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第392話 辺境伯との会話2(5)

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「それではヴェルナー卿、私を待っていたということは先日、呟かれた御令嬢の治療という事でしょうか?」
 
 俺は、エミリーさんからヴェルナー卿へと視線を向けて話す。
 
「ええ。そのとおりです。国王陛下には、取り計らいをしておきました。どうでしょうか?」
 
 不安を滲ませた表情で、俺に問いかけてくるヴェルナー卿。
 彼が、どのような話をエルム王国の国王陛下へ上申したのか分からないが、断る理由もない。
 むしろ断ったら色々と面倒なことになりそうだし。
 
「もちろんです。すぐにでも可能です」
「おお! 辺境伯殿」
「だから、言った通りであっただろう? 儂の孫は、約束したことは守るからの」
「さすがは未来のルイズ辺境伯領の当主ですな!」
「うむ。それよりも五郎」
「分かっています。まずは病気の治療を行うとしましょう」
「――では、話し合いは、そのあとでよいな?」
「そうですね」
 
 まぁ、異世界では午前10時頃。
 商談に関して話を進めるのは昼以降でも良いと辺境伯は考えたのかも知れない。
 なにせ、病気の治療は命に関わる問題だし、ヴェルナー卿も人の親。
 自身の娘の命よりも商談を先にと言われたら気分は良くはないだろう。
 
「――では、すぐにでも馬車の用意をさせよう」
 
 辺境伯が鈴を鳴らすと、セルジッドさんが姿を見せる。
 
「旦那様、どうかなさいましたか?」
「うむ。すぐに馬車の用意をするように」
「畏まりました」
「――では、五郎。ハマス伯爵家御令嬢のエスコートを頼むぞ? 儂は、トウワとやらと話をしておくからの」
「分かりました」
 
 どうやら、俺が異世界に来た理由については、辺境伯も知りたいらしい。
 そこで俺は令嬢のエスコートで、実務の方に関しては藤和さんに聞くと……。
 藤和さんの方向を見れば、「月山様、お任せください。大役を果たして見せます」と、言葉を返してくる。
 これは、もう一人で月山雑貨店まで伯爵令嬢を連れていかないといけない流れだ。
 
「では、任せます」
 
 諦めて、俺は藤和さんに後のことは任せることにする。
 どちらにしても、俺が行かないことには、どうにもならないし。
 
「それでは、エミリー様。私の店まで一緒に来て頂けますか?」
「――は、はい! 宜しくお願いします」
「ヴェルナー卿は、如何致しますか?」
「もちろん私も一緒に付いていく!」
「分かりました」
 
 まぁ、たしかに病が完治するかどうかを直接、自分の目で見たいというのは親の心情としては普通だよな。
 俺はヴェルナー卿と、その娘である伯爵領のエミリーさんと共に、館から出たあとセルジッドさんが手配してくれていた馬車へと乗り込む。
 馬車は、すぐに走り出す。
 そして、殆ど接点のないヴェルナー親子とは、とくに会話できる内容もない。
よって微妙な空気が馬車内に流れた所で――、
 
「ゴロウ様」
 
 ヴェルナー卿が、俺に話しかけてきた。
 何か、ヴェルナー卿と話す内容でもあったか? と、考えてしまうが、特に何もないな? と、思いつつも――、
 
「どうかされましたか?」
「このたびは無理なお願いを聞いて頂き感謝いたします」
「いえ。まずは治療が成功するかどうかを願ってください」
「そ、そうですな……」
 
 俺の受け答えは、突き放した形になってしまったのか30分近く無言の時間が続く。
そして、馬車が停まる。
外を見れば、月山雑貨店の姿が!
余りにも長い微妙な空気に馬車から降りた俺はようやく解放され、ついでに心の中で深い溜息をつく。
 その間も、ヴェルナー卿が、自身の娘をエスコートして馬車から降ろしていた。
 
「それでは、ゴロウ様。お願いします」
「はい。エミリー様」
「――は、はい」
 
 俺は、彼女を――、エミリーさんの手を掴み店舗へと足を踏み入れる。
 そして俺に続いてエミリーさんが店舗の入り口を越えたところで、店舗全体が強めに光る。
 
「えっと……。ゴロウ様!」
「どうですか?」
 
 興奮した面持ちで俺に話しかけてくるエミリーさん。
 その様子から、完治したというのは分かるが、ここはキチンと確認しておくとしよう。
 
「体が軽いです! お父様から、お話は伺っていましたが、本当に病が完治するなんて――、何とお礼を言ったらいいのか……」
「気にしないでください。それよりも、ヴェルナー卿へ報告に行かれた方が宜しいかと思います。心配されているはずですから」
「そうですわね!」
 
 店から出ていくエミリーさん。
 その後ろ姿を見送ったあと、俺は盛大に息を吐いた。
 本当に疲れた。
 何も話すことがない状態での馬車内での密閉された空間に置かれたストレスはハンパない。
 
「――さて、いくか」
 
 軒先に出ると、抱き合っているヴェルナー卿と、その娘であるエミリーさんの姿が目に入った。
 どうやら店から出るのが早かったらしい。
 そして、俺が店から出てきた事に、気が付いたヴェルナー卿は、エミリーさんから離れると俺の元まで来て俺の手を掴んでくると頭を下げてきた。
 
「ゴロウ様。ありがとうございます! 本当に感謝いたします!」
「いえ。約束ですので気にしないでください」
「いえ。約束という内容でもありませんでした。ですが、ルイズ辺境伯との対談よりも、私の娘の――、人命を優先して頂いたことは感謝しかありません」
 
 
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