30 / 330
第一章 呪いのエレベーター編
第30話
しおりを挟む
「そういえば、お前達は鬼でいいのか?」
前を歩いている魔物に気になったことは確認しておく。
話しが通じるのなら、色々と話を聞いておいた方がいいだろう。
まぁ、話せないことはあるらしいし、答えられない事も多いだろうが聞くだけならタダだからな。
「――ん? そうだが?」
「なるほど……」
「お前らの世界にも鬼という存在は伝承されているのだろう?」
「そうだな。人に害を為す存在として鬼というモノがあると俺は聞いているが?」
「そうか」
俺の返答に短く答えただけで、会話が途切れる。
「あんたたちの名前は?」
すかさず俺の隣を歩いていた山崎が鬼に話しかけると互いに鬼は見つめ合う。
「名前はない」
「名前がない?」
「うむ。この世界では、鬼という存在は、鬼という存在でしかない。名前も何も存在していない」
「名前がないって……」
鬼からの返答は、予想外だったのか呆ける山崎。
「俺達にとっては普通。一人一人に名前がある方がおかしい」
「なるほど。つまり固有名詞ではなく、鬼という存在そのものが、お前たちの名前の由来ってことか」
「え? それって……」
「つまりだな。世界を構成し維持するシステムの記号の羅列に名前が与えられてないみたいなものだ」
「そんな事がありえるんですか?」
「ありえるかどうかは問題じゃない。この世界には、この世界の独自のルールがあるってことだ」
「人間、ずいぶんと物分かりがいい」
「そうか?」
「うむ。大半の人間は、話し合いにもならない」
「大半の人間か。それって、ここ最近に、この世界に迷い込んだ人間がいるってことか?」
「――ッ! これ以上は答えられない」
「そうか」
つまり、俺達の前に、この世界に訪問した人間が少なくない人数存在するってことか。
厄介だな……。
エレベーターの怪異を終わらせるという目的があって来ているから、少なくともエレベーターで消えた人間を無傷で帰還させる必要がある。
そうしないと、エレベーター業者にかけられた嫌疑というのは晴れないからな。
「ほら、見えてきたぞ。人間」
鬼たちが足を止める。
そして、鬼が指差す方角には巨大な都市が見えた。
都市は、光り輝き、それは! まるで――。
「秋葉原があるな……」
「何故に、黄泉平坂に秋葉原が……」
「あそこに主が待っています」
「東京都庁がありますよ! 桂木さん!」
「ああ、あるな……。それより、ここは本当に黄泉平坂で良いんだよな?」
「もちろんだ」
「そうか……」
俺が描いていたホラー系っぽい暗黒的な暗い城のようなモノを存在していただけに、町というか都市の中に入って、猫耳メイドをした年若い女性とか、秋葉系の服装をした男達が歩いているのを見ると拍子抜けしてしまう。
「――なあ」
「どうかしたので?」
「ここは本当に地獄でいいんだよな?」
「地獄というか黄泉平坂ですが?」
「桂木さん、黄泉平坂は黄泉の国――、つまり死者の国です」
「つまり地獄と死者の国は別物なのか?」
「ああ。人間は、混同している者が多いな」
「なるほど……」
秋葉原を抜けると、秋葉原駅のある場所に都庁が存在している。
どこから、どうみても都庁だ。
俺は、思わず頭が痛くなるのを眉間に手を当てながら堪える。
一体、どういうことだ?
絡め手で幻惑を使い、相手の動揺を誘う為に東京を見せてくるのなら、まだ話は分かる。
だが、鬼たちの言動から、そういう虚実のようなモノは見受けられない。
――これは、明らかに俺の想定を超える問題だ。
都庁に入り、エレベーターに乗り到着したのは展望台。
そこは、さすがに現実世界の都庁の展望台と言った感じではなく、暗いホールが存在していた。
さらに所々に配置されている灯篭。
それらが良い感じにアクセントになり暗闇と光の対比を作り出し、常人なら、その神秘性と暗闇に不安感を覚える作りとなっていた。
「鬼たちよ。また迷い込んだ人間を連れて来たのか?」
唐突に、透き通り色香を含んだ女性の声が、聞こえてきた。
「主様。死者ではない生者を連れて参りました」
「死者ではないと?」
「はい」
「ふむ……。そこの人間よ、立っておらず近づくことを許す」
「人間、主の許可が下りた」
「そうか」
声の主に向かって、日本庭園のような場所を進む。
すると10メートル先に、段差が存在していた。
段差――、一段高くなった場所には畳が敷かれており、その畳には一人の女性が座っている。
女性は平安時代の女性が着ていたであろう十二単(じゅうにひとえ)を身に着けており、その後ろには屏風が置かれていた。
それは、まるで一つの芸術のように見えたが――。
「え、エルミーナ……なのか?」
唐突に、山崎がふらつく足取りで女に近づいていく。
たしかに絶世の黒髪美女であった。
だが、エルミーナという名前では無いと思うんだが……。
「おい! 山崎、正気に戻れ!」
俺は、山崎の腕を掴むが、正気に戻らず必死に女性へと近づいて行こうとしている。
何かしらの幻術の類か?
「まったく、厄介だな」
手刀を山崎の首へと落とし、意識を刈り取る。
そして、砂砂利の上に寝かせたあと、俺は女性へと視線を向ける。
「ほう。其方は、妾を見て何とも思わんのか?」
「さあな? それよりも、俺達を鬼が連れてきた理由と、エレベーターにどうして細工をしたのかを知りたい。答えてくれるんだろうな?」
「まぁ、その前に自己紹介が先であろう? 人間。妾は、この黄泉平坂にして黄泉の国を治める神、伊邪那美命(いざなみのみこと)である」
前を歩いている魔物に気になったことは確認しておく。
話しが通じるのなら、色々と話を聞いておいた方がいいだろう。
まぁ、話せないことはあるらしいし、答えられない事も多いだろうが聞くだけならタダだからな。
「――ん? そうだが?」
「なるほど……」
「お前らの世界にも鬼という存在は伝承されているのだろう?」
「そうだな。人に害を為す存在として鬼というモノがあると俺は聞いているが?」
「そうか」
俺の返答に短く答えただけで、会話が途切れる。
「あんたたちの名前は?」
すかさず俺の隣を歩いていた山崎が鬼に話しかけると互いに鬼は見つめ合う。
「名前はない」
「名前がない?」
「うむ。この世界では、鬼という存在は、鬼という存在でしかない。名前も何も存在していない」
「名前がないって……」
鬼からの返答は、予想外だったのか呆ける山崎。
「俺達にとっては普通。一人一人に名前がある方がおかしい」
「なるほど。つまり固有名詞ではなく、鬼という存在そのものが、お前たちの名前の由来ってことか」
「え? それって……」
「つまりだな。世界を構成し維持するシステムの記号の羅列に名前が与えられてないみたいなものだ」
「そんな事がありえるんですか?」
「ありえるかどうかは問題じゃない。この世界には、この世界の独自のルールがあるってことだ」
「人間、ずいぶんと物分かりがいい」
「そうか?」
「うむ。大半の人間は、話し合いにもならない」
「大半の人間か。それって、ここ最近に、この世界に迷い込んだ人間がいるってことか?」
「――ッ! これ以上は答えられない」
「そうか」
つまり、俺達の前に、この世界に訪問した人間が少なくない人数存在するってことか。
厄介だな……。
エレベーターの怪異を終わらせるという目的があって来ているから、少なくともエレベーターで消えた人間を無傷で帰還させる必要がある。
そうしないと、エレベーター業者にかけられた嫌疑というのは晴れないからな。
「ほら、見えてきたぞ。人間」
鬼たちが足を止める。
そして、鬼が指差す方角には巨大な都市が見えた。
都市は、光り輝き、それは! まるで――。
「秋葉原があるな……」
「何故に、黄泉平坂に秋葉原が……」
「あそこに主が待っています」
「東京都庁がありますよ! 桂木さん!」
「ああ、あるな……。それより、ここは本当に黄泉平坂で良いんだよな?」
「もちろんだ」
「そうか……」
俺が描いていたホラー系っぽい暗黒的な暗い城のようなモノを存在していただけに、町というか都市の中に入って、猫耳メイドをした年若い女性とか、秋葉系の服装をした男達が歩いているのを見ると拍子抜けしてしまう。
「――なあ」
「どうかしたので?」
「ここは本当に地獄でいいんだよな?」
「地獄というか黄泉平坂ですが?」
「桂木さん、黄泉平坂は黄泉の国――、つまり死者の国です」
「つまり地獄と死者の国は別物なのか?」
「ああ。人間は、混同している者が多いな」
「なるほど……」
秋葉原を抜けると、秋葉原駅のある場所に都庁が存在している。
どこから、どうみても都庁だ。
俺は、思わず頭が痛くなるのを眉間に手を当てながら堪える。
一体、どういうことだ?
絡め手で幻惑を使い、相手の動揺を誘う為に東京を見せてくるのなら、まだ話は分かる。
だが、鬼たちの言動から、そういう虚実のようなモノは見受けられない。
――これは、明らかに俺の想定を超える問題だ。
都庁に入り、エレベーターに乗り到着したのは展望台。
そこは、さすがに現実世界の都庁の展望台と言った感じではなく、暗いホールが存在していた。
さらに所々に配置されている灯篭。
それらが良い感じにアクセントになり暗闇と光の対比を作り出し、常人なら、その神秘性と暗闇に不安感を覚える作りとなっていた。
「鬼たちよ。また迷い込んだ人間を連れて来たのか?」
唐突に、透き通り色香を含んだ女性の声が、聞こえてきた。
「主様。死者ではない生者を連れて参りました」
「死者ではないと?」
「はい」
「ふむ……。そこの人間よ、立っておらず近づくことを許す」
「人間、主の許可が下りた」
「そうか」
声の主に向かって、日本庭園のような場所を進む。
すると10メートル先に、段差が存在していた。
段差――、一段高くなった場所には畳が敷かれており、その畳には一人の女性が座っている。
女性は平安時代の女性が着ていたであろう十二単(じゅうにひとえ)を身に着けており、その後ろには屏風が置かれていた。
それは、まるで一つの芸術のように見えたが――。
「え、エルミーナ……なのか?」
唐突に、山崎がふらつく足取りで女に近づいていく。
たしかに絶世の黒髪美女であった。
だが、エルミーナという名前では無いと思うんだが……。
「おい! 山崎、正気に戻れ!」
俺は、山崎の腕を掴むが、正気に戻らず必死に女性へと近づいて行こうとしている。
何かしらの幻術の類か?
「まったく、厄介だな」
手刀を山崎の首へと落とし、意識を刈り取る。
そして、砂砂利の上に寝かせたあと、俺は女性へと視線を向ける。
「ほう。其方は、妾を見て何とも思わんのか?」
「さあな? それよりも、俺達を鬼が連れてきた理由と、エレベーターにどうして細工をしたのかを知りたい。答えてくれるんだろうな?」
「まぁ、その前に自己紹介が先であろう? 人間。妾は、この黄泉平坂にして黄泉の国を治める神、伊邪那美命(いざなみのみこと)である」
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件
シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。
旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?
甘い誘惑
さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に…
どんどん深まっていく。
こんなにも身近に甘い罠があったなんて
あの日まで思いもしなかった。
3人の関係にライバルも続出。
どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。
一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。
※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。
自己責任でお願い致します。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる