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第四章 囚われし呪詛村の祟り編

第185話

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「それは……」

 言いよどむ厚木に俺は溜息を漏らす。
 まぁ、別に話してくれなくても問題ない。
 俺がやる事は決まっているからな。

「何か事情があるのですか?」

 俺の考えを他所に、住良木が尋ねるが――、厚木は首を横に振る。

「桂木殿」
「どうして、そこで俺に話を振る?」

 俺に尋問でもしろと? 別に俺に喧嘩を売ってきたわけではないんだし、金を貰っている訳でもないし、何より尋問しなくても阿倍珠江を殺せば、この怪異は終わるのだから余計な労力を割く必要はない。

「桂木殿は、得意ですよね」
「お前は、俺を便利な何かと勘違いしているようだが、変なところに労力を費やすつもりはないし、いまのこの時間だって、外の神主達が霊脈に必死に干渉して結界の拡大を堰き止めているんだから、無駄にするわけにはいかないだろう?」
「ですが……、何か事情があるのでしたら事件の解決に――」
「必要ないな。俺が命じられているのは、この結界を作った安倍珠江の殺害だけだ」
「――なっ!」

 俺と住良木の話を聞いていた厚木が絶句する。

「君は、いま……今、何と言ったんだ?」
「だから、この結界を作った首謀者を殺すと言っただけだ。爺さんだって言っていたよな? この結界は作った術者を殺せば消えると――。だから、それに沿ってプランを立てて殺す事にしただけだ」
「そうじゃない」
「そうじゃない? なら、何なんだ?」
「だから、君は人を殺すことに対して、その年齢で罪悪感を――、罪を覚えないのか? と、言ったんだ」
「はぁー」

 ――面倒だな。

「いいか? 爺さん。問題を解決するに当たって、シンプルな解決方法が望まれるのは、その方が論理的だからだ。そもそも、この結界を作った術者は、俺を試す為に、このような手段をとったんだ。つまりだな……」

 俺は瞳を細め呟く。

「俺の敵だってことだ。敵は殺す。絶対にな――。生かしておけば、後から身内が危険に晒されることになる。そのくらいの理屈は理解できるだろう?」
「神薙も――、神社庁も、彼と行動を供にしているという事は、同じ理屈ということか?」
「同じかどうかで聞かれますと、正直困りますが、福音の箱はパンドラの箱の複製品なのは、厚木さんもご理解されていると思いますが? そして、パンドラの箱を模倣して作られた以上、世界に干渉する力を福音の箱は有しております。すでに、世界への干渉は始まっており、日本国政府は、深刻に事態を受け止め岩手県内の神職に対して以来をし、霊脈を介して結界を展開――、福音の箱が作り出した異界が広がる力を押し留めている状態です」
「そこまで事態が……」
「ご理解頂けて幸いです。そして、日本国政府が下した決断は、術者の暗殺にて事態の収拾を図るという方法です」
「だが……、それでも……、このような年若い学生に暗殺を頼むとは……」
「厚木さん。一人の命で数十万、数百万の命が救われることは正しいことだと思われます。それに、どんな理由があろうとも、バチカンへ輸送予定であった福音の箱を、安倍珠江は盗み出し儀式を行ったことは許されることではありません。すでに被害者が出ている以上、たとえ生きて捉えたとしても死罪は確定しています。それも法で裁かれることなく、始末されます。ですので、桂木殿を攻め立てるのはお門違いも甚だしいと言わざるを得ません」

 俺が言おうとした正論を、住良木が語るのを見ると――、俺としては……。

「まぁ、そういうことだ。爺さん一人だと、この空間では生きていけないと思うが、どうする? 俺達と同行するか?」

 俺の言葉に黙って厚木は首を縦に振った。
 





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