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第三章 呪われし異界の鉄道駅編

第114話

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 案内されたのは、警察庁の地下1階。
 
「ここは……」
「一般公開されてはいないけれど、警察官の訓練所として利用しているところになるわ」

 宮原の説明を聞きながら、俺は通された地下1階に存在する大部屋へと足を踏み入れながら室内を見渡す。
 広さとしては、学校の教室二部屋分ほどはあるだろうか。
 天井の高さは3メートルほどあり、床には畳が敷き詰められている。

「なるほど……」

 俺は靴を脱ぎ畳に上がり足場を確認する。

「どうかしたのかしら?」
「畳の下は、コンクリートなのか?」
「簀の子の上に畳を敷いているわ。その下は、コンクリートだけど、それが、どうかしたのかしら?」
「――いや。何でもない」

 返答しながら、俺は柔道着に着替えて部屋に入って来た竜道寺に視線を向けた。

「待たせたな。それよりも君は、ジーパンのワイシャツだけで本当にいいのか? 君は、何かしらの武術の経験者だというのは分かっているが、そのような服では怪我をする事に繋がるぞ?」
「心配してくれるのは有難いが、俺は怪我とは無縁だからな」
「竜道寺君。桂木君は、特殊な力を持っているの」
「特殊な力ですか?」
「ええ。自己治癒能力という、超常現象的な力を持っていて指を斬り落とされても、すぐに生えてくるの。だから、彼の身体の心配はしなくても大丈夫よ」
「何ですか? それは……」
「神社庁が彼をスカウトしているの。その意味は、竜道寺君も理解出来るわよね?」
「そういうことですか。なるほど……」

 宮原に忠告を受けた竜道寺が何度か頷くと、俺を見てくると口を開く。

「つまり、何かしらの力を持っていて、それで実力者だと錯覚させている可能性もあると言う事か。たしかに……、こんな高校生に何か恐怖――、畏怖のようなモノを感じるのもおかしいというモノ……。おそらく、館浦も油断して意識を失ったに違いない……」

 一人、ブツブツと何かを言いながら鋭い視線を俺に向けてくる竜道寺。

「桂木君。君の力が、どの程度かは知らないが、あまり武術を舐めない方がいい。手加減をするが受け身くらいは取れるな? 学校で習っていると思うが」
「はぁー」

 俺は溜息をつく。
 そんな俺の態度が気に喰わないのか、竜道寺の額に血管が浮かび上がる。

「それでは、掛かり稽古はじめ!」

 宮原が宣言すると同時に、竜道寺が一気に間合いを詰めてくると俺の服裾と胸元を掴むと巻き込むようにして俺を投げる。
 視界が一瞬で反転すると同時に背中から衝撃を感じる。

「背負い投げ一本!」
「受け身も満足に取れないのか……」

 落胆したような表情――、さらにその瞳には蔑みのような色も見て取れる。

「竜道寺君。もう少し手加減してください。いくら彼の身体が自己治癒できるとしても、これでは練習になりません」
「宮原警視監。自分としては、かなり力を抜いています。ただ、警視監が言われたとおり、特殊な力に頼りきっているのかどうかは分かりませんが、武術を少し齧った程度か、もしくは、それすらも欺いているのかは分かりませんが……」
「つまり、彼には自分の身を守る力も無いと言う事を竜道寺君は言いたいのかしら?」
「はい。こんなに簡単に投げられるとは、正直、思っても見せませんでした」

 俺は首を鳴らしながら立ち上がりつつ二人の会話を聞く。
 そして一緒に付いてきた神谷は、俺をジッと見つめてきていた。

「桂木君」
「何か?」
「貴方が、武術の心得が無いと言う事は分かったわ。――でも、警察官になる以上、護身術は必須なの。だから、練習してほしいわ」
「練習ですか……」
「訓練と言ってもいいわ。出来れば、一日2時間程でいいから、ここで他の警察官に混じって稽古をするのはどうかしら?」
「稽古……」
「ええ」
「それは毎日なのか?」
「そうなるわ」
「……」

 思わず無言になる。
 警察庁は、俺のことを治療だけのヒーラーと思っているから、力を抜いて適当にやり過ごそうとしていたが、毎日、訓練に強制参加させられるのなら、話は別だ。

「そんなに暇な時間はないから参加はできないな」
「――でも桂木君の力は特別なのよ? ――なら自分の身を守れるくらいは強くならないと。それか応援が来るまで立ち回れるだけの力が必要なの。だから――」

 宮原が、俺の身を案じてくれているのは分かった。
 ただ、それは俺が誤解を与えたからでもある。

「分かった。それじゃ、俺の実力を少しだけ見せるとするか……」
「実力って……。桂木君、そんなに無理はしなくていいのよ?」
「――いや。言葉ではいくら説明しても意味はないな」

 俺は、指を鳴らす。
 とりあえず、今の俺の戦闘力は全盛期の1%未満と言ったところか。
 そうなると、Bランク冒険者程度を相手にするとしたら、肉体強化は1%程度で十分だな。
 まったく、全盛期の1万分の1で力を抑えて戦うとか、面倒だな。

「その素振りだと、君は、自分と掛かり稽古をした際に、まったく実力を見せていなかったと言う事になるのだが?」
「まぁ、そうだな……。とりあえず手加減してやるから掛かってこい」

 俺は、竜道寺に向けて手招きをする。
 それと同時に竜道寺の顔が真っ赤になり――。

「いいだろう。本気で――、手加減無しに武術の神髄を、その体に叩きこんでやろう!」
「竜道寺君! やめなさい! 金メダリストの貴方が本気で素人に掛かり稽古なんてしたら――」
「宮原警視監。桂木優斗という学生は、自己治癒能力を持っているのでしょう? ――なら、骨の一本や二本が折れたところで、すぐに治せるはずです! ――なら! 社会勉強だと思って頂こう! その舐めた態度を、性根から叩き直してやる!」

 竜道寺は怒りに満ちた声で叫びながら、俺に突っ込んでくる。
 
 
 
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