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第一章 呪いのエレベーター編
第5話
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「……そうだね。それじゃ、何が起きたのか詳しく教えてもらってもいいかな? この付近はカメラがないし、一部始終を知っているのは君と……」
「そう……だな……」
警官の視線が、母親に抱きしめられている女の子の方へと向けられるが、すぐに俺へと眼差しを向けてきた。
まぁ小さい子供に聞くよりかは、学生の俺に聞いた方が詳しい事が聞けるだろう。
内心では、『面倒だな』と思いつつ、道路に転がっていったボールを、女の子が追ったことで車に轢かれる事になったこと。
運転手は避けようがなかった事を説明する。
もちろん、俺は咄嗟に体が動いて女の子を助けたところまでは覚えているが、気が付いたらガードレールにぶつかっていたことを説明していく。
「このガードレールの凹みは君がぶつかって出来たのかね?」
「いや、最初からあったな」
ガードレールに血がべっとりとついているが、人の生死の境を見た事が無い人間にとっては本物の血かトマトケチャップの跡か何て区別がつかない。
それに何より、俺が生きているのだから、血だとは思わない。
簡単に言うなら、思い込みから来る正常な判断と区別がつかないというやつだ。
「なるほど……」
警官は、聴取を取りながら無線機に向かって怪我人がいない事を告げていく。
「あの……少しいいですか?」
聴取も終わりに差し掛かったところで、救急隊の人間が話しかけてきた。
それは最初に俺に話しかけてきた人物とは別の人で。
「何でしょうか?」
「先ほど、車を運転していた方は、病院に運んだと連絡が来たのですが――」
そういえば、聴取中に救急車が走り去ったな。
「そちらの方は……血ですよね? 服についているの」
「違います。トマトケチャップです」
「そんな馬鹿な……」
「少し考えてください。あのガードレールと地面のトマトケチャップが、本当に血液だったら俺は大変な事になっていますよ?」
「……だ、だが……。色合いが……」
「気のせいです」
俺は、あくまでトマトケチャップで通すことに決める。
余計な面倒事はごめんだ。
「分かりました。それでは、車に撥ねられたりはしたんですよね?」
「さあ? 記憶にないですね。気が付けば、ガードレールに体がぶつかっていたので……。ただ、考えてみてください。本当に車に撥ね飛ばされていたら、俺は今頃、とんでもない事になっていますよ」
肩を竦めながら救急隊員に事情を説明する。
「……たしかに」
どこまでも元気な俺。
そんな俺の姿を見て、俺の言葉を疑うような人間はいないだろう。
「まぁ、どうしても気になるのでしたら女の子の方を病院に連れていって検査して上げてください」
「君は?」
「俺は必要ないですね」
「だが――、事故直後というのは、痛みを感じないこともあって……」
「その時は病院に行きますので」
「だったら、今、乗っていった方が……」
「いえいえ。大丈夫ですから」
「本官としても、後遺症が出ても困ると思うので病院で検査を受けた方がいいと思うが……」
「本当に大丈夫ですから」
そもそも異世界では腕や足どころか胴体が千切れた事もあるし……。
それと比べたら大した怪我ですらない。
よくあった事だ。
「……分かりました」
救急隊員が諦めたかのように俺から離れていき、女の子を抱いている女性の元へと近寄る。
女性には他の警官が聴取していたようで、少し揉めていたが、俺の方へ女の子と手を繋ぎながら向かってくる。
「あの……娘を助けて頂き、ありがとうございました」
「いえいえ。気にしないでください。それより、あまり子供を責めないでください。今度、気を付ければいいので」
「はい……。ほら、美香子」
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
「ああ、気にしなくていいぞ。別に誰かを助けるのに理由なんていらないからな。ただ、道路にいきなり出たら危ないから気をつけるように」
「はーい……」
俯く女の子。
とりあえず説教はこのくらいでいいだろう。
女の子と母親である女性が、近くの総合病院に向かうために救急車に乗る。
そして救急車が去り、消火活動が終わった消防隊員と警察官が話合いを開始したところで――。
「それじゃ俺は、そろそろ帰ってもいいですか?」
俺の確認に警官は、聴取が終わったからなのか引き止めることはしなかった。
「そう……だな……」
警官の視線が、母親に抱きしめられている女の子の方へと向けられるが、すぐに俺へと眼差しを向けてきた。
まぁ小さい子供に聞くよりかは、学生の俺に聞いた方が詳しい事が聞けるだろう。
内心では、『面倒だな』と思いつつ、道路に転がっていったボールを、女の子が追ったことで車に轢かれる事になったこと。
運転手は避けようがなかった事を説明する。
もちろん、俺は咄嗟に体が動いて女の子を助けたところまでは覚えているが、気が付いたらガードレールにぶつかっていたことを説明していく。
「このガードレールの凹みは君がぶつかって出来たのかね?」
「いや、最初からあったな」
ガードレールに血がべっとりとついているが、人の生死の境を見た事が無い人間にとっては本物の血かトマトケチャップの跡か何て区別がつかない。
それに何より、俺が生きているのだから、血だとは思わない。
簡単に言うなら、思い込みから来る正常な判断と区別がつかないというやつだ。
「なるほど……」
警官は、聴取を取りながら無線機に向かって怪我人がいない事を告げていく。
「あの……少しいいですか?」
聴取も終わりに差し掛かったところで、救急隊の人間が話しかけてきた。
それは最初に俺に話しかけてきた人物とは別の人で。
「何でしょうか?」
「先ほど、車を運転していた方は、病院に運んだと連絡が来たのですが――」
そういえば、聴取中に救急車が走り去ったな。
「そちらの方は……血ですよね? 服についているの」
「違います。トマトケチャップです」
「そんな馬鹿な……」
「少し考えてください。あのガードレールと地面のトマトケチャップが、本当に血液だったら俺は大変な事になっていますよ?」
「……だ、だが……。色合いが……」
「気のせいです」
俺は、あくまでトマトケチャップで通すことに決める。
余計な面倒事はごめんだ。
「分かりました。それでは、車に撥ねられたりはしたんですよね?」
「さあ? 記憶にないですね。気が付けば、ガードレールに体がぶつかっていたので……。ただ、考えてみてください。本当に車に撥ね飛ばされていたら、俺は今頃、とんでもない事になっていますよ」
肩を竦めながら救急隊員に事情を説明する。
「……たしかに」
どこまでも元気な俺。
そんな俺の姿を見て、俺の言葉を疑うような人間はいないだろう。
「まぁ、どうしても気になるのでしたら女の子の方を病院に連れていって検査して上げてください」
「君は?」
「俺は必要ないですね」
「だが――、事故直後というのは、痛みを感じないこともあって……」
「その時は病院に行きますので」
「だったら、今、乗っていった方が……」
「いえいえ。大丈夫ですから」
「本官としても、後遺症が出ても困ると思うので病院で検査を受けた方がいいと思うが……」
「本当に大丈夫ですから」
そもそも異世界では腕や足どころか胴体が千切れた事もあるし……。
それと比べたら大した怪我ですらない。
よくあった事だ。
「……分かりました」
救急隊員が諦めたかのように俺から離れていき、女の子を抱いている女性の元へと近寄る。
女性には他の警官が聴取していたようで、少し揉めていたが、俺の方へ女の子と手を繋ぎながら向かってくる。
「あの……娘を助けて頂き、ありがとうございました」
「いえいえ。気にしないでください。それより、あまり子供を責めないでください。今度、気を付ければいいので」
「はい……。ほら、美香子」
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
「ああ、気にしなくていいぞ。別に誰かを助けるのに理由なんていらないからな。ただ、道路にいきなり出たら危ないから気をつけるように」
「はーい……」
俯く女の子。
とりあえず説教はこのくらいでいいだろう。
女の子と母親である女性が、近くの総合病院に向かうために救急車に乗る。
そして救急車が去り、消火活動が終わった消防隊員と警察官が話合いを開始したところで――。
「それじゃ俺は、そろそろ帰ってもいいですか?」
俺の確認に警官は、聴取が終わったからなのか引き止めることはしなかった。
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