【完結】おひとりさま女子だった私が吸血鬼と死ぬまで一緒に暮らすはめに

仁来

文字の大きさ
上 下
29 / 83

第29話 ベッドで寝ろ

しおりを挟む



 イヴェリスと買い物に出かけてから、さらに数日が経つ。
 本当は今週あたりから雨のはずだったのが、見事に予想が外れて夏日のような毎日が続き、なかなかプリンアイスを食べに行くタイミングがなかった。

 そんなことよりも――私は最近、謎の怪奇現象に悩まされている。

「まただっ……」

 いつものようにソファで寝ても、なぜか起きるとベッドの上に居て。隣にイヴェリスがスヤスヤと寝ているという現象が多々おきている。

「ん……」

 イヴェリスの柔らかい髪の毛が、私の首筋をかすめて目が覚める。
 毎日ではないのが、また謎で……。私が寝ぼけてベッドに入り込んでいるのかなって考えるけど。さすがにお酒も飲んでないし、そんなに疲れるようなこともしていないから考えられない。

 イヴェリスに聞いてみても「知らないな」と言われるだけで――

 でもあの顔は、絶対に知っている顔。
 寝たふりをして、何が起きているのか試そうと思っても、起きている間はなにもなく。耐えきれず寝てしまったあとに、ベッドに移動している日もある。

「ねえ、なんでまたベッドで寝てるの!?」
「知らないな」
「うそ! 知ってる顔でしかない!」
「シラナイナ」

 私以上に嘘をつくのが下手なのか、この話をすると、わざとらしくすぐに視線をそらす。

「教えてくれないとプリンアイス食べに行くの取り消しにするよ」
「なっ――」

 言いざるを得ない条件を引き合いにだせば、イヴェリスは諦めたように大きくため息をついた。

「ベッドで寝ろって言っているのに寝ないからだ」
「え?」
「ソファだと辛そうなときがある。だからそういう時はベッドに移動してやっただけだ」
「そ、そんなことないし!」

 イヴェリスの言った通り、最近は肩こりがひどいと言うか、ソファで縮こまって寝すぎているせいで腰まで痛くなっているのは確か……。

「口で言っても言うこときかないだろ」
「そりゃそうでしょ!」
「だから、勝手にやっている。気にするな」
「気にするなって……気になるよ!」
「俺がそうしたいと思っただけだ」
「そ、そんなの」

 一応、彼なりに気をつかってのことってのはわかっているけど……。
 一緒に寝るのがどういうことかもわかっていないくせに。いや、でも、発情とかすぐ言うし、ドラマでも多々そういうシーンを見てるから多少なりともわかってるのかな――。

「なら、今日から素直にベッドで寝てくれ。いちいち動かすのは面倒だ」
「面倒ならしなくていいって」
「そうやって言うから、黙ってやっていたんだろ」
「そ、そんなこと言われても」
「別に一緒に寝るくらいで何かあるわけでもない」

 そっちはないかもしれないけどさ! って言いかけて、言葉を飲み込んだ。

「ああ、わかった。こう言えばいいか?」
「なに」
「俺がお前と寝たい」
「うっ」
「だから一緒に寝てくれ」

 言い方を変えたからって、そんなこと1ミリも思ってないくせに――!

「……」
「素直にそうしていろ」
「これは、イヴェリスがっ」
「わかったわかった。俺がお前と一緒に寝たいだけだ」
「くっ――」

 結局、イヴェリスの巧みな言葉にまるめこまれ、その日の夜からベッドで一緒に寝ることになってしまった。でも、目が覚めた状態からイヴェリスの隣で寝るのは初めてで、とてもじゃないけど緊張して眠れる気がしなかった。

「も、もう寝た?」
「ん-ん」
「早く寝てよ」
「…お前のココがうるさくて眠れぬ」

 そう言うと、指で胸……と言うか心臓あたりをトントンとされる。

「――ッ! へ、変なところ触らないでよっ」
「あーわかったから、静かにしてくれ」

 そんなことされたら余計に眠れないっての。

 真っ暗な部屋な天井を眺めていると、自分の心音が聞こえてくる。
 ドキドキと、でもなんだか心地よくて。隣にイヴェリスが寝ているって意識するだけで、鼓動が速くなるし、寝ることに集中しようと深呼吸すると、鼓動がまた落ち着く。そんなことを繰り返しながら。

 少しでも動くと、イヴェリスの身体のどこかに触れてしまって。まるでミイラのように固まったまま身動きがとれない。しばらくするとイヴェリスから静かに寝息のようなものが聞こえてきて

 そっと隣を見ると、眠りに入ったイヴェリスの顔がすくそばにあった。

 仮にも、女と一緒のベッドで寝ているというのに、なんとも思わないのか吸血鬼は。そんな独り言を心のなかで呟きながら目を瞑る。布団の中で手を動かした先にイヴェリスの手があるのに気付いて、バレないように自分の小指をそっと絡めたら、そのまま引き寄せられるようにイヴェリスの指がギュッと私の小指をホールドしてきた。

 からかっているのか、心配してくれてるのか。それとも、ほんの少しでも私に気があるのかはわからないけど……。

 こういうことがあるたびに『気持ちを隠さなくていいって』言われているみたいで。むしろ、好きな気持ちを引き出されているような気もする――。
 
 どうせ心を読んで、ぜーんぶお見通しなんでしょうけど。

「ん……」
「眠れたか」
「うわっ」

 いつの間にか眠ってて、アラーム音で目が覚めると、瞬きもせずにこっちを見ているイヴェリスのドアップ。

「よだれをたらしていたから拭いておいたぞ」
「――ッ!」
「よく眠れた証拠だな」
「やめてぇ、もう」
「ふふっ」

 寝起きから恥ずかしさで死にそうな私を見て、意地悪に笑う顔は、心臓がもたないっての。

「お前はそのままでいい」
「なに急に」
「いや、なんでもない。早く顔でも洗ってこい」
「言われなくても洗いますー!」

 寝顔を見られているだけでも恥ずかしいのに、よだれとか、ご丁寧に拭いてくれるとか。もうなんか、見られたくないとこまで見られていて複雑な気分なのに。

 鏡に映る自分は、思った以上に顔が赤くなってて、思った以上に嬉しそうだった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...