田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫

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第374話 簡易郵便局設立に向けて(5)

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 石川芽依さんを見送ったあと、俺は寒空の中で溜息をつく。
 
「ゴロウ様。商談は上手くいかなかったのですか?」
「ナイルさんですか。そうですね……。上手くいかなかったというか噛み合わなかったというか……」
 
 店前の駐車場で立ち尽くしていたところで、ナイルさんが話しかけてきたので、言葉を返す。
 
「そうですか……」
 
 深刻そうな表情でナイルさんは頷く。
 それを見て、俺は思う。
 石川さんが言った言葉。
それは、俺が村を捨てたと口にしたこと。
おそらく、それが石川さんと俺との話を最初に拗らせた原因なのだろう。
 そして、その拗らせがゴタついた最大の理由。
 
「まったく……、初手から問題になるとは――」
 
 思わず愚痴が出る。
 そんな俺を見ていたナイルさんが、ハッ! と、した表情を見せると、
 
「ゴロウ様。トウワ様には、話は?」
「藤和さんには、一応、話はしてありますが、今回は、俺の問題なので何とかしてみます」
 
 まぁ、そもそも村を捨てたと言われれば、それは遠からず近からずといった具合だしな。
 たしかに距離を置いたってのは、その通りだし……、周りから見たら村を捨てたと見られても仕方ないだろう。
 
「分かりました。それでは何かあれば私にご命令ください」
「特に命令するような事はないですよ。ナイルさんは気にしないでください」
「気にしないでくださいと言われても……。ですが、あの者は、ゴロウ様に失礼な言い方をしたと雪音様が仰っておりました」
「ああ、そうですね」
 
 まぁ、俺からしてみれば、そこまでという感じではあったが、たしかに第三者から見れば、そう取られてもおかしくない言い回しだったからな。
 そう考えると雪音さんが不機嫌だった理由が何となく察する事が出来た。
 俺が雪音さんの立場なら雪音さんが侮辱されたようなモノだからな。
 
「我が主君、ノーマン様の後継者であらされるゴロウ様を侮辱されるなどルイズ辺境伯領を侮辱された事と同義です。本来であるのなら――」
「ナイルさん。こっちはこっちのルールというのがあるので、絶対に手を上げないでくださいね」
「はっ! 出過ぎた真似を!」
 
 駐車場のアスファルトの上に片膝をつき騎士の礼をとってくるナイルさん。
 
「それって目立つので、やめてください」
「――も、申し訳ありません! つい、習慣が――」
「ああ、そういうのありますよね……」
 
 身に付いた習慣というのは無意識に出るからな。
 俺はナイルさんに手を差し伸べて、彼を立たせながら、苦笑した。
 
 
 
 石川さんが帰ったあと、しばらくするとリフォーム踝の社長の踝健さんが尋ねてきた。
 客間に通したところで、
 
「話は聞いたぞ? ゴロウ」
「話?」
「今日、こっぴどく石川さんのところの娘さんに言われたらしいじゃないか」
「ああ、その話ですか」
 
 どこから話合いの内容が漏れたかは知らないが、踝さんが知っているということは――、
 
「もしかして村中で話題だったりしますか?」
「いいや、俺のところだけだな」
「何故に踝さんに話が……」
「そりゃ、俺はリフォーム会社だからな。顧客の話を聞くのも仕事の一つなわけだ。――で、その時に、石川のおっさんから娘さんが、お前に失礼な態度をとったから何とかして欲しいって言われてな」
「つまり、仲介をして欲しいと?」
「まぁ平たく言えば、そんなところだな」
「まったく……本人から直接言ってもらわないと逆効果だと言う事くらいは分からないんですかね」
「まぁ、まだ28歳だからな」
「28歳って、良い大人ですが?」
「今の若い世代なんて、謝罪の仕方も知らない奴らばかりだぞ? 親に泣きつくことはあっても自分で責任を取る覚悟を持っている奴なんていやしない」
「……まぁ、俺が若い時もそんなモノでしたからね」
「だろう? 責任なんてモノが取れるかどうかの分別なんて、40歳近くにならないと身に付かないものだ。政治家とか官僚なんて、60歳を過ぎても責任の取り方を知らない連中ばかりなんだから、そこなんて察しってものだ」
「それを言われると、納得するしかないんですが……」
 
 俺は思わず苦笑する。
 
「だから、もう一度、色目を見ずに対応してやってもらえないか? あと、雪音さんが怖い」
「私が怖いって! なんですか!」
 
 熱いお茶が入った湯飲みをコタツのテーブルの上に置きながら、返答する雪音さんの表情は幾分か怒っているように見える。
 
「~いや、五郎は愛されているな」
「まぁ、俺も雪音さんは愛していますし……こほん」
 
 思わず無意識に答えてしまい何とも言えない気持ちになったところで、おれは咳をしてからお茶を啜る。
 
「――だ、そうですよ? 雪音さん。五郎が、愛しているって言ってますよ」
 
 俺が無言になったところで、場を取り持つかのように踝さんが雪音さんに話しかけるが――、
 
「私も同じ気持ちですから大丈夫です。あと、分かっているのなら五郎さんを侮蔑されて、怒らない人はいないと思います。それでも仲良くしろと踝さんは言うのですか?」
「まぁ、それは……」
 
 身から出た錆というか藪蛇というか、雪音さんの返しに困った表情を浮かべる踝さん。
 
 
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