル様を見ると、大層なイケメンで、ちょうどこちらを見ていた彼と目が合う。真っ黒な瞳は幅広の二重に包まれており、高く直線的な男らしい鼻、薄い唇に、思わず胸が高鳴る。
実は、俺はゲイだ。自分でいうのもなんだが、そこそこきれいな顔をしているため(といっても、俺のは天然じゃない。自分を良く見せるためのケアは手間暇かけてやっていて、似合う髪型を探し、食生活、睡眠時間、運動に気を配りたいけうと肌を維持している)、結構な頻度でネコにもタチにも告白される。
しかし、いまの日本で、ゲイがフルオープンで受け入れられるかというと難しい。だからこそ、俺は安定した職を持ち、心配なく老後を迎えたい。そのために、学生である今、良い内申がほしい。
内申のため、学生のうちは誰とも付き合わないと決めている。告白されても「まだ誰も好きになったことがなくて…ごめんね?」と困ったように笑って断っている。
社会人になったら自分の稼いだ金で、ゲイバーなり、ハッテンバなりで相手を見つけると決めている。それまでの辛抱だ。
まあ、ただこれまで誰も好きになったことがないのは本当で、男性を見ていてもエッチしたいなとは思うが、付き合いたいなとは思ったことがない。
アーディル様を見ても、この気品がありつつも野生味がある感じを見ていると、セックスしてみたいなーとは思う。百人斬りって感じて上手そうだし。しょうがないだって男の子だもの。
と思っていたが、いかん。いまはアーディル様のお世話がかりとして、そして俺の将来のため上手くやっていかねばならない。
「えっと、同級生だし、アーディルくん、でいいかな?俺は花見陽(はなみよう)。なんて呼んでくれてもいいよ。俺は2年A組の委員長してる。分からないことがあったらなんでも聞いてね」
そうしてふわりと笑いかけると、通訳を通して聞いたアーディルくんがこくりと頷いた。その様子が大型犬のようでなんだか可愛らしい。
応接室を出て、教室まで歩く。時折この学校の特色やら歴史やらをなるべく分かりやすく話す。
アーディルくんは、そんな俺をじっと見つめて、通訳の言葉が聞こえているのか分からないほど無反応だった。
これは分かっていない可能性があるし、もう少しコミュニケーションをとらなければいけなかったかなと反省して、質問することにした。
「アーディルくんって油田持ってるの?」
まずい。無意識に一番気になることを聞いてしまった。通訳を通して、アーディルくんがこくりと頷いた。
「へえ。そうなんだ」
いいな。俺、油田王になりたい。将来尽きることのない富の所有者になりたい。そうすると、アーディルくんが母国の言葉を話し出した。
「油田を持っていることが気になるのか?…とおっしゃっています」
通訳さんが訳してくれる。
「そりゃあ、油田持ってたら、将来安泰だなと思っただけだよ。はしたないことを聞いてしまったかな。ごめんね」
アンタイという言葉が分からなかったのか、通訳さんが少し戸惑いながら、訳してくれた。
それを聞いたアーディルくんは俺をじっと見てきたと思うと、空き教室に連れ込まれた。
ちなみに通訳さんは心得たとばかりに、部屋の中には入ってこず、どこかへ行ってしまった。
「え…?なに。まだ案内は終わってないよ、ン」
戸惑う俺にアーディルくんはガツンと唇を合わせてきた。おいおいおい。
「なに!?」
「◯×△」
何か話しているが、通訳さんがいないのでよく分からない。
ただ、よくよく見ると、アーディルくんは嬉しそうな、それでいて興奮を抑えられないような顔をしている。もともと顔はタイプなので、そんな顔を見ると、俺まで煽られてしまう。
とにもかくにもアーディルくんは興奮しているようだ。一度合わさった唇を今度は食まれるようにされると、頭の中が痺れて何も考えられなくなってしまう。ずるずると座り込む俺を追って、アーディルくんも屈む。壁に押し付けられて、その密着度にくらくらする。
「…ん、ちゅ、…あ」
性的なことは社会人になってからだと考えていた俺は、想像の中でしか味わってこなかった他人からのキスを必死に受け止める。
思わずアーディルくんの首に腕を回すと、ワイシャツの下からそろそろと手を入れられる。
アーディルくんのスパイシーな体臭を嗅ぎながら、思考が溶けていくのを感じた。
~~~~~~~~~
そして冒頭に戻るわけだが、結論は俺はアーディルくんに抱かれた。アーディルくんは、抱いた後、どこかから現れた従者から濡れタオルを受け取り、俺を丁寧に清めた後、俺の腹に腕に回して後ろから抱きつき、頭や額にチュッチュッとキスを落としている。
え…なぜ…?
怒涛すぎる展開だが、好みの男との初体験はそこまで心に傷を与えたわけではなく、むしろなぜ?が大きかった。
どこからともなく現れた通訳さんは、嬉しそうににこにことしている。
「あの、俺、なんでこんなことになってるんですか?」
何か知っていそうな通訳さんに聞いてみる。そうすると、彼は嬉しそうに説明し出した。
「わが国では、相手に資産の状況を聞くことはプロポーズを意味します。聞かれた側が正直に答えるということは、その人を愛していて一生の責任をとるということになります。それに対して、安泰や安心の言葉を返せば、結婚が成立するのです。……てっきり、アーディル様のお世話を任された方ですので、それを知っておられたかと思ったのですが……? 花見様はアーディル様のタイプなので、喜ばしいことだと思い、そのまま訳してしまいました」
「……へえ~」
そんなことは知らない。アーディルくんは、まだ俺の額にチュッチュッしながら、母国語を話している。
「初めて見たときから結婚したいと思った。お前からプロポーズをされて嬉しかった。少し暴走してしまったのは許して欲しい。一生幸せにすると誓う、とおっしゃっています」
その甘々な雰囲気に呑まれてしまう。確かに俺もアーディルくんのことかっこいいと思ったけどさあ。そんな俺の口から出た言葉は
「…油田くれるんなら考えてやる」
だった。そうすると、またパッと顔を明るくする通訳さん。そして、通訳さんがアーディルくんに何かを伝えると、ガバリと抱きしめられた。
…あれ、また変なこと言った?
終
最後の言葉はアーディルの母国だと、「一生頼りにしてる。ずっとついていきます」らしい。知らねーよ。
本当に終
しばらく投稿が滞ると思います…!
Xに生存していますので、よければフォローいただけると嬉しいです
↓↓↓
@ichijo_twr
泥濘んで腫れぼったい後穴の中を、熱くて強いものが拓いていく。出し入れされることで生まれるのは紛れもない快感で、それを認めたくない思いで制止の声を出す。けれど、その声は甘く、拒んでいないことは明らかだ。
頭上にある黒板は、もう使われておらず古びている。ここは、半年ほど前に使用禁止になった校舎の一番端にある空き教室だ。改修工事をするらしいがまだ始まっておらず、ここに立ち寄るのは朝の清掃業者ぐらいだろう。
教壇に座り、壁に背を押し付けられながら、揺さぶられる。目の前には教卓が置かれている。俺は何でこんなところでこんなことをしてるんだ。そんなことを思っていると、体内にある彼のものが俺を咎めるように奥深くまで入ってくる。
「ちょ、っと、んぅ……」
下腹部が圧迫される息苦しさを感じて抗議するが、熱い吐息は彼の唇に吸い込まれていく。右足にはかろうじてブレザーのズボンとパンツがぶら下がっているが、下半身の大部分は俺の出したものや彼の唾液でドロドロだ。
いまだって、彼から与えられる刺激に合わせて、俺の先端から粘り気のあるものが小刻みに噴いている。相手は俺のそんな様子を見て、クッと笑い、その振動でまた喘いでしまう。
「ぁっ!んぁぅ…」
「◯×△…?」
彼は笑いながらも、抜き際に一際感じるしこりに亀頭を押しつけるのは忘れない。どんなテクニシャンだ。
俺に性器を入れているのは、今日から俺の高校に留学することになったアーディルくんだ。石油が採れるアラブの国からの交換留学生で、いわゆる貴族の嫡男だと聞いた。
アーディルくんは、浅黒い肌をしており、ゆるくウェーブした黒髪を後ろで一つに括っている。俺より頭一つ分は背が高く、民族の違いなのか体格はしっかりしている。東洋人にはない彫りの深い顔をしており、日本人よりもスモーキーな真っ黒な瞳をしている。
アーディルくんと出会ったのは、つい先ほど、一限の前に職員室に行ったときだ。俺はクラス委員長をやっていて、転校生の世話などを基本的に任されている。
担任曰く、アーディルくんはまだ日本語が分からないそうだ。どうやってコミュニケーション取るんだよと思っていたら、通訳兼従者がいると言われた。その通訳兼従者は、先ほどまで一緒にいたはずなのにどこかへ行ってしまった。
アーディルくんは、壁に押し付けられた俺を囲むように腕をつき、同い年には見えない色気を振りまいている。彼の荒い息が首筋にかかると、快感がはしる。
彼について知っているのはそれくらいだ。あと、日本にいるのは半年だけだと聞いている半年だけのお世話係のはずがどうしてこうなったと思いながらも、すぎる快楽によって思考が溶けていく。
密着していると、彼のスパイシーな体臭が鼻をくすぐる。
「や、やぁっ、あーでぃる、くんっ!…っや」
「…※×△!」
揺さぶる速度が一層速くなったと思うと、熱いものがかかり、中で射精されたのだとわかる。
「な、なかは、やだぁ…」
パニクった俺は女の子のようなことを言って、半泣きになっている。日本語は分からないはずなのにアーディルくんは、また中のものを固くしている。
もう無理。そこで俺の意識はブラックアウトした。
~~~~~~~
「委員長」という肩書きは、ただ内申を良くするために引き受けた。できれば3年にあがったとき、有名私立の推薦枠に入りたい。そうすれば地獄の受験勉強なんてせずに済む。正直、学校の勉強は今後何の役にたつのか分からない。国語やら社会やらに時間を割く必要はなくなる。
俺は頭が悪いわけではないと思う。けれど、この進学校でトップになれるほど優れているわけではなかった。だからこそ、生存戦略を組まなければならない。
他の同級生は部活動に励むなか、俺は虎視眈々と人生が楽になる方法を探して実践する。部活に打ち込む同級生は眩しいが、羨ましいとは思わなかった。これ以上ないリアリストだが、こんな性格になってしまったものはしょうがない。
そんなこんなで、俺は自分の将来のために「委員長」になったのであり、愛校心だとかリーダーシップなんかは発揮したくない。そう思っていたのだが、ある日、学校に到着して1限の準備をしていたところ、担任から声をかけられた。
「委員長、ちょっといい?」
こういう声のかけ方は、大体がよくないことだとぴんと来た。少なくとも俺にとっては面倒なことである可能性が高い。
心の中で担任に対して(もう一限目が始まるだろうが。目、見えてんのか。お前のその安そうな腕時計見ろよ)と罵りながらも、目の前の担任の顔に内心の点数を浮かべて、「はい。大丈夫です」とにこやかに答える。
担任について職員室に行くと、校長室の方が騒がしいことに気がつく。そのとき、校長室のドアが開き、はげかけた校長とSPのような大柄なスーツ姿の男が出てきた。
その後に続いて、一際身長が高い人物が部屋から出てきた。職員室の女性陣の視線は、その男に釘付けになっていた。
皆の視線の先にいたのは、アラブ系の顔立ちをしたイケメンだった。浅黒い肌に彫りの深い顔で、立っているだけで男性フェロモンを滲み立たせているようなザ・肉食獣という男がいた。俺も思わずその男に見惚れていると、校長が担任を呼んだ。
「吉田先生。こちら、アーディル=ヤースィル・アブドゥ様だ。半年間、交換留学生として、我が校にいらっしゃった。くれぐれも丁重にもてなしてくれ」
「は、はいぃ…」
校長の言葉を聞いた後ろの従者の一人が、アーディル様とやらに耳打ちしている。おそらく、アーディル様は日本語が十分分からないのだろう。
「じゃ、じゃあアーディルさ、くん。ちょっとこっちにきていただ、もらえま、るかな?」
担任は必死に敬語を使わずに接しようとしているが、全然上手くいっていない。
通訳の従者の方を見ると、外国人お馴染みの手のひらを上に向けて肩をすくめるポーズをしていた。こんなのが日本人だと思わないでほしい。
そうしてなんとか職員室の隣の応接室に、担任、アーディル様(+通訳)、俺が入り、ようやく詳細を聞くことになった。
「アーディルさ、くん。こちらは、花見くん。うちのクラスの委員長、えっと、リーダーだね。彼が君の身の回りのお世話をするから。彼は日本美人、ジャパニーズビューティーボーイ、綺麗でしょ。この高校の人気者だよ、はは」
おい、担任。端的に言って、頭おかしいぞ。
「花見くん。こちら、アーディル様。アラブの方の国で王族をしていて、油田持ってるみたい。商談で日本に来ることになったらしくて、親御さんから日本の教育システミムを見てくるように言われたらしいよ。日本語は分からないっぽいね」
アーディルさまの背景はなんとなく分かったけれど、担任はやばい。聞いた情報を話しているだけだ。こんなにやばい人だとは思わなかった。
「……はぁ。そうなんですね」
戸惑いつつも、迷惑オーラは出さない。なぜなら、俺は優秀な委員長だから。内申点満点で卒業すると心に決めている。
「そう。委員長は面倒見もいいし、真面目だし、アーディル様を安心して任せられるね」
こいつじゃ話にならんと、アーディル様を見ると、大層なイケメンで、ちょうどこちらを見ていた彼と目が合う。真っ黒な瞳は幅広の二重に包まれており、高く直線的な男らしい鼻、薄い唇に、思わず胸が高鳴る。
実は、俺はゲイだ。自分でいうのもなんだが、そこそこきれいな顔をしているため(といっても、俺のは天然じゃない。自分を良く見せるためのケアは手間暇かけてやっていて、似合う髪型を探し、食生活、睡眠時間、運動に気を配りたいけうと肌を維持している)、結構な頻度でネコにもタチにも告白される。
しかし、いまの日本で、ゲイがフルオープンで受け入れられるかというと難しい。だからこそ、俺は安定した職を持ち、心配なく老後を迎えたい。そのために、学生である今、良い内申がほしい。
内申のため、学生のうちは誰とも付き合わないと決めている。告白されても「まだ誰も好きになったことがなくて…ごめんね?」と困ったように笑って断っている。
社会人になったら自分の稼いだ金で、ゲイバーなり、ハッテンバなりで相手を見つけると決めている。それまでの辛抱だ。
まあ、ただこれまで誰も好きになったことがないのは本当で、男性を見ていてもエッチしたいなとは思うが、付き合いたいなとは思ったことがない。
アーディル様を見ても、この気品がありつつも野生味がある感じを見ていると、セックスしてみたいなーとは思う。百人斬りって感じて上手そうだし。しょうがないだって男の子だもの。
と思っていたが、いかん。いまはアーディル様のお世話がかりとして、そして俺の将来のため上手くやっていかねばならない。
「えっと、同級生だし、アーディルくん、でいいかな?俺は花見陽(はなみよう)。なんて呼んでくれてもいいよ。俺は2年A組の委員長してる。分からないことがあったらなんでも聞いてね」
そうしてふわりと笑いかけると、通訳を通して聞いたアーディルくんがこくりと頷いた。その様子が大型犬のようでなんだか可愛らしい。
応接室を出て、教室まで歩く。時折この学校の特色やら歴史やらをなるべく分かりやすく話す。
アーディルくんは、そんな俺をじっと見つめて、通訳の言葉が聞こえているのか分からないほど無反応だった。
これは分かっていない可能性があるし、もう少しコミュニケーションをとらなければいけなかったかなと反省して、質問することにした。
「アーディルくんって油田持ってるの?」
まずい。無意識に一番気になることを聞いてしまった。通訳を通して、アーディルくんがこくりと頷いた。
「へえ。そうなんだ」
いいな。俺、油田王になりたい。将来尽きることのない富の所有者になりたい。そうすると、アーディルくんが母国の言葉を話し出した。
「油田を持っていることが気になるのか?…とおっしゃっています」
通訳さんが訳してくれる。
「そりゃあ、油田持ってたら、将来安泰だなと思っただけだよ。はしたないことを聞いてしまったかな。ごめんね」
アンタイという言葉が分からなかったのか、通訳さんが少し戸惑いながら、訳してくれた。
それを聞いたアーディルくんは俺をじっと見てきたと思うと、空き教室に連れ込まれた。
ちなみに通訳さんは心得たとばかりに、部屋の中には入ってこず、どこかへ行ってしまった。
「え…?なに。まだ案内は終わってないよ、ン」
戸惑う俺にアーディルくんはガツンと唇を合わせてきた。おいおいおい。
「なに!?」
「◯×△」
何か話しているが、通訳さんがいないのでよく分からない。
ただ、よくよく見ると、アーディルくんは嬉しそうな、それでいて興奮を抑えられないような顔をしている。もともと顔はタイプなので、そんな顔を見ると、俺まで煽られてしまう。
とにもかくにもアーディルくんは興奮しているようだ。一度合わさった唇を今度は食まれるようにされると、頭の中が痺れて何も考えられなくなってしまう。ずるずると座り込む俺を追って、アーディルくんも屈む。壁に押し付けられて、その密着度にくらくらする。
「…ん、ちゅ、…あ」
性的なことは社会人になってからだと考えていた俺は、想像の中でしか味わってこなかった他人からのキスを必死に受け止める。
思わずアーディルくんの首に腕を回すと、ワイシャツの下からそろそろと手を入れられる。
アーディルくんのスパイシーな体臭を嗅ぎながら、思考が溶けていくのを感じた。
~~~~~~~~~
そして冒頭に戻るわけだが、結論は俺はアーディルくんに抱かれた。アーディルくんは、抱いた後、どこかから現れた従者から濡れタオルを受け取り、俺を丁寧に清めた後、俺の腹に腕に回して後ろから抱きつき、頭や額にチュッチュッとキスを落としている。
え…なぜ…?
怒涛すぎる展開だが、好みの男との初体験はそこまで心に傷を与えたわけではなく、むしろなぜ?が大きかった。
どこからともなく現れた通訳さんは、嬉しそうににこにことしている。
「あの、俺、なんでこんなことになってるんですか?」
何か知っていそうな通訳さんに聞いてみる。そうすると、彼は嬉しそうに説明し出した。
「わが国では、相手に資産の状況を聞くことはプロポーズを意味します。聞かれた側が正直に答えるということは、その人を愛していて一生の責任をとるということになります。それに対して、安泰や安心の言葉を返せば、結婚が成立するのです。……てっきり、アーディル様のお世話を任された方ですので、それを知っておられたかと思ったのですが……? 花見様はアーディル様のタイプなので、喜ばしいことだと思い、そのまま訳してしまいました」
「……へえ~」
そんなことは知らない。アーディルくんは、まだ俺の額にチュッチュッしながら、母国語を話している。
「初めて見たときから結婚したいと思った。お前からプロポーズをされて嬉しかった。少し暴走してしまったのは許して欲しい。一生幸せにすると誓う、とおっしゃっています」
その甘々な雰囲気に呑まれてしまう。確かに俺もアーディルくんのことかっこいいと思ったけどさあ。そんな俺の口から出た言葉は
「…油田くれるんなら考えてやる」
だった。そうすると、またパッと顔を明るくする通訳さん。そして、通訳さんがアーディルくんに何かを伝えると、ガバリと抱きしめられた。
…あれ、また変なこと言った?
終
最後の言葉はアーディルの母国だと、「一生頼りにしてる。ずっとついていきます」らしい。知らねーよ。
本当に終
しばらく投稿が滞ると思います…!
Xに生存していますので、よければフォローいただけると嬉しいです
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@ichijo_twr
応援ありがとうございます!
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あれよあれよという間に……🤭
そんなプロポーズ知らないよ!!って言いたい😂
委員長即物的で割と好きです〜😆
文化の違い恐ろしいけど幸せそうで良かった🥰最初からロックオンされてましたね💕