最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫

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第四章 囚われし呪詛村の祟り編

第192話 第三者side

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「はぁー」

 あまりの責任転嫁っぷりに、田所は溜息をつく。

「なんだね! その態度は! 私は、内閣官房長官の時貞だぞ! ここのトップだぞ!」
「トップと言う事は責任を取るのは仕事かと思われますが?」
「そんなモノは知らない! 交戦したのは現場の独断専行だと何度も言っただろう!」
「その現場を指揮するのも、官房長官の仕事なのですが……」
「言い訳はいい!」

 ――ドン! と、机を叩き田所警視長を睨みつける時貞官房長官。

「……分かりました。それでは、私が全ての責任を取るということで良いでしょうか?」
「最初から、そう言っているだろう? 民間人に死傷者が出るくらいなら、いくらでも情報操作は利く。ただし、捜査員は事件の内容を知っている。死亡すれば、隠しきれないことだって出てくる。だから、最初から捜査員には交戦するなと言っておいただろうに……」
「そんな話は初めて聞きますが……?」
「察しろ!」

 あまりにの無茶ぶりに対策室に居た警察関係者たちは、白目で官房長官を見る。

「まったく……。余計な被害を出すなと……、もうすぐ選挙だと言うのに……。とにかく! 貴様の独断専行で行ったこと! 私には、何の関係もないことはハッキリしておけ!」

 官房長官は、録画されているのを知りつつも苛立ちを抑えきれない様子で、対策室から出て行こうと扉へと向かう。
 そんな後ろ姿を見たあと、岩手県警察本部、本部長である田所警視長は、対策室を見まわして口を開く。

「現在、盛岡駅前プリンセスホテルで発生している妖怪たちからの襲撃だが、捜査員の交戦による時間稼ぎは中止。すぐに撤収するように伝えてくれ」
「分かりました。それで、桂木優斗関係者は?」
「内閣官房長官が民間人は見殺しにしていいと判断した。そして、私に命令を下し部屋から出て行こうとしているのだから、そのままにするしかない――」
「――ちょ、ちょっと! ちょっと! 待ちたまえ!」

 突然、大声を上げる官房長官。
 官房長官は、田所警視長が、最後まで言い終える前に、扉のノブに手を掛けていた時貞がピタリと足を止め全速力で田所の側まで走ると襟首を掴んだ。

「――い、いま……、今、君は何て言ったのかね?」

 瞳を大きく見開き鼻息荒く田所警視長に詰め寄り問いかける官房長官である時貞守。

「内閣官房長官が、民間人の為に捜査員が犠牲になれば問題になると言ったことですか?」
「違う! そこじゃない!」
 
 顔を真っ赤にして怒鳴りつける官房長官。
 その様子を見て、笑みを浮かべている田所警視長。

「それでは、『俺は悪くねぇ』と、言ったところでしょうか?」
「……君は私を愚弄して――」
「それとも、ホテルには『桂木優斗の友人たちや身内』が泊まっており、彼らの身柄を守るために捜査員は交戦していた事実を下らないと官房長官が語ったことでしょうか?」
「――なっ!」

 田所警視長の言葉に、顔を真っ赤にして怒り狂っていた官房長官の顔から、一気に血の気が引いていき――、まるで死人のように顔を真っ青にさせていく。

「ホテルには……、あの桂木優斗の……身内が……?」
「はい。すでに捜査員を引き上げるように通達しましたので、ご安心ください」

 田所警視長の襟首を掴んでいた時貞官房長官の手が震え始める。
 さらに、その震えは体全体に及んでいき――、対策室内には歯と歯がぶつかる音まで響く。

「き、君は――、私を殺すつもりなのか! あの化け物を――、怒らせたらどうなるか理解しているだろう! 私なんて、何度も殺されて――」
「それが何か?」
「ええい! 映像を撮るのを止めないか! 映像を見られたら、私は……私は……。と、とりあえずだ! すぐに全捜査員をホテルに向かわせて桂木優斗の御友人を保護しろ!」
「それでは、先ほどまで言っていた捜査員に被害を出すなという命令とは食い違いますが?」
「馬鹿なのか! 君は! あれを怒らせたら、私がどうなるかくらいは想像がつくだろ!」「――ですが選挙前なのでは?」
「選挙よりも命が大事だ! すぐに捜査員を向かわせろ!」
「――ですが、捜査員も一人の人間です。責任をとれない上司の下で働くというのは……、それに、今回は死地に迎え――、死ぬということを命令しなくてはいけません。そんな危険なところに捜査員を送る事は出来ません」
「良いから! 私の命令を聞け! 君は、私が殺されてもいいのか!」
「政治家の代わりは幾らでもいますから」

 その言葉に呆気に取られる官房長官。

「田所警視長、心の声が、いま漏れていましたよ?」
「ああ、すまない。夢二(ゆめじ)警視」
「いえ。それよりも捜査員が護衛対象の室内を確認したところ、すでに人の気配はなく、殺されたのか、脱出したのかは不明と報告が上がってきています」

 そんな報告を聞いた官房長官は、膝から崩れ落ちる。

「終わった……、私の人生は終わった……」

 呆然と独り言を呟く官房長官に誰もが蔑みの視線を向けていた。 
 






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