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第397話 辺境伯との会話2(10)
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「これは?」
テーブルの上に置かれたトランシーバーを手に取る辺境伯。
「トランシーバーと呼ばれるモノとなります」
「ほう。それで何に使うのだ?」
「そうですね。実際に使ってみた方が早いでしょう。月山様、少し離れた場所まで移動して頂くことは可能でしょうか?」
百聞は一見に如かずという奴か。
実際に使ってもらった方が理解するのは早いと――。
俺は頷きつつ、ソファーから立ち上がる。
そして、もう一つのトランシーバーを藤和さんから受け取る。
「離れた位置まで移動するのなら……。それでは、立ち会いとしてセルジッドを供につけた方がいいかのう」
「はい、辺境伯様」
「うむ」
頷いた辺境伯は鈴を鳴らす。
すると、部屋にセルジッドさんが入ってくる。
「セルジッド、ゴロウ共に中庭まで移動するように」
「中庭でございますか? ここからですと100メートルほどはありますが? 何かされるのですか?」
「うむ。このトランシーバーというモノが、どのようなモノかを儂に説明するために必要だということだ」
「……分かりました」
セルジッドさんは深々と頭をさげたかと思うと、
「それではゴロウ様。中庭までご案内致します」
「――それでは、月山様。トランシーバーの電源を入れてみてください」
「あ、そうですね。まずは近場でのテストをしないとあれですからね」
トランシーバーの電源を互いに入れて音量を設定したあと、藤和さんが持つトランシーバーとのチャンネルを合わせる。
「てすてす。どうですか?」
「はい、聞こえます。それでは、テストをしてみましょう」
「そうですね」
セルジッドさんと共に執務室を出て、中庭まで案内してもらう。
中庭には噴水が設えられてあって、近くには手入れの行き届いた木々が並んでいる。
「ゴロウ様。こちらが中庭になります」
「分かりました。えっと執務室は――」
「向こうになります」
セルジッドさんが、指した方角を見て、大体の距離は、50メートルほどと推測する。
その上でトランシーバーの送信ボタンを押した上で――、
「『てすてす、こちら五郎。どーぞ』」
「『こちら藤和です。どーぞ』」
「『この距離なら通話は特に問題はないようですし通話もクリアですねね』」
「『そうですね』」
「あの、ゴロウ様」
「どうかしましたか?」
俺と藤和さんがトランシーバーを介して会話をしていると、セルジッドさんは気になったのだろう。
「その、その魔道具は? 先ほど、トランシーバーと言っておりましたが……」
「これは距離が離れていても会話が出来る機械でトランシーバーと言います。セルジッドさんも試してみますか?」
「宜しいのですか?」
「もちろんです」
これから利用していくのなら体験という形でもいいから経験者は多い方がいいだろう。
俺はトランシーバーの使い方をセルジッドさんに説明したあと、トランシーバーを受け取ったセルジッドが口を開く。
「『セルジッドです』」
「『はい、こちら藤和です。ノーマン辺境伯様と代わります』」
「『儂だ。セルジッド、どうであるか?』」
「『ノーマン様の声がはっきりと聞こえます』」
「『そうであるか。それでは戻ってくるとよい』」
「『はっ。すぐに――』」
「ゴロウ様」
「そうですね。すぐに戻るとしましょう。辺境伯様を待たせてもアレですから」
すぐに執務室へと戻り、扉を開けて入室する。
「待っておったぞ!」
かなり上機嫌な辺境伯の表情が視界に飛び込んでくる。
少しテンションが高めの辺境伯に引きながら――、
「それで如何でしたでしょうか?」
「うむ。これは素晴らしいモノであるな。情報伝達速度は、貿易や国防にとって重大な事であるからのう。――して、これは距離的には、どのくらいまで届くのだ?」
俺は藤和さんの方を見る。
藤和さんは首を横に振るだけ。
どうやら、トランシーバーの詳細については話してはいないというか、藤和さんには辺境伯は聞いていないのだろう。
もしかしたら、俺の面子を考えたのかも知れない。
「いま、テストをしましたトランシーバーですと通話距離は、この部屋から噴水広場までの10倍までです」
「ほう……。それは部隊の指揮では使えるのう。――? 今、テストしたトランシーバーでは?」
耳ざとく俺の言葉の端を捉えた辺境伯が目を輝かせて聞いてくる。
「タクシーなどで使う無線機設備でしたら10キロから20キロまでをカバーできます。距離的には、このトランシーバーの20倍から40倍と言ったところでしょうか?」
「ほう……。それは、素晴らしいのう。いまの通話は魔力も消費しておらんし、とてもクリアであったからのう」
辺境伯は、そう語ると思考するかのように黙りこくったあと――、
「――で、これを此方の世界に提供した理由を聞いても良いかの?」
「辺境伯様、私が意見を申し上げても宜しいでしょうか?」
そこでようやく藤和さんが辺境伯へ話しかけた。
「うむ。なんであるか? トウワ」
「こちらのトランシーバーなどは、これから此方の世界での店舗運営に必要かと思い御持ちいたしました」
「ほう……」
テーブルの上に置かれたトランシーバーを手に取る辺境伯。
「トランシーバーと呼ばれるモノとなります」
「ほう。それで何に使うのだ?」
「そうですね。実際に使ってみた方が早いでしょう。月山様、少し離れた場所まで移動して頂くことは可能でしょうか?」
百聞は一見に如かずという奴か。
実際に使ってもらった方が理解するのは早いと――。
俺は頷きつつ、ソファーから立ち上がる。
そして、もう一つのトランシーバーを藤和さんから受け取る。
「離れた位置まで移動するのなら……。それでは、立ち会いとしてセルジッドを供につけた方がいいかのう」
「はい、辺境伯様」
「うむ」
頷いた辺境伯は鈴を鳴らす。
すると、部屋にセルジッドさんが入ってくる。
「セルジッド、ゴロウ共に中庭まで移動するように」
「中庭でございますか? ここからですと100メートルほどはありますが? 何かされるのですか?」
「うむ。このトランシーバーというモノが、どのようなモノかを儂に説明するために必要だということだ」
「……分かりました」
セルジッドさんは深々と頭をさげたかと思うと、
「それではゴロウ様。中庭までご案内致します」
「――それでは、月山様。トランシーバーの電源を入れてみてください」
「あ、そうですね。まずは近場でのテストをしないとあれですからね」
トランシーバーの電源を互いに入れて音量を設定したあと、藤和さんが持つトランシーバーとのチャンネルを合わせる。
「てすてす。どうですか?」
「はい、聞こえます。それでは、テストをしてみましょう」
「そうですね」
セルジッドさんと共に執務室を出て、中庭まで案内してもらう。
中庭には噴水が設えられてあって、近くには手入れの行き届いた木々が並んでいる。
「ゴロウ様。こちらが中庭になります」
「分かりました。えっと執務室は――」
「向こうになります」
セルジッドさんが、指した方角を見て、大体の距離は、50メートルほどと推測する。
その上でトランシーバーの送信ボタンを押した上で――、
「『てすてす、こちら五郎。どーぞ』」
「『こちら藤和です。どーぞ』」
「『この距離なら通話は特に問題はないようですし通話もクリアですねね』」
「『そうですね』」
「あの、ゴロウ様」
「どうかしましたか?」
俺と藤和さんがトランシーバーを介して会話をしていると、セルジッドさんは気になったのだろう。
「その、その魔道具は? 先ほど、トランシーバーと言っておりましたが……」
「これは距離が離れていても会話が出来る機械でトランシーバーと言います。セルジッドさんも試してみますか?」
「宜しいのですか?」
「もちろんです」
これから利用していくのなら体験という形でもいいから経験者は多い方がいいだろう。
俺はトランシーバーの使い方をセルジッドさんに説明したあと、トランシーバーを受け取ったセルジッドが口を開く。
「『セルジッドです』」
「『はい、こちら藤和です。ノーマン辺境伯様と代わります』」
「『儂だ。セルジッド、どうであるか?』」
「『ノーマン様の声がはっきりと聞こえます』」
「『そうであるか。それでは戻ってくるとよい』」
「『はっ。すぐに――』」
「ゴロウ様」
「そうですね。すぐに戻るとしましょう。辺境伯様を待たせてもアレですから」
すぐに執務室へと戻り、扉を開けて入室する。
「待っておったぞ!」
かなり上機嫌な辺境伯の表情が視界に飛び込んでくる。
少しテンションが高めの辺境伯に引きながら――、
「それで如何でしたでしょうか?」
「うむ。これは素晴らしいモノであるな。情報伝達速度は、貿易や国防にとって重大な事であるからのう。――して、これは距離的には、どのくらいまで届くのだ?」
俺は藤和さんの方を見る。
藤和さんは首を横に振るだけ。
どうやら、トランシーバーの詳細については話してはいないというか、藤和さんには辺境伯は聞いていないのだろう。
もしかしたら、俺の面子を考えたのかも知れない。
「いま、テストをしましたトランシーバーですと通話距離は、この部屋から噴水広場までの10倍までです」
「ほう……。それは部隊の指揮では使えるのう。――? 今、テストしたトランシーバーでは?」
耳ざとく俺の言葉の端を捉えた辺境伯が目を輝かせて聞いてくる。
「タクシーなどで使う無線機設備でしたら10キロから20キロまでをカバーできます。距離的には、このトランシーバーの20倍から40倍と言ったところでしょうか?」
「ほう……。それは、素晴らしいのう。いまの通話は魔力も消費しておらんし、とてもクリアであったからのう」
辺境伯は、そう語ると思考するかのように黙りこくったあと――、
「――で、これを此方の世界に提供した理由を聞いても良いかの?」
「辺境伯様、私が意見を申し上げても宜しいでしょうか?」
そこでようやく藤和さんが辺境伯へ話しかけた。
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