【完結】おひとりさま女子だった私が吸血鬼と死ぬまで一緒に暮らすはめに

仁来

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第12話 ノーパン主義者

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 ご飯を食べて、お風呂に入る。
 そんな当たり前の日常も、誰とも言葉を交わすことなく、誰にも気をつかうことなくしてきたのに――

「いい? お風呂入るから! ぜっっったいにそこから動かないでよ!」
「いちいち騒がしい……。お前の湯浴びに興味はないと言ってるだろ」
「そ、そうかもしれないけど!」

 イヴェリスが家に来てから、さらに数日が経つ。
 それでも、警戒心はまったく拭えなくて(当たり前だけど)これでもか! ってくらいイヴェリスに警告してからじゃないと、安心してお風呂には入れなかった。

 お前の湯浴びに興味はない

 確かに、そう言われてしまえば、ほんとそうなんですけど……。
 吸血鬼とは言え、イケメンな上に王様だ。
 いるのかわからないけど、魔界のお姫様とか、魔族の間でもモテるに違いない。そりゃあ、美人でも美少女でもない平均以下の人間なんぞ眼中にすらないことくらいの自覚はあるんだけども……。

「ふあー。イヴェリスが来てから無駄にシャワー浴びるようになっちゃったな」

 頭から少し熱めのお湯をかぶりながら、日頃の怠慢さを思い返す。
 どこかに行かない限りは、二日に一回だったお風呂も、やっぱりなんとなく気になっちゃってこまめに入るようになってしまった。ムダ毛は、まあ、見えてないところはそっとしてあるけど。

 それよりも、もっと深刻な問題がある。
 一人暮らしが長いと、人の目と言うものがまるでない。ましてや、女として生きている時間が皆無過ぎて……。
 部屋で気にせずしていたゲップやおならが好き勝手できないというのが、今一番のストレスかもしれない。一時たりともノーブラで過ごせないし。

 身体に悪い。という点でも、お風呂に入っている間はなにもかも遮断してくれる気がして。ここしかないんだ。私が私でいられるのは……!

 そう思うと、不思議とお風呂がめんどうだとは思わなくなっていた。もちろんめんどくさく思うときもあるけど。

 今度、誰かに聞いてみようかな。
 彼氏の前でおならとかどうしてるの? って……。

 はは。仮にもイケメンと住んでいるのに、なんて色気のない悩みなんだろうか。
 いや、これは重要な問題だ。でも、イヴェリスはトイレにも行かないよな……。
 え、トイレにも行かないってことは――アレとかソレとか、どうなってんだろ。

 ちょっと……いや、だいぶ気になってしまう。

 変なことが気になったついでに、ふとイヴェリスの着ている服のことを思い出す。
 そういえば、うちに来てから一回も服洗ってなくない? 黒いヨレヨレのシャツと足首がしっかりと出てしまうくらいサイズの合ってないズボン。お風呂にも入ってないし、さすがに洗濯したい。
 
「あっつー。アイスあいす――」

 ここ数日、夜も蒸し暑くて、お風呂上りのアイスがやめられない。

「あれ……」

 いつものように、お風呂場から直行して冷凍庫のなかのアイスを漁るが、買ってきたばかりの箱アイスの中身が、どれも残り1、2本になっている。

 犯人はわかっている。

「イヴェリス! 食べたでしょ!」
「ああ、ピンクのやつも悪くなかった」
「ねー。アイスは1日1本って言ったじゃん! 食べすぎ」
「1日1本では足りない」
「足りないじゃないの、足らすの!」
「無理だ!」
「無理って、うちにはそんなにアイスいっぱい買うお金はないんだから。我慢してよ!」
「……フン」

 あれからイヴェリスは、私が寝ている間にアイスばかり食べているみたいで。買っても買っても、すぐに無くなってしまう。
 1本だけって約束しているのに、だいたい一箱ずつなくなっていく。

 もうしわけ程度の1本残しが、余計に腹が立つ。

「約束守れないなら、もうアイス買ってこないよ」
「なぜだ!」
「食べすぎだから!」
「アイスくらい、食べてもいいだろう……」

 あからさまにすねはじめる。というか、しょげている。
 形のキレイな眉を下げ、薄い唇を少しとがらせて、機嫌が悪そうに私から目をそらすその仕草は、とても300歳とは思えない。

 まるで5歳児だ。

「別に1本も食べちゃダメなんて言ってないでしょ。1日1本だけって言ってるの」
「それでは少なすぎる。あんな小さいの、すぐ無くなるではないか」
「あんたの食べてる血のキャンディだって、小さいのに13日に一回でいいんでしょ?」
「そ、それとこれとは別だ!」
「人間界では、アイスは1日1本って決まりなんです!」
「くっ……」

 別にそんな決まりはないけど。
 なぜかイヴェリスは、“人間界はこうなんだよ”っていう言い方をすると、素直に言うことを聞いてくれる傾向がある。

「ふん、人間とは本当に愚かな生き物だな」
「そうなんです、愚かなんですよ。だから我慢してくださいね」

 納得がいかないとばかりに、イヴェリスは自分の親指の爪をガリッと噛んだ。

「そういえば、あんたって服ってそれしかないの?」
「服? ああ、衣のことか」
「うん。ずっとそれ着てるでしょ」
「別に、困らないが」
「いや、困るとか困らないじゃなくて。洗濯したいし。あ、パンツはどうしてるの?」
「パンツ?」
「下着」
「そんなもの、身に着けていないが」
「えっ」

 おいおいおい。
 待ってよ王様。ノーパン主義者? 

「穿いてないの!? 」
「必要か?」
「必要でしょ! ほら、色々と、必要でしょ!」

 おもむろに自分の目線が下に行ってしまいそうになるのをこらえる

「まあ、必要ならば用意する」
「用意できるの?」
「そのへんに居る人間のを剥ぎとればいいだけだろ」
「はぎっ……だめだめだめー! え、もしかしてその服も誰かから剥ぎとったの!?」

 当たり前だろ、と言わんばかりの目でこっちを見てくるけど
 え。剥ぎとられた人っていま――
 そこまで考えて、頭に一瞬ゴグが過ぎって、恐くなってそれ以上考えるのをやめた。だからサイズが全然合ってないのか。

「はあ~……」

 少しは吸血鬼の居る生活に慣れてきたと思ったけど、まだまだ全然ですね。

 誰かと一緒に住むって、想像していた何十倍も大変だ。

 カムバック、私のおひとりさま人生。


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