上 下
387 / 437

第387話 問屋の藤和へ(3)

しおりを挟む
「たしかに、早めに商品の選定をした方がいいですよね」
「はい。それと、月山様」
「何でしょうか?」
「以前に、話をされていた無線機の話なのですが、どうするかお決めになられましたか?」
「一応は、考えています。その点に関しては、辺境伯と今度会う時に、切り出そうと思っていました」
「なるほど……」
「一応、私の方でも幾つか商品をピックアップしていたのですが……」
 
 ソファーから立ち上がった藤和さんは、並んでいる業務机の引き出しを開けると分厚い雑誌のようなモノを手に取ると戻ってくる。
 厚さは5センチほどあるだろうか?
 目の前に置かれたのは、雑誌だと思っていたが、どうやらパンフレットのようで――。
 
「まずは、無線機の前に小型のトランシーバーなどを提供するのもありかと思います。小電力トランシーバーでしたら、距離的には500メートルから1キロ程度ですから」
「なるほど……。最初から無線機ではいるのではなくてトランシーバーを提供するという事ですか?」
「はい。業務用のタクシー無線でも、良いとは思うのですが――」
「タクシー無線って距離的には10キロから20キロですよね?」
「そうですね」
「それって、異世界で使うにはオーバースペックなのでは?」
「たしかに性能的には、国家間の情報戦を一変させる恐れはありますが、情報戦は大事ですから。特に月山様のように異世界に出店するとなると尚更です。日本の商品は異世界では、爆発的に売れて需要も伸びるでしょう。その際に、中世暗黒期よりも思想、経済、治安が劣っているか、それに近いとなると盗賊などが出る場合もあります。特に異世界は、魔物も居ますから。その点を考慮に入れますとタクシー無線の導入は必要不可欠とも考えています」
「つまり藤和さん的には、タクシー無線は導入した方がいいと考えていますか?」
「はい。その方が王宮との取引に関しても使えますから」
 
取引って……。
また何か考えているみたいだ。
 
「分かりました。そしたら、今日、辺境伯のところへと赴く際に、トランシーバーを購入して持って行きます。そこまで性能を求めなければ、ホームセンターで売っていると思うので」
「それがいいですね。私の方としても辺境伯様へプレゼンする為の資料を作っておきます」
「それでは、今日の午後9時前後に店の駐車場で待ち合わせをしましょう」
「分かりました」
「――では、自分はこれで帰ります。いきなり伺ってしまい申し訳ありません」
「いえいえ。こちらとしても有意義な時間が過ごせましたのでお気になさらないでください」
 
 挨拶を交わし、俺は事務所を出て車へと向かう。
 
「そういえば移転について聞くのを忘れていたな……」
 
 一人歩きながら、そんなことが心の中によぎった。
 
 
 
 結城村に帰る道すがら、秋田市内のホームセンターに寄る。
 そして特定小電力トランシーバーを4個ほど購入する。
 距離としては、500メートル前後まで電波が届くようなので、どのような機器なのかをプレゼンする上で、十分な性能だろう。
 トランシーバーを購入したあとは、結城村へと急いで戻る。
 自分の店に到着したころには、午後6時を回っていた。
 急いで母屋へと戻ると――、
 
「おじちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま」
 
 玄関の戸を開けると、桜とフーちゃんが玄関で出迎えてくれた。
 
「もう和美ちゃんは帰ったのか?」
「うん! 雪音お姉ちゃんが御店の方に行ってるの!」
「そっか」
 
 まぁ、ナイルさんだけだと何かあった時に困るからな。
 今日は、メディーナさんも連れて帰ってきよう。
 彼女も戦力だし、異世界に店舗を開くのなら、社員教育というか店の経営に関してはある程度は知っておいてもらった方がいいからな。
 まぁ、ナイルさんもメディーナさんもルイズ辺境伯領の騎士で、本来はコンビニで働く仕事は、専門外だとは思うが、これからのことを思うと、そこは目をつぶってもらおう。
 
「おじちゃん、どうかしたの?」
 
 胸元に、フーちゃんを抱きかかえたまま上目遣いで俺を見てくる姪っ子に――、
 
「ちょっと考え事をしていただけだから。今度、異世界にも月山雑貨店支店を作るから、そのことでな」
「そうなの?」
 
 桜の問いかけに俺は頷く。
 
「とりあえず、俺は店の方に行ってくるから、少し留守番しておいてくれるか?」
「分かったの!」
 
 購入してきた荷物を玄関に置いたあと、桜とフーちゃんを母屋に残し店へと向かう。
 
「ゴロウ様。お帰りになられたのですか?」
「はい。少し遅くなりました。根室さんは帰られましたか?」
「はい。ご家族の方が車で迎えに参られました」
「そうですか」
 
 まぁ熊が出たばかりだからな。
 夜に自転車で帰らせるのは危険だと思って迎えに来たのかも知れない。
 自転車が無い事を考えると、軽トラックで来たのかもな。
 ナイルさんが外を掃き掃除しているのを確認したあと、俺は店内に入る。
 
「雪音さん、遅くなりました」
「おかえりなさい、五郎さん。道が混んでいましたか?」
「――いえ。道というよりも、藤和さんの事務所に寄っていました」 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...