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第2話 おひとりさま

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《ねーねー。明後日あたりどこか遊びに行かない?》
《ごめん! 明日から優斗と旅行いくんだ》
《また? この前も行ってなかった?》
《うん。最近、旅行の写真が結構人気でさー。フォロワー増えてきたんだよね!》
《そうなんだ。すごいねー》
《月末くらいだったら大丈夫だよ!》
《わかった。またスケジュール見て連絡するね》


 原稿も終わって、晴れて自由の身! 
 にもかかわらず、友達はみんな彼氏や家族との予定で埋まりに埋まっている。


「どっか行きたい気分なんだけどな~」


 久しぶりに遊ぼうと思って、親友の楓(かえで)に連絡するも、あっけなく振られてしまった。

 楓は去年あたりに付き合いはじめた彼氏とラブラブで、カフェやら旅行やら二人で行った場所をSNSにあげていた。
 その親近感のあるかわいいカップル感がウケてるのか、いつのまにかインフルエンサーのようにフォロワーが激増していった。

 おかげで本人たちの更新頻度も多くなって、写真のためなんだか、二人で楽しむためなんだかわからないけど、出掛けることが多くなってしまい、私と遊ぶ時間をなかなか作ってもらえなかった。

 楓のキラキラしたSNSを覗き見しながら、私はしょうもないことを24時間で消える場所に投下していく。

 アイスが美味しかったとか、このアニメおもしろいとか。

 だって、私にとってはベッドでゴロゴロしながらお菓子食べてアニメや映画を見ている時間が最高に幸せなんだもん。
 誰かといたら、こんなダラダラとした姿を見せるわけにもいかないし、ムダ毛の処理だって毎日しなきゃいけない。そもそも、外に出てもいないのに、シャワーを毎日入るのは正直めんどくさい。
 一人ならお風呂に入らなくても、ムダ毛がボーボーでも、誰も文句を言われませんからね。

 こうやって、女性ホルモンというのが減衰していくのか――
 って、ちょっと怖くなる時もあるけど。

 もともと引きこもり気質ではあるから、家から一歩も出ないなんておちゃのこさいさい。
 むしろ、どこにも出掛けずに家に居たいくらいだ。
 とは言え、原稿続きで缶詰状態になっているとさすがの私も外へ出たくなる。
 カフェとか映画館とか。そのくらいでいいからリフレッシュしたくなる。


「仕方ない、一人でカフェにでも行くか……」


 誰とも話す人がいないと独り言も多くなる。ブツブツと声にならないくらい声量で、SNSの投稿から近所の美味しそうなカフェを探す。

 #おひとりさま

 なんてタグが付いている場所はありがたい。
 同じように一人で生きている人がいるのかと思うと、なんとも心強くなる。
 時代が時代だから、おひとりさまを好む人なんていくらでもいるのだろうけど。
 当たり前ではないというか、現実的に周りに同じような人がいるかと聞かれたら、一人もいないというのが心もとない。

 ちょっと前までは、一人でご飯を食べたりカフェに入るくらいなら、ファーストフードでも買って家で食べる方がよかったけど、さすがにおひとりさまが長く続くと、一人カフェどころか、牛丼もラーメンも焼肉だって平気で行けるようになってしまった。トイレだって一人で行けなかったJK時代が懐かしい。

 この国はまだおひとりさまに優しい方だ。
 ひとりしか入れないカフェもそうだけど、ひとり専用のカラオケだってある。
 そう考えるようになってからは、もう無敵状態だ。

 30分くらいアニメを流し見しながら、何カ所か良さげなカフェに目星をつけた。
 最終的にはお店まで行って雰囲気を見て決めるスタイル。

 かわいいおひりさま用のカフェは予約制も多いし、値段も高い。
 だからいつもは一人でも入りやすいカフェを目指して行くんだけど……。
 行ってみたらカップルだらけだったり、二人組が多かったりすると気が引けてしまう。
 候補をいくつか決めておいて、実際にお店の雰囲気を見てからどこに行くか決めるのがいつもの流れだ。

 せっかくのカフェくらい、一人でも堂々とゆったりのんびりしたいもんねー。

 まあ今日はさすがに締め切り明けでどこにも行く気力が出ない。
 なんなら、昨日シャワー浴びずに寝ちゃったしな。

 ただただボケーッと脳死状態でアニメを見ている時間は、仕事と子育てを頑張っている同世代からしたら羨ましいのだろうか。

“蒼は自由でいいよね――”

 いつだか覚えてないけど、結婚した友達に言われた言葉が脳内で再生される。

 あの時は、好きな人と結婚できるんだから、そっちの方が幸せじゃないのかな? 
 なんて思っていたけど……。
 結婚=幸せというのも安易な考えだ。

 もちろん幸せなこともたくさんあると思うし、私から見たら羨ましいことばかりだけど。
 常に誰かが家にいて、常に誰かと言葉を交わさなきゃいけないって考えると
 やっぱり私は恋愛に向いてないと心底思う。

 ということで、今日はこのままおひとりさまならではの贅沢な時間を有意義に使うとしよう。
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