田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第411話 王女殿下からのプレゼント

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「そうですねって……、それでは何かもっと重要な話があるのですか? ゴロウ様」
 
 ルイーズ王女が尋ねてくる。
 
「はい。実は、そろそろ本格的な冬――、雪が降る季節になりますので、その準備のために伺いました」
「雪ですか?」
 
 後ろに立っているエメラスさんの方を見るルイーズ王女殿下。
 
「たしか帝政国と魔法帝国ジールの北方には、魔王領が存在していたはずです。そこは、永久凍土の地――、雪が降ると聞いております。ただ、セイレーン連邦に属しているエルム王国では、雪は殆ど振りません。雪があるとしたら、セイレーン連邦と南の軍事大国ヴァルキリアスを隔てているカタート山脈か、ダンジョンの雪エリアに存在しています」
「そう」
「はい。その雪が、現在、ルイーズ様が暮らされている地域に降ると言う事は、文献を以前に読んだ限りですと、かなりの寒さになるそうです」
「もしかして、最近、急速に寒くなっているのは?」
「はい。恐らくは、ルイーズ様のお考え通りかと思われます」
「そうなのね。ゴロウ様」
「はい」
「それで、ゴロウ様は、私の元に尋ねに来られたと言う事で宜しいのですか? 婚約相手に会いに来たという訳ではなく雪が降るための準備に?」
「そうなります」
「そうですか……」
 
 しゅんとして手元を見るルイーズ王女殿下。
 そこで俺は気が付く。
ルイーズ王女殿下がエルム王国から持参してきた淡い青色のドレスを着ていることに。
以前に大量に購入した日本の衣服ではなく異世界のドレスを着ている。
そして、そのスカートの上には小さな紙袋が――。
 さらに言えば、エメラスさんが呆れた目というか殺意の篭った目で俺の方を見てきていた。
 
「おほん」
「ゴロウ様?」
「――雪が降る前の準備に来たというのは照れ隠しの冗談で、実はルイーズ王女殿下にお会いしにきました」
 
 これでいいんだろう? と、俺はルイーズ王女殿下の後ろに立って俺をあきれ顔で見てきていたエメラスさんを見る。
 すると彼女は何度も頷いている。
 かなり、苦しい言い訳だ。
 きっとルイーズ王女殿下には、俺が気を回して言いわけをしたと気が付いたはずだ。
 
「――ほ、本当ですか!?」
 
 パアッと花が咲くように笑顔を見せるルイーズ王女殿下。
 何と言うか、すでにエメラスさんにやらされた演技に気が付いているはずなのに、そんな俺の取り繕った態度に合わせてくれるなんて気が利く人だなと思いつつも、俺は頷く。
 
「あ、あの――、ゴロウ様をこれをお受け取りください」
 
 やはりと言うか、ルイーズ王女殿下が袋に差し出してくる。
 そして、そんなルイーズ王女殿下の後ろにはエメラスさんが、受け取れという目で見てくるので、袋を受け取る。
 さらには、エメラスさんが首を動かし袋を開けろと催促までしてくる始末。
 
「あの、開けても?」
「はい!」
 
 とてもレスポンスよく弾むような声色で、ルイーズ王女殿下は言葉を返してくる。
 紙袋を開けて見れば中には一枚の白いハンカチが入っていて、ハンカチを手にとり広げてみれば、白い布地には黄色の花が刺繍されていた。
 
「これは?」
「エルム王国では幸運の花と呼ばれている花フェアリーフラワーです。ゴロウ様は、お店を経営しておりますので、商売が上手く行くようにと刺繍をしてみました」
「そうなんですか。ありがとうございます」
 
 異世界の風習は詳しくはないが以前に読んだ本では、貴族淑女の嗜みの一つとして刺繍があると書かれていた。
 そんな風習は、地球だと欧州だけだと思っていたが、異世界でも同じような風習があったようだ。
 
「いえ。私は、この迎賓館からは滅多に出ることは出来ませんから、ゴロウ様には、そのハンカチを私だと思って身につけておいて頂ければと思います」
「分かりました」
 
 そこまで言われて断ることも出来ず俺は素直に受け取り袋に戻したあと、テーブルの上に置く。
 そして本題の冬に向けての話を切り出す。
 
「ルイーズ王女殿下、じつは先ほどの話の続きなのですが――」
「そ、そうですね! 私ったら、途中から話しを逸らしてしまって申し訳ありません」
「いえ。お気になさらず。そもそも、ずっと会いに来ていなかった自分の方に問題がありますから」
「ゴロウ様もお忙しいと思っておりますから、お気になさらないでください」
「そう言って頂けると助かります。それで、予定では2週間後から急激に寒くなるそうです。そうしますと、その頃から本格的に雪が降り始めると思います」
「そうすると、何か問題でもあるのですか?」
「まず、気軽に物資の搬入が行えなくなります」
「物資?」
「はい。食料や暖房に関する燃料などです」
「そうなのですか……」
「その為に事前に食糧の備蓄をしておきたいと思っています。それと、いま現在、何か困っている事などありますか?」
「――いえ。その点に関してはアリアが以前にゴロウ様の御店で必要なモノを揃えてくれていますから」
「そうですか。それは良かったです。ただ、1か月から2カ月分ほどの備蓄は用意した方がいいと思いますので、アリアさんを連れて行っても大丈夫ですか?」
「はい」
 
 コクリと頷くルイーズ王女殿下。
 
 
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