最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫

文字の大きさ
上 下
40 / 330
第一章 呪いのエレベーター編

第40話

しおりを挟む
「そういう恰好のつもりだけど?」
「はぁー」

 首を傾げて、俺を見てくる都。
 それを見て、揶揄われていることに気が付き溜息をつく。

「俺をオモチャにするのも大概にしておけ。それより欲しいモノは買えたんだろう? さっさと帰るぞ」
「あっ! 待ってよ! 優斗!」

 慌てた声で、都は、エスカレーターの方へ向けて歩き出した俺の腕を掴んでくる。

「今からエスカレーターに乗るんだから、手を掴んでいたら歩き難いだろう?」
「……じゃないから」
「――ん?」
「そうじゃないからっ!」
「いきなり大声をあげてどうしたんだ?」

 俺の知っている都は、こんな風に大声で感情を表に出すような人間ではなかったと思うが……。

「大声もあげるよ! 優斗は、今日一日は私の買い物に付き合ってくれるって約束したじゃない! それなのに、来て早々に帰ろうとするなんて、そんなの約束不履行だからねっ!」
「今日一日って……。買い物に付き合うだけじゃなかったのか?」
「ふふふっ、優斗は甘いわね。いつから買い物だけをすることを! 買い物をした! と、勘違いしていたの?」
「はぁー。仕方ないな……」

 千葉駅から連絡通路で繋がっている大型ショッピングモールは、高層になるほど高級店が入るようになる。
 そして、俺達が現在居るイベント場所は、高層に位置している事もあり客数は疎ら。
 ただ、それでも美少女の都が俺を必死に引き留めようとしている姿は、その少ない客の足を止めさせる効果があり、フロア中の人の視線は俺達に向けられていた。
 そのこともあり、俺は折れる。

「――で、何がしたいんだ?」
「ボーリング!」
「ボーリングね。京成千葉駅まで歩かないといけないんだが……」
「歩けば問題ないよね?」
「問題はないかも知れないが、違う意味で問題がある」
「違う問題?」
「とりあえず、歩くぞ」

 さすがに、興味津々な視線を向けられていると俺であっても居心地が悪い。
 これならドラゴンとタイマンで戦っていた時の方が楽まである。

「うん!」

 俺がすぐに折れた事に気分を良くしたのか、笑顔を向けてくる都。
 それを見て、俺は黄泉の国の女王である伊邪那美の言葉を思い出す。
 俺の力が、都に影響を与える可能性があるということを。
 
「どうしたの? 優斗」
「――ん? あ、ああ。何でもない」
「何だが、すごく思いつめた目をしていたけど……」
「俺が? そんな事、あるわけがない」
「そうなの? 優斗って、昔から何時も一人で抱え込んでいたから、私は心配なの」
「そんなことない」
「ふーん。そう……」

 意味深な言葉を投げかけてくる都に、俺は少しだけ違和感を覚えたが都と二人きりで買い物に行くなんて以前にもなかったと思い考えることを止めた。
 ショッピングモールから出たあとは駅の線路上の地下に沿うように作られたショッピング店の中を通る。
 しばらく歩くと、ボーリング場に辿り着く。

「優斗! いこっ!」
「そうだな」

 ボーリング場に行き、レンタル靴を借りたあとはボールを取りにいく。

「ボーリングの玉は、一番、重いやつでいいか」

 黒塗りの一番重いボーリングの玉を手に取る。
 そしてレーンに戻ると、都も既にボーリングの玉を取ってきていたようで、髪ゴムで腰まで伸ばしていた黒髪をポニテ―ルにして纏めていく。

「――さて! 優斗!」
「ん?」
「賭けをしない?」
「賭け?」

 立ち上がった都が、ボーリングの玉を手にすると、座っていた俺に話しかけてきたと思えば駆けを持ち出してくる。

「うん。優斗って、最近は私に何か隠し事をしているよね?」
「何もしていないが……」
「絶対に嘘っ! 私、分かるもの! 優斗のことを毎日、見ていたから!」
「人間には、秘密の一つや二つはあるだろうに」
「幼馴染に話せない秘密なんて無いと思うけど?」
「それじゃ秘密にならないだろうに」
「つまり秘密があるってことなのよね?」
「どうして、そうなる……」
「私、知っているの! 優斗は、ボーリングが苦手だって言う事を!」

 そうだったか?
 昔の記憶とかあやふやだからな。

「はぁ、それじゃ都がボーリングのスコアで俺に勝ったら――」
「優斗の隠し事を教えてもらいます!」
「まったく……。それじゃ、俺が勝ったらどうするんだよ?」
「――え? 優斗と結婚してあげるよ?」
「冗談も――って! 何を、言っているんだ?」

 さすがの俺も、都が提示してきた内容は驚く。
 まったく俺を揶揄うにも程がある。

「仕方ないな」

 少し全力で相手をするしかない。
 こういう結婚という女性にとっては大事なことを気軽に賭け事に利用しようとする都は危険だ。
 きちんと負かして注意した方がいい。

「はい! ストラーイク!」
「……」

 ずいぶんと簡単にストライクを取るな……。

「すごいな。もしかして都ってボーリングが得意な――」

 途中で俺は口を閉じる。
 何故なら都はグローブをしていたからだ。

「ふふっ。私、こう見えてもボーリングは上手いからっ!」
「まさか……」

 先ほどまでは、あまり気にしていなかったが都の座席近くには買い物に来ていた時には持参していなかったボストンバックが置かれている。

「これ、マイボールなの!」

 つまり、都はマイボールにマイグローブを持つほどボーリングに嵌っているというのに、ボーリングが苦手であろう俺に勝負を挑んできたと……。
 しかも賭け事までチラつかせて。

「なるほど……」

 つまり、完全なアウェーな状況。
 完全に都の策略に嵌められたということか。
 
「ごめんね、優斗。でもね! 私、どうしても優斗が何か隠していることを知りたいの」
「何も隠していないが、とりあえずお前が大人げないと言うだけは分かった」
「でも、約束はしたよね?」
「ああ、だから全力で勝たせてもらう」

 俺は、ボーリングの玉を掴むと肉体強化をしてから、ボーリングの玉をレーンに触れるか触れないかの高さで並行に投げる。
 そして――、ボーリングピンは、俺が投げたボーリングの玉に10本とも粉々に粉砕され――。

「ストライクだな」
「アウトだよ!」

 都は、俺の言葉に被せるように「弁償になっちゃうよ! どうするの!」と、続けてきた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...