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第一章 呪いのエレベーター編

第37話

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「お兄ちゃん」
「――ん?」

 靴を脱いで台所に向かおうとしたところで、横を通り過ぎようとした俺に話しかけてくる妹。

「どうした?」
「はいっ、これ――」

 家電の受話器を俺に押し付けてくる妹。
 俺は仕方なく、子機に転送し電話を取る。

「優斗なのっ!?」
「あ、ああ……。そうだが、どうかしたのか?」
「だって――、優斗が昨日の夜に居なくなったって聞いて……」
「俺は問題ないし、特に俺が心配されるようなことはない」
「でも! 胡桃ちゃんが涙声で、優斗が失踪した! って、電話してきたんだよ! 心配しない方がおかしいから! ――なのに! 心配されるようなことはないって! どういうことなの!」

 何か知らないが都が、非常に御立腹だと言うのは電話を通しても分かった。
 だが、俺は誰かに心配してもらうほど弱くはないし、そんな資格もない。

「しかも、海を見に行っていたって……、優斗は暗いところが嫌いだったよね!」

 やばいな、そのへんはまったく覚えてない。
 だいたい何十年前の話を持ち出されても俺としては困るんだが……。
 
「ほら! 俺も、高校生になったんだし、何時までも暗闇を恐れていても仕方ないだろう?」
「……」

 俺の言い訳に無言で返してくる都。
 ここは、話題を変えた方がいいな。

「都、お父さんは大丈夫か?」
「――え?」
「今日、各都道府県のエレベーター内部から行方不明者が出てきたとニュースで流れていたよな? それで、お父さんと会社は大丈夫なのか?」
「う、うん。お父さんは、無罪放免で、もう戻ってきていて、さっき出社したけど……」
「つまり、もう大丈夫だと言う事か?」
「うん。警察署で使われているエレベーターは、お父さんの会社のエレベーターとは別のメーカーだから……」
「つまり嫌疑は不十分の上、釈放と言ったところか」
「うん、それに報道陣も実際に行方不明が出てきた警察署に行っているから、朝までの報道陣が詰め寄ってきた時とは打って変わって静かだよ?」
「そうか」

 当事者から話しを聞けたのは大きい。
 何とか、都を救うという目的は達成できたのだから御の字といったところだろう。

「――って! 優斗! 話しを逸らさないで!」
「何のことだ?」
「もう! 私を心配させたんだから! 責任取ってよね!」
「責任って何の責任だ……」

 あまりにも突拍子すぎる会話の流れ。
 正直、ついていけない。

「えっとね! 優斗って、明日の土曜日って暇だよね?」
「暇というより、今週いっぱいは学校が休みだって聞いたが……」
「――なら! 私に付き合って!」
「お金ならないぞ」
「もう! そういうことじゃないから! 少し、私の買い物に付き合って!」
「つまり、それが俺の責任ということか」
「そうそう。責任取ってくれるよね?」
「はぁ……、仕方ないな」

 どうして、俺なんかを買い物に誘うのか。
 都は、見目麗しく人付き合いも卒なく出来ているのだから、俺なんかと買い物に行かなくてもいいと思うんだがな……。

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