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第六章 姦姦蛇螺編

第304話

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 目の前の都の父親に関しての記憶は殆どないが、話しているとイライラしてくる。
 言葉の応酬を思わず交わしてしまう。

「減らず口を――」
「はじめ!」


 神谷の合図と共に、距離を詰めてくる都の父親である修二と、その場を動かずにジッと相手の出方を待つ俺。
 そんな俺達を、都は心配そうな表情で見てくる。

「余所見をしている場合か!」

 俺の頭に向けて上段回し蹴りを放ってくる修二だが、俺は、その蹴りを無造作に頭で受ける。

「――なっ!」
「優斗!?」
「問題ない。この程度の威力の蹴りなら避ける必要すらないからな」

 都へ返した言葉に、修二が距離を置き、腰を落した状態で、俺を睨みつけながら構える。

「次は、俺の攻撃か?」
「そんなこと、ある訳がないだろう!」

 空中へ飛びあがり、俺に向けて放ってくるのは胴回し蹴り。
 40歳を超えているというのに、無理をするものだ。
 俺が避けたら、どうするつもりなのか。
 そもそも、そんな予備動作のある技を使うなど戦場においては自殺行為であり、無駄に体力を浪費するだけだ。
 半歩進み、右肩で振り下ろさた修二の右膝を受け止めると共に、修二のがら空きになった背中を軽く押す。
 空中で軌道を変えられた修二の身体は、畳の上に落ち数メートル回転してから止まる。

「やれやれ」

 どうしたものか。
 正直、弱すぎて、どこまで手加減していいのか困るところだ。

「まったく……ダメージがないのか?」

 平然と立っている俺を見て修二がそんな事を行って来るが、ウィークポイントを避け、肉体に衝撃が伝わる前に、威力を殺していることから、俺の肉体には殆どダメージはない。
 もちろん、身体強化も使っていない。

「さて――、どうしたものか」

 俺の言葉にギリッと、歯を噛みしめる音が聞こえてくる。
 それと共に、正拳突きを放ってくる修二。
 俺は、その拳を払う。
 
「まさか――」

 何度も正拳突きだけでなく、顔面に目掛けて抜き手を放ってくるが、それら全てを右手一本で払う。
 
「ばかな……。こんな馬鹿な……」

 信じられないと言った表情へと変わっていく修二の拳や手刀を捌いていると、中段蹴りを放ってくるが、それを腹筋で受け止める。
 後方へと、たたらを踏む神楽坂修二。

「今の手応えは……、まるで……大型トラックのゴムを蹴ったような……」
「もう終わりか?」
「――くっ」

 俺の挑発に、再度、右上段回し蹴りを放ってくるが、俺は瞬時に修二の間合いに踏み込むと同時に――、胸に右手を当てる。

「通背拳!」

 踏み込んだ力を――、足、腰、身体――、腕へと、0コンマの1秒の世界で、一切のロスなく伝えると共に、修二の胸に沿えていた手のひらに力を籠め放つ。
 それにより、60キロ以上はある成人男性の――修二の身体が後方へと吹き飛ぶ。
 20メートルほど吹き飛び畳の上を転がっていき、道場の壁へと激突し――、ようやく止まる。

「――さて、そろそろやるか」
「お父さん!?」
「都、安心しろ。手加減はした」

 俺は腕を回しながら、都の父親が立ってくるのを待つが――。

「桂木警視監、少し失礼します」
「――いや、神谷。まだ戦闘中だが?」
「――いえ。ちょっと……」

 10秒ほど待っていたが、立ってこない様子に、何かを感じたのか神谷が走って都の父親の傍まで行くと座り――、

「死んではいませんが、気絶しています。桂木警視監の勝利です」
「え?」

 身体強化もしてない常人の人間と変わらない身体能力の、ただの通背拳の一撃で……。

「そ、そうか……」
「優斗! 手加減してって言ったじゃないの!」
「――いや、かなり手加減したんだが……」

 
 
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