上 下
379 / 437

第379話 簡易郵便局の話をお受けします!

しおりを挟む
 まぁ、あくまでの俺の予測に過ぎないが、きっとそうなのだろう。
 そうじぁないと、20代の新人を何人も雇うような事はしないだろうし。
 
「あれですか? やっぱり、全員、正社員ですか?」
「そうだな。やっぱパートやアルバイトだと、会社のことを大事にしてくれることはないからな。帰属意識を持ってもらうには、会社の一員だと思ってくれることが何よりも重要だろう?」
「……」
 
 その言葉に、俺は思わず無言になる。
 踝さんの言葉を、当てはめると、パートとして働いてもらっている根室さんは……と、思ってしまったからだ。
 やっぱり、今後のことを考えると根室さんも正社員として登用した方がいいのかも知れないな。
 何より彼女も異世界の事を知っている人だし何時までもパートという身分よりも、正社員として安定的な立場を確立させた方が、打算的ではあるが配慮などもしてくれそうだ。
 
「どうした? 五郎」
「いえ。なかなに良案だと思っただけです。それでは、工事の方をお願いします」
「おう! 任せておけ!」
「俺は雪音さんと、桜たちに、今日は工事に入ることを伝えてきますので」
「分かった。荷物を下す作業もあるから、工事をするために建物内に入るのは10分後だから、そう伝えておいてくれ」
「分かりました」
 
 踝さんと会話を切り上げると母屋に戻る。
 玄関に到着し戸を開けたところで雪音さんが台所から走り寄ってくる。
 
「あ、五郎さん。今日、工事なのですよね?」
「そうですね。工事する部屋は客間二つと桜の部屋の3つになります。10分後に室内の方も室内機を取り付けるので家内に上がってくると思いますので、桜たちに伝えておいてください。あとは電話会社も今日は来ます」
「今日は、御忙しですね」
「そうですね……。まぁ、店をオープンする前は、もっと忙しかったので久しぶりというか……」
「くすっ。分かりました」
 
 雪音さんが笑みを浮かべると頷いてきた。
 そこで携帯電話が鳴る。
 まだ時刻は午前10時前だが、随分と電話会社からの訪問事前連絡としては早いな? と、思いながら携帯電話を取る。
 
「はい。月山です」
「朝早くから申し訳ありません。石川芽依です」
 
 その言葉に、俺は雪音さんへ咄嗟に視線を向ける。
 彼女は、一瞬怪訝そうな表情をしたあと――、
 
「それでは、私は桜ちゃんたちに伝えてきます」
 
 そう場を離れてくれた。
 どうやら聞かれたくない仕事の話だと察してくれたのだろう。
 俺は、雪音さんの気遣いに頷きながら、母屋の外へと出る。
 外に出てみれば、すでにリフォーム踝の新人さんが室外機をトラックから降ろしている場面が見えた。
 俺は、その様子を確認しつつ――、
 
「どうかされましたか?」
 
 極めて事務的に言葉を選びつつ、対応することにした。
 
「じつは先日の、簡易郵便局の件なのですが……」
「はい。答えは、出ましたか?」
 
 まぁ、辛辣な前回の対応から見るに断られても仕方ないだろう。
 俺は、そう思い身構える。
 出来れば、長年、簡易郵便局を切り盛りしてきた石川さんの助力が無くなるのは痛手だが、それは仕方ない。
 
「先日の、簡易郵便局の職員としての登用のお話ですが、受けたいと思います」
「そうですか、それはざんね――ん?」
 
 いま、一瞬、受けてくれると聞こえたが気のせいか?
 
「いま、何と?」
「ですから、お引き受けします」
 
 どうやら幻聴ではないらしい。
 本気で仕事を引き受けてくれると。
 ただ、ここで食い気味にいくのは宜しくない。
 あくまでもオーナーは俺であり、石川さんは従業員ということをキチンと明確に態度で示しておかなければいけない。
 
「石川さん」
「はい」
「無理そうでしたら――、貴女の父親から頼まれたという意味で、そういう責任感で引き受けるのでしたら、大変になると思います。そういう事で仕事を引き受けられるのでしたら考え直した方が宜しいかと思います」
「いえ。これは、あくまでも私が決めたことですので……、ですから村の発展の為にも私も少しでも力になりたいと思っていますので――」
「そうですか……」
 
 少し間を置く。
 あくまでも俺が何かを考えていますよ? と、言うアピールをするがごとく。
 
「分かりました。それでは、詳しい契約内容の話を詰めたいと思いますので、石川順次さんも同伴で来て頂くことは可能ですか?」
「お父さんもですか?」
「はい。郵便局業務については、私は素人ですので、以前に郵便局――、簡易郵便局をおひとりで回していた石川さんのお父さんも同席された方が話はスムーズに進むと思いますから」
「先達の知恵ということですね」
「そうなります」
 
 まぁ、俺としては石川のおっさんが簡易郵便局に関わっているという体裁をとりたい。
 その方が村では受け入れやすいだろうし。
 最初から若い人が郵便局長だと、嫉妬もそうだし、心配することもあるだろうからな。
 それと――、
 
「あと石川順次さんの診断書も持ってきてもらえますか?」
「お父さんのですか? もしかして、お父さんにも仕事を?」
「――いえ。少し、気になっただけなので」
「そうですか……」
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強の英雄は幼馴染を守りたい

なつめ猫
ファンタジー
 異世界に魔王を倒す勇者として間違えて召喚されてしまった桂木(かつらぎ)優斗(ゆうと)は、女神から力を渡される事もなく一般人として異世界アストリアに降り立つが、勇者召喚に失敗したリメイラール王国は、世界中からの糾弾に恐れ優斗を勇者として扱う事する。  そして勇者として戦うことを強要された優斗は、戦いの最中、自分と同じように巻き込まれて召喚されてきた幼馴染であり思い人の神楽坂(かぐらざか)都(みやこ)を目の前で、魔王軍四天王に殺されてしまい仇を取る為に、復讐を誓い長い年月をかけて戦う術を手に入れ魔王と黒幕である女神を倒す事に成功するが、その直後、次元の狭間へと呑み込まれてしまい意識を取り戻した先は、自身が異世界に召喚される前の現代日本であった。

どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ

ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。 ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。 夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。 そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。 そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。 新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...