田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第409話 王女殿下との対話

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 ――翌日、店を開けたあと根室さんとナイルさんに店のことを任せたあと、俺はエルム王国の迎賓館兼大使館へ向けて車を走らせていた。
 
「ゴロウ様。どうして、私が一緒に同行を?」
 
 不思議そうな表情で、助手席に座っていたメディーナさんが話しかけてくる。
 
「それは男手が必要ですから」
「男手ですか? 私も騎士団に所属している身、大抵の男には遅れは取らないと自負しておりますが?」
「まぁ、そうなんですけどね。店を経営していく上で、男性の手というか存在というのは、必ず必要なんですよ。特に日本ではね」
 
 店を経営していくだけでない。
 どこの会社であってもクレーム担当者に男が多く起用されているのは、男の方が仕事に対しては役職や抱えている責任感というのが古来より徹底的と言っていいほど周知されているからだ。
 そして、男の姿が目に入るだけで問題を起こそうとする輩を抑止する力にもなる。
 
「日本では必要なのですか?」
「まぁ、そうですね」
「なるほど……。分かりました。それでは、副隊長に代わりましてゴロウ様の護衛を務めあげます!」
「そこまで気負わなくて大丈夫ですよ」
 
 俺は車のギアを2速に変えて、山の上の――、迎賓館へと通じる道を上がっていく。
 
「それにしても以前から思っておりましたが、この車という乗りモノは馬よりも早く走れるのですね」
「そうですね」
 
 俺はメディーナさんの質問に頷きながら――、
 
「このワゴンRに搭載されている660CCエンジンは直列3気筒の直噴ターボで64馬力ですから……、馬よりも遥かに馬力はありますね」
「ゴロウ様。馬力というのは?」
「ああ。えっと……一馬力で馬一頭分という意味です。64馬力だと、馬に換算すると64頭分になりますね」
「――こ、この小さな車という乗りモノは、馬だと64頭分の力を有していると言う事ですか!?」
「そうですね」
 
 俺は頷きつつ、コーナーを走り抜ける。
 そうして、しばらく山道を走っていると道幅が広くなると同時に何十台も車が停められるスペースが確保されている駐車場へと到着する。
 車から降りると、駐車場のスペースの隅の方に、枯れ葉が集められているのが目に入るし、駐車場は綺麗に片付けられていた。
 
「ここがエルム王国の大使館ですか」
 
 メディーナさんが、目の前に聳え立つ建物を見上げながら感慨深そうに呟く。
 おそらく、俺達が普段住んでいる月山雑貨店の裏手の母屋と比較しているのだろう。
 きっとそうだ! たぶん、間違いない!
 
「そうなりますね。とりあえず、ここで見物していても何も始まりませんから、王女殿下に会いにいきましょうか」
「はい。それにしても――」
 
 きょろきょろと周囲を見渡すメディーナさん。
 
「どうかしましたか?」
「――いえ。結界が……」
「結界?」
「いえ。何でもありません。それよりも、早く伺いましょう」
「そうですね」
 
 俺は、頷き迎賓館の正面ドアの前に立ち、チャイムを鳴らす。
 少し大きめの音が鳴り――、1分ほどが経過したところでガチャリと言う鍵を開ける音と共に両開きの扉が内側へと開く。
 
「お久しぶりでございます。ゴロウ様」
 
 頭を下げて出迎えてきたのは、アリアさん。
 辺境伯邸で働いていたメイドさんで、いまはルイーズ王女殿下の身の周りの世話をしている女性。
 
「王女殿下に会いに来たんだが、大丈夫ですか?」
 
 一応、事前連絡をしていたが、とりあえず確認のために聞くが――、
 
「はい。すでにルイーズ様がお待ちしています。エメラス様と共に、お待ちしています」
「そうですか」
「それでは案内させて頂きます」
 
 頭を上げたアリアさんが、2階へと続く階段の方へと歩きだす。
 俺とメディーナさんは、背中を向けて歩いているアリアさんの後を付いていく。
 
「メディーナさんは、アリアさんとは面識はないんですか?」
「辺境伯軍の中でも副隊長以上でしたら報告のために辺境伯邸何度も行っていますから、その際に面識が出来ることはありますが、基本的に伝令役程度ですと、大勢いるメイドと顔見知りになる事は限り無く低いです」
「なるほどな」
 
 階段を上がっていき客間の扉の前に到着する。
 
 ――コンコン
 
「アリアです。ゴロウ・ツキヤマ様が来られました」
「入ってもらって」
「はい。ゴロウ様、どうぞ。お付きの方は、廊下でお待ちください」
「分かりました。ゴロウ様、私は外で待機しております」
 
 俺は無言で頷き客間に入る。
 室内の調度品は以前に来た時と代わってはいない。
 まぁ、そもそも調度品を買える手段はない訳だし、お金も渡してないからな。
 俺は視線をルイーズ王女殿下へと向ける。
 彼女は、黒髪に黒眼の日本人らしい見た目でハッ! とするほどの美少女。
 普通にアイドルとしても通用するほど、そのスペックは高い。
 そして、そんなルイーズ王女殿下の後ろに立っているのは、エメラス・フォン・クラウス。
 クラウス侯爵家の御令嬢であり騎士。
 ルイーズ王女殿下の護衛と言う事で日本に一緒にやってきた――、これまた美少女である。
 
「お久しぶりです。ルイーズ王女殿下」
「そのような堅苦しい挨拶は不要だと以前にお伝えいたしましたわ。ルイーズと、お呼びくださいませ」
 
 
 
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