【完結】おひとりさま女子だった私が吸血鬼と死ぬまで一緒に暮らすはめに

仁来

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第14話 シンプル is イケメン

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 最寄りの駅について、イヴェリスに頼まれていたアイスを買って家に帰る。自分のためになにひとつ買ってないというのに。

 なぜだろう、自分の買い物より充実感があるのは。

 ガチャ

「ただいっ」
「蒼! これはなんなのだ!?」
「へっ!?」

 玄関の扉を開けるなり、部屋の奥から興奮気味のイヴェリスがとんできて、私の顔にスマホの画面を突き付けてくる。

「なにっ! 急に!」
「こ、これは甘いか!?」
「え? ちょっと待ってよ、荷物置かせて」
「そんなものはいいから答えろ!」

 パチンッ

「ちょっと!」

 0.1秒でも早く教えろとばかりに、イヴェリスは指を鳴らして魔力を使い、手に持っていた荷物を部屋へと移動させた。

 まだ靴も脱いでないってのに……。

「なに? あーこれはプリンアイスだね」
「甘いのか……?」
「甘いよ」
「ほお……」

 必死で見せてきたスマホの画面には、私がこの前食べそこねたプリンアイスの写真が映っていた。

「って、それインスタじゃん!」
「なんだそれ」
「どうやって開いたの」
「四角いところを適当に触っていたらでてきた」

 映っているモノの正体がわかって落ち着いたのか、イヴェリスは「プリンアイスというのかぁ」と、また新しいものを覚えた嬉しさみたいなのを噛みしめながら、ソファへと戻っていく。

 やっと靴が脱げた。

 今の子供たちみたいに、吸血鬼も文明に慣れるのが早いんだな。なんて関心しながら洗面所で手を洗って、瞬間移動させられた荷物からアイスを取り出す。溶けないうちにしまおうと、冷凍室を引き出すと

「新しいアイスか!?」
 その音に反応してイヴェリスがこっちを向く

「これはまだ食べちゃだめ!」
「なぜだ!」
「ダメったらダメ!」

 アイス用の電波でもついてるの? 

「それより。これ、買ってきたよ」
「服か?」
「うん、ちょっと立って」

 まだタグが付いている服を袋から取り出し、イヴェリスにあてがう。

「サイズは大丈夫そうだね」
「悪くないな」
「白は嫌かなって思って、全部黒にしちゃったよ」
「着られるのであればなんでもいい」
「そうなの? なんだ、じゃあ白も一枚くらい買って来ればよかったな」

 買ってきたのは無地のロンTとちょっとオーバーサイズのTシャツ。そしてただ着せたかっただけのシンプルなシャツ。ボトムスは楽なようにスウェットと、ただ穿かせたかったスキニーパンツ。どれも黒だ。

 ズボンのサイズは大丈夫かな……

「身に着けるか?」
「え? あ、うん」

 着てみて欲しいって思った心をそのまま読まれ

「ん」
「ちょっ!」

 おもむろにその場で脱ぎだすイヴェリス。
 瞬時に頭の中で「ノーパン」って文字が浮かんで、慌てて両手で顔を覆った。

「少し細いな」

 穿き終えた気配を感じ、指の間からちらっと確認する。スキニーパンツによって強調された長い脚。無造作にボタンが留められたシャツ。なんてことはない服なのに、指の隙間から見えた光景は、まるでファッション雑誌の1ページみたいで。

 やばい、完璧すぎる。
 私の眠っている性癖に突き刺さりそうになる。

「き、きつい?」
「いや、悪くない」
「よかった」

 家で着るだけだからと思ってシンプルで揃えちゃったけど、そのシンプルさが逆にイヴェリスの素材の良さを際立たせている。顔がイケメンだと、シンプルな服をここまで着こなせるわけ……? 

 悔しいけど、かっこいい――

「かっこいいはイケメンと同じ意味か?」
 ニヤッとしながら、聞いてくる顔が憎たらしい。

「読まないで」
「読まれたくなければ口にすればいいだろう」
「そんなの、言えるか!」

 自分の顔に自信がある男ってのは、本当に……。

「あ、そうだ! 今日からはその下にこれも穿いてね」
「なんだ、これは。短いな」
「それが下着だよ」
「2枚も穿くのか?」
「そう。人間界ではそれが常識なの!」
「ふむ……。どれ」
「まてまてまて、私の前で脱がないでってば!」
「なぜだ。発情でもするのか?」
「は、はつじょうって」

 なんて動物的な考えなんだ魔族は

「裸とかいう概念ないの!?」
「あまりないな。そもそも服を着ていない者も多い」
「女の人も?」
「王族はみな着ているが。種族によって姿も形も違うからな」
「そ、そうか」

 吸血鬼以外にも種族がいるってことだよね。
 まあ、そう考えると、人間もひとつの種族って感じなのかな……。

「とにかく! 私の前では脱がないで。とくに下は! わかった?」
「わかった」
「よし。じゃあ、アイス一本食べてよし」
「ほんとうか!」

 さっきまで愛想のない顔をしていたくせに、「アイス」を口にするだけで、魔法の言葉のように顔がパッと明るくなって、グレーの瞳もキラキラと光りだす。

 そのギャップときたら――

 いや、私はそんなものでやられませんけどね

「きゅ」
「そうだ、ゴグにも買ってきたんだったねー」

 アイスに飛びついているイヴェリスをほっといて、ゴグに買ってきたベッドも出す。

「どこにぶら下げよっか」
「きゅぴ!」
「そこでいいの?」
「きゅっ」

 ベッドにはフックが付いていて、引っかけられるようになっている。
 本来ならゲージにくっつけるんだろうけど、本人がカーテンのレールでいいと言うので、そこにひっかけることにした。

「ん。どう?」
「きゅきゅっ!」
「か、かわいいっ……」

 ゴグがスッポリとハウスの中に納まり、顔だけだしてご満悦そうに鳴く。
 その姿が可愛すぎて、思わずスマホのカメラで連写していた。

 その様子を、後ろでアイスをかじりながら見ていたイヴェリス

「ゴグのことは素直に褒めるのに、なぜ俺には言わない」
「当たり前でしょ」
「俺より魔獣を褒めるなんてお前くらいだ」

 そりゃあ魔界では王様でしょうから、そうなるでしょうね

「ゴグばかり褒めよって……」

 イヴェリスはぶつくさと文句を言いながらソファに胡坐をかいて座ると、再びスマホを持って私に画面を突き付けてくる。

「ところで、これはどうやったら食べれるのだ?」
「あーそれ? 隣駅のカフェにあるよ」
「かふぇ?」
「そう。お茶とかするお店のこと」
「……金が必要か?」
「そうだね」
「買ってこれるか?」
「買ってこれないよ」
「行かねばならないのか?」
「そうだね」
「……」

 もしや、食べに行きたいとか言い出さないよね。

「高いから無理だよ」
「なぜだ!」
「それにあんた連れて外なんて絶対いやだよ」

 ぐぬぬとうなりながら、スマホの画面を見つめたまま黙り込んでしまった。

「皆が寝静まったら行くというのはどうだ?」
「いや、お店やってないし」
「冷蔵庫をあければいいことだろう!」
「いや、それ泥棒だし。お店の人だって寝てるよ!」
「そうか……」

 さっきまでスーパーモデル顔負けのオーラを放っていたくせに、今はしょんぼりと肩を落とし、小さく見える。

「あと、そのプリン、すごい人気だから早くいかないと無くなっちゃうんだよ」
「そうなのか?それほど美味いのか?」
「まあ、私も食べれなかったからわからないけど……」
「……うーん」

 そのままイヴェリスは難しい顔をしながら考え込むと、諦めたようにスマホをテーブルの上に置いた。あまりにも寂しげなオーラを放っているその姿に、思わず同情しそうになるけど……

 ダメダメ、絶対にイヴェリスを外に連れ出すわけにはいかない。ましてや女の子がたくさんいるカフェなんて。

「蒼」
「ん?」
「金がないというのに、いつもアイスを買ってきてくれて感謝する」
「え、いや、うん」
「大事に食べさせてもらう」
「……うん」

 “金がない”というワードチョイスはちょっと引っかかるけど、イヴェリスなりに少しは申し訳ないと思ってくれてるのかな。


「だからプリンアイスもどうにか――」
「は?」


 やっぱりこいつのおだてだけは信じちゃダメだ。



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