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第398話 辺境伯との会話2(11)
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「辺境伯様は、当家の主人が運営をしている月山雑貨店の周辺の建物を取り壊しておりますが……。かなり広範囲の建物――、土地を用意しておられるようですので――」
「なるほど……。つまり、広い店舗を想定して情報のやり取りを円滑に行う為に、それら機器を導入すると――、そういうことかの? だが――」
辺境伯が、意味深な笑みを浮かべて指を組む。
「それはあくまでも大義名分であろう?」
こちらの思惑を一瞬で看過してきた辺境伯。
「はい。そのとおりです」
藤和さんは、藤和さんで素直に認めているし……。
「まったく――、面倒なことをしてくれる。つまり、どう扱うかは儂に任せると言う事か……」
無言でコクリと頷く藤和さん。
「つまり情報機器を提供はするが、それはあくまでも店舗の運営の為であって、兵士を動かす為ではないという大義を掲げたいということかの?」
「……」
「そして、それにより何か問題があっても、ゴロウとトウワには一切の非は無いと? そのようなことが通じるとでも?」
「思っております。何せエルム王国――、王宮にも提供する予定ですから」
「――ッ! なるほど……。つまり王家から直接的に許可を得ようということか……」
「遅かれ早かれ、そうなりますから。ただ、これからの事を考えまして、あくまでも私どもは提供するだけ。どう使うかは王国側や辺境伯様次第という事にしておきたいのです」
「余計な敵は作りたくないと?」
「商売の基本ですから」
「そうであるな。分かった。それでは王宮側との交渉は儂が行うとしよう。それで、これらは、どの程度、提供することは可能なのだ?」
「望まれる数次第かと存じます」
「つまり、数に限りはないということかの?」
「そうなります」
「なるほど……。――では、国王陛下や宰相、軍務卿に話を通す必要が出てくるのう。何十キロもの距離の通話を一瞬でやり取りできるのなら、国防にこの上なく利用できるからのう」
やはりというか無線機を国防に真っ先に導入する事を思いつくあたり、類まれなセンスを辺境伯は持っているようで、俺は思わず驚く。
アメリカでプロのドライバーをしていた時に、友人に日本は先進的な技術を取り入れるのが遅いと言われたことがあった。
代表的なモノで言えば、八木アンテナというモノ。
戦争で日本が負けたのは八木アンテナを採用しなかったせいだとまで言われた。
つまり、目の前に座っている祖父であるノーマン辺境伯は、1925年の日本軍の参謀どころか政治家よりも遥かに時代を見通す力を有しているということで。
――文明が中世よりも遥かに劣っている青銅器文明だとしても、藤和さんが異世界について情報を制限している理由が何となく分かった気がした。
「どう利用されるかは辺境伯様次第です。当家の主たる月山五郎様は、商品を提供するだけですので」
「ふっ――。まったく、先日は空を飛ぶ魔道具を見せられた時にも驚いたモノであったが、この無線機というのは世界の情勢を塗り替える力すらあるぞ?」
「その辺は辺境伯様に一任致します。ただ、戦争を無暗に起す行為は――」
「分かっておる。民に負担を敷くような真似はせん。盗賊や山賊、災害、国境を侵犯された時、魔物からの被害、外交面など戦争以外で扱う部分は多分にあるからのう」
すでに、どう利用するのか想定も辺境伯はしているようで、頭の回転速度が尋常ではない。
それを横で聞いていた俺は思わず舌を巻くほどで――。
「――では、取り扱う個数に関しても辺境伯様に一任すると言う事で宜しいでしょうか?」
「うむ。だが、価格はどうなのだ?」
「そうですね。ここから町までの距離ですと10キロ前後と言ったところでしょうか? それですと、機器がワンセットで50万前後ですが、それに関しては、こちらから提供致しましょう。幸い、金山を作って頂けましたから」
「なるほど……、国の安定は商売の安定化にもつながると――、そういうことかの?」
「ご推察どおりです」
「うむ。分かった。それでは、まずは辺境伯領と王都との間の円滑な情報のやり取りの為に設置することを目的に王宮側と交渉した方がいいのう」
「それでは、王都までの距離なのですが――、王都からルイズ辺境伯領までは馬車での移動ですと一ヵ月ほどかかると伺っておりますが……」
「そうであるな。だが、山や川もあるからのう。それに迂回もする」
「なるほど……。それですと、距離的には――」
「何とも言えんな。まずは町同士で無線機でやり取りが出来る距離にあるのかを調べることから必要になってくるのう」
「そうですか……」
「地図ならあるぞ?」
「いえ。地図に関しては――」
「精度を考えておるのか?」
藤和さんが辞退した理由を見抜いたのか辺境伯が地図のことに関して口にする。
その事に関して藤和さんが苦笑いする。
「地図よりも、まずは都市間での情報伝達が出来るかどうかを議論する方がいいかと思います」
藤和さんは話題を逸らすかのように言葉を口にした。
「そうであるな」
辺境伯も、藤和さんが話題を逸らしたことに気が付くと、頷いた。
「なるほど……。つまり、広い店舗を想定して情報のやり取りを円滑に行う為に、それら機器を導入すると――、そういうことかの? だが――」
辺境伯が、意味深な笑みを浮かべて指を組む。
「それはあくまでも大義名分であろう?」
こちらの思惑を一瞬で看過してきた辺境伯。
「はい。そのとおりです」
藤和さんは、藤和さんで素直に認めているし……。
「まったく――、面倒なことをしてくれる。つまり、どう扱うかは儂に任せると言う事か……」
無言でコクリと頷く藤和さん。
「つまり情報機器を提供はするが、それはあくまでも店舗の運営の為であって、兵士を動かす為ではないという大義を掲げたいということかの?」
「……」
「そして、それにより何か問題があっても、ゴロウとトウワには一切の非は無いと? そのようなことが通じるとでも?」
「思っております。何せエルム王国――、王宮にも提供する予定ですから」
「――ッ! なるほど……。つまり王家から直接的に許可を得ようということか……」
「遅かれ早かれ、そうなりますから。ただ、これからの事を考えまして、あくまでも私どもは提供するだけ。どう使うかは王国側や辺境伯様次第という事にしておきたいのです」
「余計な敵は作りたくないと?」
「商売の基本ですから」
「そうであるな。分かった。それでは王宮側との交渉は儂が行うとしよう。それで、これらは、どの程度、提供することは可能なのだ?」
「望まれる数次第かと存じます」
「つまり、数に限りはないということかの?」
「そうなります」
「なるほど……。――では、国王陛下や宰相、軍務卿に話を通す必要が出てくるのう。何十キロもの距離の通話を一瞬でやり取りできるのなら、国防にこの上なく利用できるからのう」
やはりというか無線機を国防に真っ先に導入する事を思いつくあたり、類まれなセンスを辺境伯は持っているようで、俺は思わず驚く。
アメリカでプロのドライバーをしていた時に、友人に日本は先進的な技術を取り入れるのが遅いと言われたことがあった。
代表的なモノで言えば、八木アンテナというモノ。
戦争で日本が負けたのは八木アンテナを採用しなかったせいだとまで言われた。
つまり、目の前に座っている祖父であるノーマン辺境伯は、1925年の日本軍の参謀どころか政治家よりも遥かに時代を見通す力を有しているということで。
――文明が中世よりも遥かに劣っている青銅器文明だとしても、藤和さんが異世界について情報を制限している理由が何となく分かった気がした。
「どう利用されるかは辺境伯様次第です。当家の主たる月山五郎様は、商品を提供するだけですので」
「ふっ――。まったく、先日は空を飛ぶ魔道具を見せられた時にも驚いたモノであったが、この無線機というのは世界の情勢を塗り替える力すらあるぞ?」
「その辺は辺境伯様に一任致します。ただ、戦争を無暗に起す行為は――」
「分かっておる。民に負担を敷くような真似はせん。盗賊や山賊、災害、国境を侵犯された時、魔物からの被害、外交面など戦争以外で扱う部分は多分にあるからのう」
すでに、どう利用するのか想定も辺境伯はしているようで、頭の回転速度が尋常ではない。
それを横で聞いていた俺は思わず舌を巻くほどで――。
「――では、取り扱う個数に関しても辺境伯様に一任すると言う事で宜しいでしょうか?」
「うむ。だが、価格はどうなのだ?」
「そうですね。ここから町までの距離ですと10キロ前後と言ったところでしょうか? それですと、機器がワンセットで50万前後ですが、それに関しては、こちらから提供致しましょう。幸い、金山を作って頂けましたから」
「なるほど……、国の安定は商売の安定化にもつながると――、そういうことかの?」
「ご推察どおりです」
「うむ。分かった。それでは、まずは辺境伯領と王都との間の円滑な情報のやり取りの為に設置することを目的に王宮側と交渉した方がいいのう」
「それでは、王都までの距離なのですが――、王都からルイズ辺境伯領までは馬車での移動ですと一ヵ月ほどかかると伺っておりますが……」
「そうであるな。だが、山や川もあるからのう。それに迂回もする」
「なるほど……。それですと、距離的には――」
「何とも言えんな。まずは町同士で無線機でやり取りが出来る距離にあるのかを調べることから必要になってくるのう」
「そうですか……」
「地図ならあるぞ?」
「いえ。地図に関しては――」
「精度を考えておるのか?」
藤和さんが辞退した理由を見抜いたのか辺境伯が地図のことに関して口にする。
その事に関して藤和さんが苦笑いする。
「地図よりも、まずは都市間での情報伝達が出来るかどうかを議論する方がいいかと思います」
藤和さんは話題を逸らすかのように言葉を口にした。
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辺境伯も、藤和さんが話題を逸らしたことに気が付くと、頷いた。
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