田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第412話 噂話

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「ありがとうございます。それでは、すぐに戻ってきますのでアリアさんを連れて行きますね」
「あ、あの! ゴロウ様!」
「はい?」
 
 席から立ちあがり、扉の方へと歩き始めたところで、ルイーズ王女殿下が俺を引き止めるような発言をしてきた。
 彼女の方を振り向くと、こちらに伸ばしていた右手を――、自身の左手で胸元まで戻すと俺に向かって微笑んでくる。
 
「気を付けていってらっしゃいませ」
「行って来ます」
 
 流石の俺もルイーズ王女殿下が引き止めて来ているというのは理解できたが、エメラスさんが頷いたのを見て、この場で彼女に言葉をかけるのは止した。
 部屋から出て扉を閉めたところで、
 
「ゴロウ様」
 
 アリアさんが話しかけてくる。
 
「もしかして話を聞いていましたか?」
「はい。ルイーズ様より、ゴロウ様との会話を聞いておくようと仰せつかっておりましたので」
「そうですか」
「本当に大事な話でしたら事前に連絡があると言う事でしたので」
「あー」
 
 たしかに、そういう可能性は無きにしてあらずだな……。
 
「ただ……、このたびは誠に申し訳ありませんでした」
「――え? どうかしましたか?」
 
 いきなり頭を下げてくるアリアさん。
 
「まさか、あれほど大事な話があるとは思いませんでしたので……」
「大事な話?」
 
 俺は思わず首を傾げる。
 何か大事な話なんてあっただろうか?
 
「えっと……。ゴロウ様が、ルイズ辺境伯領の領主に将来成られると――」
「ああ。その話ですか……。まぁ、そこまで重要な話ではないので気にしないでください。おそらくルイズ辺境伯領では、誰もが知っている内容だと思いますので」
「そうなのですか?」
「人の口には戸は立てられないと言いますし」
「え?」
「誰か第三者に話をした時点で、話というのは噂として広まるという意味です」
「そうなのですか? 異世界には、面白い言葉があるのですね」
「言葉というか諺ですけどね。それで、アリアさんには冬に向けての準備として一緒に付いてきてもらいたいのですが……」
「分かりました。ルイーズ様からも、ゴロウ様からの依頼は断ることは無いようにと重々に命じられておりますので」
「そうですか……」
 
 俺は少し離れた所に立っているメディーナさんを見る。
 彼女は、俺の視線に気が付いたのか此方へと近づいてくる。
 
「ゴロウ様。ルイーズ王女殿下との談話は終わったのですか?」
「はい。それで冬に向けての備蓄の為に、一度、店に戻ることになりました。アリアさんも一緒に同行する形になりましたので」
「ハッ! 承知しました!」
 
 アリアさんとメディーナさんを連れて迎賓館を出たあとは、それぞれ車に乗り込む。
 後ろ座席には、メディーナさん。
 そして助手席にはアリアさんと言った具合で。
 エンジンをかけたあとは、車で山道を下っていく。
 
「それにしても、ルイーズ王女殿下とエメラスさんは随分と仲が良いんですね」
 
 俺は気になっていた事を口にする。
 無言になっていた車内の空気に耐えられないという理由からであったが。
 
「はい。異世界に来られてからは、まるで姉妹のように接しておられます」
「へー」
 
 俺は車を運転しながら、軽く相槌を打つ。
 姉妹のようにね……。
 そう思考しつつ、よくよく考えてみればエメラスさんは、ルイーズ王女殿下のことを気にしている場面が度々あったなと思い返す。
 
「たしかに仲はいいですね」
「はい。理由は分かりませんが、元々、ルイーズ王女殿下は庶子であって、王の御手付きのメイドが生んだと辺境伯領まで噂が流れてきていました。もしかしたら、そこで何かあったのかも知れません」
「そうですか……」
 
 それ以上は、詳しいことは知らないとばかりに無言になるアリアさん。
 
「そういえば――」
 
 そこで、メディーナさんも何かに気が付いたのか口を開く。
 
「辺境伯軍の中にも中央から流れてきた貴族の子弟はおりました。彼らは、ルイーズ王女殿下について話をしていました。たしか、ルイーズ王女殿下の母上は、辺境の村で暮らしていたと……。そして王家の血を引くルイーズ王女殿下を、王家は保護したと」
「保護?」
「王家の血筋だからという理由で、王宮側は血筋が利用されるのを嫌ったと思われます。それで保護したというのが有力な説です。――で、その時にルイーズ王女殿下を保護したのが、クラウス侯爵家の現当主であるカルタス・フォン・クラウス侯爵閣下だったそうです」
「それって……エメラスさんの――」
「はい。お父上です」
「なるほど……」
「おそらく、その時に何らかのことがあって仲良くなったと思われます」
「そこは分からないんだな」
「申し訳ありません。あくまでも噂の域を出ませんので」
「まぁ、人の噂を根掘り葉掘り聞くのは問題だから、別にいいか」
 
 仲が良い分には、俺からは何かを言う事もないし、二人の仲が良い事で地球側に馴染んでくれる原動力になるのなら余計な詮索など論外だ。
 
「まあ、ルイーズ王女殿下とエメラスさんとの間に何があったかはこの際置いておくとして、まずは食糧の備蓄だな」
 
 
 
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