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第391話 辺境伯との会話2(4)
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「なるほど……」
そう呟くセルジッドさん。
彼は、瞼を細めて藤和さんを見つめている。
ここは、俺が口を挟むべきなのか? と、考えてしまうが、何故に藤和さんがセルジッドさんに、俺の味方で居て欲しいと話を切り出したのか? その真意が分からない以上、口を出すべきではないのだろう。
――たぶん、きっとそうだ。
「ゴロウ様は、何も言わないのですね」
おいおい、俺にキラーパスがセルジッドさんから飛んできたんだが? そして、こんなわけの分からない状況で、俺に話を振られても困る!
「……」
「なるほど、つまりはゴロウ様としても私が何を大事にしているのか? を、知っておきたい――、そういうことですか?」
どういうことなんですかね? と、言う考えが頭の中に浮かぶが、俺は感情が表情に出ないように取り繕いながら無言を貫くことで精一杯だ。
「それでお答えいただけますか?」
「……私は、ビスマルク家だと言う事は、以前にお話ししましたが?」
それは聞いた。
「ルイズ辺境伯領の元・騎士団団長で、現在の当主の叔父に当たる方だと――」
「覚えておいて頂き感謝いたします。ゴロウ様」
「いえ」
一この情報は、藤和さんと共有していなかったので、藤和さんに伝えるという名目で俺は口を挟んだ。
「その返答は、つまりビスマルク家。強いて言えば、領地を大事に思っていると受け取っていいのですか?」
「そう思って頂き結構です。我がビスマルク家は、ルイズ辺境伯領の領主を寄り親として存在しています。ですが、それはあくまでも辺境伯領を――と、言う事と考えております」
「なるほど……。つまり、月山様がルイズ辺境伯領を継いでも、ルイズ辺境伯領という肩書には従うが、それ以上はない――、そいうことですね?」
藤和さんの問いかけにキッパリと頷くセルジッドさん。
「ご理解頂けましたかな?」
「そうですね」
コクリと頷く藤和さん。
どうやら、話は終わったとばかりに、セルジッドさんは歩きだす。
そのあとを俺と藤和さんは付いていくが――、
「藤和さん」
「何でしょうか?」
「結局のところ、セルジッドさんは、俺の見方にはならないということですか?」
「そうですね。ルイズ辺境伯領の味方であり、月山様の味方ではないと言う事です」
「そうですか……。それにしても、よく藤和さんは分かりましたね」
「彼の言動に些か気になった部分がありましたから確認した次第です」
「そのために――」
それが、どういう意味を持つのかは分からないが、藤和さんとしては何かしら思うところがあったのだろう。
まぁ、どっちにしても遅かれ早かれ俺と藤和さんの関係はバレるのは時間の問題だし、問題はないけど……。
悶々とした感情を抱きながら、セルジッドさんの後ろを歩く。
そして、執務室の扉の前に到着する。
――コンコン
「セルジッドです。ゴロウ様をお連れ致しました」
「入れ」
セルジッドさんが執務室の扉を開ける。
そして、俺と藤和さんはアタッシュケースを持ったまま執務室の中へと足を踏み入れた。
「おお。ゴロウ、待っておったぞ!」
遠回しに、アポなしで来た癖に時間が掛かったな? と、言われているみたいだ。
俺は、苦笑いだけで答える。
どう答えていいのか判断に困ったからだ。
それと――、俺はノーマン辺境伯を見たあとに、テーブルを挟んだ反対側に座っている小太りな貴族――、たしかヴェルナー卿と言ったはずだ。
その貴族が座っていた。
そしてヴェルナー卿の横には明らかに体調の悪い痩せこけた20代の女性もいる。
二人の前には紅茶の入ったティーカップが置かれている事から、辺境伯と何か会話していたのは明らかで――、
「申し訳ありません。いきなり押しかけるような真似で来てしまって――」
さすがに来客がいる中で、対談を申し込んだのは、マナーとしてはあまりよくはないだろう。
そう思い、考えを口にしたが、
「よい。この二人は、ゴロウを待っておったからの」
「――え? そうなんですか?」
戸惑った俺の様子に気が付いたのかヴェルナー卿が立ち上がる。
「お久しぶりです。ゴロウ様」
「どうも、久しぶりです。それで、ヴェルナー卿が、私を待っていたというのは……」
俺は、少し考えて俺を待っている理由には一つしか思い至らなかったので、ヴェルナー卿の横に座っている女性へと視線を一瞬向けたあと、ヴェルナー卿を見た。
「ご推察のとおりです。エミリー」
「はい。お父様」
ソファーから立ち上がった女性がスカートの裾を掴むとお辞儀をしてくる。
「エミリー・フォン・ハマスと申しますわ。このたびは、未来のルイズ辺境伯家の御当主様にお会いできたことを大変に光栄に存じます」
「月山五郎と言います。ヴェルナー卿から、お話は伺っております。お会いできて光栄です」
俺も、すかさず神保町の本屋で購入した本で読んだ学んだ中世流の挨拶を返す。
「まぁ――」
何故か、俺の挨拶に驚いた表情をエミリーという女性は見せるが、俺は構わず言葉を紡ぐ。
そう呟くセルジッドさん。
彼は、瞼を細めて藤和さんを見つめている。
ここは、俺が口を挟むべきなのか? と、考えてしまうが、何故に藤和さんがセルジッドさんに、俺の味方で居て欲しいと話を切り出したのか? その真意が分からない以上、口を出すべきではないのだろう。
――たぶん、きっとそうだ。
「ゴロウ様は、何も言わないのですね」
おいおい、俺にキラーパスがセルジッドさんから飛んできたんだが? そして、こんなわけの分からない状況で、俺に話を振られても困る!
「……」
「なるほど、つまりはゴロウ様としても私が何を大事にしているのか? を、知っておきたい――、そういうことですか?」
どういうことなんですかね? と、言う考えが頭の中に浮かぶが、俺は感情が表情に出ないように取り繕いながら無言を貫くことで精一杯だ。
「それでお答えいただけますか?」
「……私は、ビスマルク家だと言う事は、以前にお話ししましたが?」
それは聞いた。
「ルイズ辺境伯領の元・騎士団団長で、現在の当主の叔父に当たる方だと――」
「覚えておいて頂き感謝いたします。ゴロウ様」
「いえ」
一この情報は、藤和さんと共有していなかったので、藤和さんに伝えるという名目で俺は口を挟んだ。
「その返答は、つまりビスマルク家。強いて言えば、領地を大事に思っていると受け取っていいのですか?」
「そう思って頂き結構です。我がビスマルク家は、ルイズ辺境伯領の領主を寄り親として存在しています。ですが、それはあくまでも辺境伯領を――と、言う事と考えております」
「なるほど……。つまり、月山様がルイズ辺境伯領を継いでも、ルイズ辺境伯領という肩書には従うが、それ以上はない――、そいうことですね?」
藤和さんの問いかけにキッパリと頷くセルジッドさん。
「ご理解頂けましたかな?」
「そうですね」
コクリと頷く藤和さん。
どうやら、話は終わったとばかりに、セルジッドさんは歩きだす。
そのあとを俺と藤和さんは付いていくが――、
「藤和さん」
「何でしょうか?」
「結局のところ、セルジッドさんは、俺の見方にはならないということですか?」
「そうですね。ルイズ辺境伯領の味方であり、月山様の味方ではないと言う事です」
「そうですか……。それにしても、よく藤和さんは分かりましたね」
「彼の言動に些か気になった部分がありましたから確認した次第です」
「そのために――」
それが、どういう意味を持つのかは分からないが、藤和さんとしては何かしら思うところがあったのだろう。
まぁ、どっちにしても遅かれ早かれ俺と藤和さんの関係はバレるのは時間の問題だし、問題はないけど……。
悶々とした感情を抱きながら、セルジッドさんの後ろを歩く。
そして、執務室の扉の前に到着する。
――コンコン
「セルジッドです。ゴロウ様をお連れ致しました」
「入れ」
セルジッドさんが執務室の扉を開ける。
そして、俺と藤和さんはアタッシュケースを持ったまま執務室の中へと足を踏み入れた。
「おお。ゴロウ、待っておったぞ!」
遠回しに、アポなしで来た癖に時間が掛かったな? と、言われているみたいだ。
俺は、苦笑いだけで答える。
どう答えていいのか判断に困ったからだ。
それと――、俺はノーマン辺境伯を見たあとに、テーブルを挟んだ反対側に座っている小太りな貴族――、たしかヴェルナー卿と言ったはずだ。
その貴族が座っていた。
そしてヴェルナー卿の横には明らかに体調の悪い痩せこけた20代の女性もいる。
二人の前には紅茶の入ったティーカップが置かれている事から、辺境伯と何か会話していたのは明らかで――、
「申し訳ありません。いきなり押しかけるような真似で来てしまって――」
さすがに来客がいる中で、対談を申し込んだのは、マナーとしてはあまりよくはないだろう。
そう思い、考えを口にしたが、
「よい。この二人は、ゴロウを待っておったからの」
「――え? そうなんですか?」
戸惑った俺の様子に気が付いたのかヴェルナー卿が立ち上がる。
「お久しぶりです。ゴロウ様」
「どうも、久しぶりです。それで、ヴェルナー卿が、私を待っていたというのは……」
俺は、少し考えて俺を待っている理由には一つしか思い至らなかったので、ヴェルナー卿の横に座っている女性へと視線を一瞬向けたあと、ヴェルナー卿を見た。
「ご推察のとおりです。エミリー」
「はい。お父様」
ソファーから立ち上がった女性がスカートの裾を掴むとお辞儀をしてくる。
「エミリー・フォン・ハマスと申しますわ。このたびは、未来のルイズ辺境伯家の御当主様にお会いできたことを大変に光栄に存じます」
「月山五郎と言います。ヴェルナー卿から、お話は伺っております。お会いできて光栄です」
俺も、すかさず神保町の本屋で購入した本で読んだ学んだ中世流の挨拶を返す。
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