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第426話 大寒波襲来(7)

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 このままアロイスさんと、目の前の――、クレメンテさんやリーシャさんとは見た目が全く違う本物のエルフっぽいディアルーナって人が会話をしていても、話は堂々巡りになるだけだな。
 
「あの……、少しいいですか?」
「これは! ゴロウ様! 挨拶が遅れました」
 
 頭を下げてくるアロイスさんと兵士の人達。
 
「気にしないでください。頭を上げてください。それよりも、こちらの女性は――」
「ディアルーナでいいわよ? 巫女姫のリーシャと結婚するのだから……。そうすれば、エルフとハイエルフ族の中でも族長よりも上の地位になるのだから」
「もしかして……巫女姫って族長よりも立場が?」
「上よ? 人間でいう所の女王と言ったところかしら?」
 
 そんな女王がトラックの運転してフォークリフトを操作して異世界で仕事をしていると。
 そもそもリーシャって、そんな偉い立場の人間というかサキュバスというかエルフだったのか……。
 よくよく考えてみればリーシャって、結構、敬われていた気がする。
 
「――そ、そうなんですか……」
 
 思わず苦笑いしてしまう。
 
「そうよ? それよりも――」
「ディアルーナ様。そろそろ屋敷に戻って頂かなくては……」
「いやよ」
 
 アロイスさんからの提案をバッサリと切って捨てると、俺に近づいてくると抱き着いてきた。
 
「ねえ? 私も異世界に行ってみたいのだけどいいかしら? 私、気になるのよね? 異・世・界」
「いや、それは……」
「それに、巫女姫にも久しぶりに会いたいし。あの子って、結構我儘に育ってきたから、大変でしょう? 相手」
 
 俺は、そっと目を逸らす。
 たしかに我儘ではあるが、現在のリーシャは藤和さんのところで仕事を真面目にこなしていて一応とは言えある程度は周囲に配慮できるようになってきた。
 人は環境次第で成長するというが、その典型例だ。
 
 ――ただし! エルフやハイエルフ族の中ではもっとも位が高い人物に肉体労働させていると知ったら、目の前の副族長のディアルーナさんは怒るかも知れない。
 その事を考えると、日本に連れて行ってはいけない気がする。
 
「日本にですか?」
「日本っていう国なの?」
「はい」
 
 俺は頷く。
 するとディアルーナさんは、目を輝かせると、「是非に行ってみたいわ!」と、抱き着いていた自身の体を更に擦りつけてくる。
 
「ねえ? 駄目?」
「駄目です」
 
 今のリーシャの境遇を知られることは絶対に阻止しなければいけない。
 そもそも、あんなに強いナイルさんを一瞬で投げ飛ばすわ、メディーナさんが一歩も動けないわ、普通に強すぎる。
 そんな人を怒らせたら、どうなるか分からない。
 
「そう言わずに~。ね? 姫巫女のリーシャは、エルフとハイエルフ族が大事に育ててきたのだもの。私からしても娘と一緒なの。いいでしょう? 久しぶりに会いたいわ。それとも、会ったらいけない事でもあるのかしら?」
 
 随分とグイグイと来る人だな。
 少し苦手なタイプだ。
 まるで昔のリーシャを見ているようだ。
 
「ディアルーナ様、ノーマン様の許可を取らずに異世界に渡るのは制約違反ではありませんか?」
「アロイス。貴方、空気が読めないって言われない?」
 
 どう返事を返していいのか迷っていたところで、アロイスさんが制約という言葉を口にして、地球行きの話について制止してくれる。
 
「空気を読む読まないではありません。姫巫女様が嫁ぐことは決まっております。そして、そのために異世界に移住含めて移動することは王宮や辺境伯様の許可が下りています。ただし、副族長であられるディアルーナ様については、異世界への移動については許可が下りていません。ディアルーナ様ほどの力の強い方が異世界に行けば、どうなるか分かりません。ここは、制約も鑑みて踏みとどまって頂きたい」
「ふーん」
 
 アロイスさんの言葉に、眉を顰めるディアルーナさん。
 
「私よりも遥かに若造に言われるのは、正論だからこそ気にいらないわね」
 
 ディアルーナさんが、アロイスさんの元へと向かう為に、俺から離れようとするのを俺は慌てて制止する為に腕を掴む。
 
「待ってください!」
 
 どう見てもアロイスさんに何か危害を加えようとしているのは明らか。
 それはナイルさんへの対応を見ていても分かる。
 だからこそ俺は咄嗟にディアルーナさんの腕を掴んだ。
 
「ああっ!」
 
 体をビクン! と、いきなり彼女は――、ディアルーナさんの体が跳ねる。
 
「――え?」
 
 思わず俺は腕から手を離す。
 すると、ディアルーナさんは、その場に崩れ落ちると女の子座りしたまま、俺を見上げてくると――、
 
「――しゅ」
「しゅ?」
「――しゅごい。しゅごいい魔力。本当にすごい……。すごい魔力だわ……」
 
 ディアルーナさんは、火照った頬と潤んだ瞳で俺を見上げてくると、呂律が回らない様子で早口で――、息も荒げて、俺に話しかけてきた。
 
「ど、どうりでクレメンテが結婚を考えていたはずだわ」
「あの……大丈夫ですか?」
「え。ええ……。ねえ? ツキヤマゴロウって言ったわよね?」
「はい?」
 
 俺は疑問形のまま頷く。
 
「エルフ族の族長をもう一人娶るとかどうかしら?」
「間に合っています」
 
 
 
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