上 下
427 / 437

第427話 大寒波襲来(8)

しおりを挟む
「酷いわねっ!」
「だって、本気ではないでしょう?」
「あら?」
 
 口に手を当ててディアルーナさんは少し驚いた表情を見せる。
 
「そう見えるかしら?」
「そう見えます。それと、ここは俺の顔に免じて先ほどのアロイスさんの発言を尊重していただくと助かります」
「……仕方ないわね。姫巫女と結婚する人間の――、あの魔法師の血筋の言葉を無碍にするわけにはいかないわね」
「あの魔法師?」
「ふふっ、それは、こっちの話。それとゴロウさん」
「何でしょうか?」
「リーシャには、今度、こっちの世界で良いから会わせてもらえるかしら?」
「分かりました」
 
 それなら、まったく問題ない。
 それよりもやけにアッサリと引いてくれたものだな。
 やっぱり、さっき口にした『あの魔法師の血筋』という部分が関係あるのかも知れない。
 ディアルーナさんは、言葉を濁していたけどおそらくは俺の父親の事だろうというのは何となくだが想像がつく。
 だが、それなら濁す意味が分からないが……。
 
「アロイス。私は樹海に戻るわ。エルフガーデン王国のリネラス様に、この事を報告しないといけないから」
「エルアル大陸のエルフガーデン王国にですか?」
「ええ。理由は、ノーマンなら分かるはずよ?」
「……かしこまりました。そのように伝えておきます」
「よろしく頼むわ。それじゃ、ゴロウさん。またね」
 
 彼女は、俺の方へと振り向いてくると頭を下げたかと思うとアロイスさんたちと立ち去った。
 その後ろ姿を見送ったあと、俺は溜息をつく。
 
「何とかなりましたね。ナイルさん、大丈夫ですか?」
「――は、はい。それよりも、ディアルーナ様が直接、こちらに来られるとは思いませんでした。メディーナも大丈夫ですか?」
「はい。それにしても、あれが樹海のエルフですか。凄まじい力を有していましたね」
 
 その場に座りこむメディーナさん。
 
「少し、ここで休みましょう」
「そうですね。魔力の回復もありますから」
 
 ナイルさんも同意すると、立ち上がらず、その場で座ったまま応じてくる。
 俺は店に戻る。
そして冷蔵ケースを開けて清涼飲料水を二つ手に取り二人の元へと戻る。
 
「これでも飲んでください」
 
 二人にスポーツ飲料水を、それぞれ渡す。
 
「ありがとうございます。ゴロウ様」
「申し訳ありません」
 
 ナイルさんとメディーナさんが、それぞれ感謝の言葉を述べてくるが俺は頭を左右に振る。
 
「俺を守るために二人とも大変な目にあったのですから、気にしないでください」
 
 そう俺は言葉を帰す。
 二人が飲料水を飲んで息を整えている間、俺は店の周辺を見渡す。
 店の周囲には、20人ほどの兵士がいるが、こちらへは意図的に視線を向けてきてはいないようだった。
 そこに疑問は抱いたが、今は黙っておくことにする。
 しばらくして二人が落ち着いたところで――、
 
「それで、これからどうしますか? ナイルさん」
「そうですね。先ほど、説明した通り私は駐屯地に行き書類作業を行います」
「分かりました」
 
 俺は、メディーナさんの方を見る。
 
「私は、一度、宿舎に戻ります。何か報告が来ているかも知れませんので」
「そうですか……」
 
 そうなると、俺は手持ち無沙汰になるが――、
 
「とりあえず1時間後に、ここで集合にしますか」
「ゴロウ様は、それでよろしいのですか?」
「まぁ、俺としては何かすることがあるのか? と聞かれれば何もすることはないですからね」
 
 それなら一度、日本に戻ってから、また来るのもありだろう。
 
「それでしたら、一度、兵士の駐屯所に来られるのは如何でしょうか?」
「駐屯所に?」
 
 ナイルさんからの思いがけない提案に俺は驚くが――、
 
「はい。兵士たちも次期領主となられるゴロウ様が訪問すれば士気も上がると思いますので」
「俺が行っても大丈夫なんですか?」
 
 思わず聞き返してしまう。
 俺は戦いに関しては素人もいいところだ。
 そんな俺が顔を出していいのか? と、考えてしまうのは当然だが――、
 
「はい。兵士の中では、ゴロウ様には興味がある者も多くおりますので」
「それは、どういう意味で?」
「莫大な魔力を有しているという意味で、憧れとして見られています」
「……そ、そうですか」
 
 俺は魔法がまったく使えないんだが……。
 そんな俺が駐屯所に言っても……と、思ってしまうが……、何故か期待するような眼差しをナイルさんが向けてきている辺り、断るというのは、普段からお世話になっている手前、難しい。
 
「わ、分かりました。それでは、お願いできますか?」
「承知しました! それでは、これから行きましょう。メディーナは、1時間後に、この場所で集合でいいですね?」
「分かりました。副隊長」
 
 メディーナさんと別れて、俺はナイルさんに連れられて駐屯所へと向かう。
 整地されている場所から離れたところで兵士の人達が封鎖している場所から、市街地へと出る。
 封鎖されていた場所から市街地に入り、しばらく歩くと少しずつ人通りが増えてくる。
 そこには、武器を背中に背負った人や金属製の鎧を着込んだ兵士や、杖を持ってローブを引き摺りながら歩く人など多種多様。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...