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第26話 デート服
しおりを挟む「ん……。うわっ――」
何かが動いた気配がして目を覚ますと、目の前にイヴェリスの顔。
つい先日、同じようなことがあった気がするけど、これはデジャヴ?
「……起きたか」
「なっ、なんでまた一緒に寝てるのっ」
私が起きたことに気付いたイヴェリスが、ゆっくりと目を開けるもんだから、近距離過ぎる近距離で目が合ってしまう。
「お前が寝てしまったんだろう」
「そ、そうだっけ」
そうだ、イヴェリスに髪を乾かしてもらうのがすごく気持ちよくて、そのまま寝ちゃったんだ――
「で、でも、一緒に寝なくてよくない?」
「お前が俺を離してくれなかったんだろ」
「え。ごめっ――!」
そう言われて、自分の腕ががっつりとイヴェリスに巻き付いていることに気付いて、すぐに離れようとする。けど、イヴェリスの腕もまた、私の腰にしっかりと巻き付いている。
「な、ど、あのっ」
「ふっ」
ウトウトしている最中に見ていた夢を思い出して、あれが夢じゃなかったってことを理解してパニック。
なんて言い訳したらいいのかわからなくて、口をぱくぱくさせることしかできずにいたら、イヴェリスに笑われた。
「一緒に寝たいならそう言えばいいだろ」
「ちがうっ!」
「別に俺はかまわない」
「ほんとにっちがうっ」
「顔に書いてあるぞ」
「なっ」
もう逃げられなくて、顔が熱くて、自分から抱き着いていたことが恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいって気持ちを人生で初めて体験することになってしまった。
「ソファで寝るのもつらいだろ。今日からベッドで寝たらどうだ」
「いや、むりっ!」
「もう2度も寝たではないか」
「寝たって言い方やめて!」
「ああ、そうか。人間は一緒に寝るだけで発情してしまうのか?」
「その発情ってのもやめて!」
「ははっ」
完全におちょくられている。からかって楽しそうに笑うイヴェリスの顔が、悔しいくらい好きだし。ああ、もう、無理だ。こんなの隠してられないよ。
だってこんなに近くに居るんだもん。
「もう起きるから離して」
「ん」
イヴェリスの腕から解放されて、ゆっくりとベッドから出る。
しばらく両手で顔を覆って、心を落ち着かせることに集中。気合を入れるように「なんにもなかった」そう自分に言い聞かせて、平常心を取り戻す。
「さ、しごとしごと」
「蒼。今日は買い物に行くからな」
「しごとしごとしごと」
少しでもイヴェリスのことを考えると平常心が崩れそうになるから、顔洗って歯磨きして、早々にヘッドホンを装着して存在を遮断する。
「蒼、聞いているのか?」
「ちょ、ちかいっ!」
でも、それをわかっているかのように、モニターの前にイヴェリスの顔がぬっと現れて、私の顔を覗き込んでくる。
「聞いているのに答えないからだろ」
「買い物ね、行く! 行くから仕事の邪魔しないで! 終わらないよ」
「わかった。シーツでも洗って待っている」
「うん、ありがと」
はあ。こんなの心臓がいくつあっても足りない。
みんな、こんなことを当たり前のようにしているの? どうやって心臓たもってるの。誰かに相談したいけど、こんなになっている自分をさらけ出すのが恥ずかしすぎて、無理だし。普通、片思いの相手と一緒に住むという状況にもならならいだろうし。
仕事をするとか言いながら、ネットで《好きな人 ドキドキを抑える方法》とか調べちゃってる時点で、私はもう意識をしないようにイヴェリスを見るということができない気がする。
そんなもんだから、結局、仕事に集中できないまま夕方になってしまった。
「イヴェリス、行く?」
「仕事終わったのか?」
「あーうん。残りは明日やるよ」
「そうか」
声をかけると、ソファに寝転がってテレビを見ていたイヴェリスが起き上がる。
「ちょっとメイクするから、あと30分くらいテレビ見てていいよ」
「そのままでもいいだろう」
「それは無理!」
一人だったらスッピンで行くけど、イヴェリスと行くってなると少しでもメイクして可愛くしていかなきゃという気分にさせられる。ああ、これがみんなの言っていたことか、なんて実感しながら。
ちょっと前の私だったら、わざわざメイクして、オシャレしてデートしなきゃいけないなんてめんどくさいとか思っていたのに……。変わっちまったな、私。
いや、デートって。ただの買い物だっての。
「まだか?」
「もう終わる」
早くしろと言わんばかりのイヴェリスの圧を感じながら、クローゼットから服を探す。こんなことなら、この前のワンピース買っておけばよかった……。
「蒼。どれを着たらいいかわからない」
「いいよ、適当に選んで着て」
イヴェリスにはそんなこと言うくせに、私はない服の中から、少しでもマシなのをと選んでいる。いや、でも張り切りすぎるのも何か言われそうだし……。そもそも、クローゼットの中にはデート向けの服なんて皆無なんだけど。
仕方なく選んだのは、穿きなれたテロテロ素材のワイドパンツに、ボートネックの薄手のニット。今度、楓に買い物でも付き合ってもらおうかな……。
「おまたせイヴェリ――」
「おそいぞ」
着替えが終わって部屋に戻ると、そこにはお兄ちゃんにもらった服を華麗に着こなすイヴェリスが立っていた。思わず、そのかっこよさに言葉を失って見惚れてしまうほどだ。
「どうした。この服は変だったか?」
ダメージの入ったオフホワイトのサマーニットに、黒のテーパードパンツ。たったそれだけなのに、大人っぽくもあどけなさも残っていて、破壊力が半端ない。ゆるっとした萌え袖も、あざとすぎる。兄が着ていてもなんとも思わないのに、イヴェリスが着るだけで魅力が500倍にも増したように感じる……。
「うん、すごい似合ってる」
「そうか? よかった。インスタで似ているのを見たのでマネしてみた」
「あ、なるほど……」
私、この隣歩くの? いや、無理なんですけど。
てか、これ、やっぱり外に出したら絶対ダメなやつじゃ――
正直言って、こんなかっこいい姿を誰にも見られたくない、知られたくないっていう方が本音かもしれない。自分にこんな独占欲があったなんて、正直、引く。
約束しちゃったし、今さらやめるわけにもいかないんだけど。
「靴買ったら、すぐ履き替えようね」
「うむ」
玄関で、いつもの踵がはみ出るサンダルを履く。
ああ、今日はさらにお財布の紐がゆるみそうで恐い。気づいたら借金地獄みたいなことにならないように、しっかりと理性を保たなければ……。
そんなこと、できるかな――
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