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第403話 サイン
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「そうですか。それは良かったです。――では、先方の方は土地を売ることには前向きという事でいいんですか?」
「はい。それで10億円と言う事で金額を提示してきました」
「なるほど……。それでは、それでお願いできますか?」
「それと先方から一つお願いがあると――」
「お願いですか?」
「はい。ゼネラルマネージャーからなのですが……」
「聞ける範囲ならいいですけど……」
「月山五郎さんのサインが欲しいと――」
その言葉に、俺は首を傾げる。
一体、何を言い出したのかと。
「それは、何の冗談ですか?」
「――いえ。冗談ではなくて世界最高峰のドライバーのサインが欲しいと多国籍企業アラジンのゼネラルマネージャーからの依頼でして……」
どうして、俺がドライバーだということを知っているのか? と、疑問が湧き上がってくるが――、
「何でも先方――、ゼネラルマネージャーの竜(りゅう)海徳(かいとく)さんは、月山さんのファンだったらしく、貴方のことを最近は動画で見るようになって知ったと……」
「なるほど……」
動画か……。
そうなると……、恐らくだが――、夏に動画サイトの生主が来て撮っていた動画を見たと考える方が正しいんだろうな。
俺も映っている動画とかあったし。
しかし、俺のことを元・ドライバーだと知っていて、さらにファンでサインが欲しいとは……、悪い気はしないな。
「どうでしょうか?」
「それで、俺がサインをしない場合は、この商談は無かったことになりますか?」
「――いえいえ。向こうの商売で土地を買い漁っていますから、そのような私情で売らないと言う事は無いと思いますが……」
まぁ、ここは先方にサインの一つでも書いて気持ちよく土地を売ってもらうのもありだな。
「まぁ、俺としても自分のファンが未だに俺のことを覚えている事に悪い気持ちはないのでサインはOKですよ」
「本当ですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。それでは、先方とは話を進めても?」
「もちろん、早急にお願いします」
そもそも土地の売買を終わらせないと、インフラの整備ができない。
下手に、こちらの事情を知っている相手が取り引き相手となると、あまり行動し過ぎるのも良くはないだろう。
近場の問題だけでも簡易郵便局の誘致に、大型スーパーの建設に、それに合わせて大型のガソリンスタンドを作ることも計画しているのだから。
どれか一つでも、地価が上がる可能性のあるものだし、それらを建造するのなら、その前に土地の売買は終わらせておく必要がある。
だからこそ、俺は早急にお願いしますと口にした。
「分かりました。それでは、進展がありましたら、またご連絡します。――あ、それと先方から現金での売買をしたいと」
「現金で?」
「はい。何か事情はあったようですが……、どうしますか?」
「別に構わないですよ」
俺としては、銀行に一度でも預けると資金の出所を探られる可能性が出てくるから現金オンリーで取引してくれた方が都合がいい。
向こうが、その内容で提示してくるのなら受けないという選択肢はない。
「分かりました。それでは月山さん、またご連絡します」
そこで電話が切れる。
「どうでしたか?」
通話が終わると、雪音さんが少し心配そうな表情で聞いてくる。
「土地の売買の件ですが、順調にいきそうです」
「そうですか。それは良かったです」
「ですね」
「――それでは、私は夕飯の準備をしてきますね」
「お願いします」
白井さんとの会話ですっかり目が覚めた俺は、携帯電話をとり踝さんへと連絡を入れる。
数コール鳴ったところで――、
「五郎か? 何か空調に問題でもあったか?」
「そこは普通に会社名から名乗るのでは?」
「まぁ、それはそうなんだがな……ハハハハハッ。――で、何かあったのか?」
「実は急ぎの仕事を頼みたいと思っていますが、時間はありますか?」
「ああ。仕事ならいくらでも引き受けたい。何しろ、ここは田舎だろ? 五郎が建設する大型の建物が出来るまでは、しばらくは自腹で若いのを育てないといけないからな。――で、どんな仕事だ?」
「異世界での測量の仕事です」
「あー、そりゃ俺しか出来ないよな」
さすがに踝さんも雇ったばかりの人を異世界には連れていけないと言う事は分かっているようで、言葉の端には厄介だなという感じがヒシヒシと伝わってきた。
「無理ですか?」
「――いや、大事な事なんだろう?」
「もちろんです」
「――なら、やるしかないだろ? それなら、誠にも手伝ってもらうか」
「何時頃ならいけます?」
「俺と誠の二人だけなら、あとは現場は若い奴に任せておけばいいからな。誠の方も、もうすぐ冬だから東日本高速道路東北支社からの仕事もないだろうからな……。手は空いてるはずだ。明日か明後日には都合が付くと思うぞ?」
「それなら、予定が決まったら、連絡もらえますか?」
「おう! 任せておけ!」
言質もとったところで俺は踝さんとの通話を切った。
「さて……少し寝るとするか……」
ここ数日間、ずっと頑張っていた影響もあり眠気がまったく取れない。
俺はフーちゃんが居なくなった布団に入り、目を閉じた。
「はい。それで10億円と言う事で金額を提示してきました」
「なるほど……。それでは、それでお願いできますか?」
「それと先方から一つお願いがあると――」
「お願いですか?」
「はい。ゼネラルマネージャーからなのですが……」
「聞ける範囲ならいいですけど……」
「月山五郎さんのサインが欲しいと――」
その言葉に、俺は首を傾げる。
一体、何を言い出したのかと。
「それは、何の冗談ですか?」
「――いえ。冗談ではなくて世界最高峰のドライバーのサインが欲しいと多国籍企業アラジンのゼネラルマネージャーからの依頼でして……」
どうして、俺がドライバーだということを知っているのか? と、疑問が湧き上がってくるが――、
「何でも先方――、ゼネラルマネージャーの竜(りゅう)海徳(かいとく)さんは、月山さんのファンだったらしく、貴方のことを最近は動画で見るようになって知ったと……」
「なるほど……」
動画か……。
そうなると……、恐らくだが――、夏に動画サイトの生主が来て撮っていた動画を見たと考える方が正しいんだろうな。
俺も映っている動画とかあったし。
しかし、俺のことを元・ドライバーだと知っていて、さらにファンでサインが欲しいとは……、悪い気はしないな。
「どうでしょうか?」
「それで、俺がサインをしない場合は、この商談は無かったことになりますか?」
「――いえいえ。向こうの商売で土地を買い漁っていますから、そのような私情で売らないと言う事は無いと思いますが……」
まぁ、ここは先方にサインの一つでも書いて気持ちよく土地を売ってもらうのもありだな。
「まぁ、俺としても自分のファンが未だに俺のことを覚えている事に悪い気持ちはないのでサインはOKですよ」
「本当ですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。それでは、先方とは話を進めても?」
「もちろん、早急にお願いします」
そもそも土地の売買を終わらせないと、インフラの整備ができない。
下手に、こちらの事情を知っている相手が取り引き相手となると、あまり行動し過ぎるのも良くはないだろう。
近場の問題だけでも簡易郵便局の誘致に、大型スーパーの建設に、それに合わせて大型のガソリンスタンドを作ることも計画しているのだから。
どれか一つでも、地価が上がる可能性のあるものだし、それらを建造するのなら、その前に土地の売買は終わらせておく必要がある。
だからこそ、俺は早急にお願いしますと口にした。
「分かりました。それでは、進展がありましたら、またご連絡します。――あ、それと先方から現金での売買をしたいと」
「現金で?」
「はい。何か事情はあったようですが……、どうしますか?」
「別に構わないですよ」
俺としては、銀行に一度でも預けると資金の出所を探られる可能性が出てくるから現金オンリーで取引してくれた方が都合がいい。
向こうが、その内容で提示してくるのなら受けないという選択肢はない。
「分かりました。それでは月山さん、またご連絡します」
そこで電話が切れる。
「どうでしたか?」
通話が終わると、雪音さんが少し心配そうな表情で聞いてくる。
「土地の売買の件ですが、順調にいきそうです」
「そうですか。それは良かったです」
「ですね」
「――それでは、私は夕飯の準備をしてきますね」
「お願いします」
白井さんとの会話ですっかり目が覚めた俺は、携帯電話をとり踝さんへと連絡を入れる。
数コール鳴ったところで――、
「五郎か? 何か空調に問題でもあったか?」
「そこは普通に会社名から名乗るのでは?」
「まぁ、それはそうなんだがな……ハハハハハッ。――で、何かあったのか?」
「実は急ぎの仕事を頼みたいと思っていますが、時間はありますか?」
「ああ。仕事ならいくらでも引き受けたい。何しろ、ここは田舎だろ? 五郎が建設する大型の建物が出来るまでは、しばらくは自腹で若いのを育てないといけないからな。――で、どんな仕事だ?」
「異世界での測量の仕事です」
「あー、そりゃ俺しか出来ないよな」
さすがに踝さんも雇ったばかりの人を異世界には連れていけないと言う事は分かっているようで、言葉の端には厄介だなという感じがヒシヒシと伝わってきた。
「無理ですか?」
「――いや、大事な事なんだろう?」
「もちろんです」
「――なら、やるしかないだろ? それなら、誠にも手伝ってもらうか」
「何時頃ならいけます?」
「俺と誠の二人だけなら、あとは現場は若い奴に任せておけばいいからな。誠の方も、もうすぐ冬だから東日本高速道路東北支社からの仕事もないだろうからな……。手は空いてるはずだ。明日か明後日には都合が付くと思うぞ?」
「それなら、予定が決まったら、連絡もらえますか?」
「おう! 任せておけ!」
言質もとったところで俺は踝さんとの通話を切った。
「さて……少し寝るとするか……」
ここ数日間、ずっと頑張っていた影響もあり眠気がまったく取れない。
俺はフーちゃんが居なくなった布団に入り、目を閉じた。
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