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第372話 簡易郵便局設立に向けて(3)

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「雪音さん。石川さんとは知り合いなんですか?」
「――あ、はい。五郎さんの時代は、結城村の人口は2000人以上いましたから、小学校、中学校、高校が別れていましたけど、私の時代には、小中高と同じ校舎を使うまで縮小していましたから……」
「そうなんですか」
 
 そういうことなら、石川さんのことを先輩と言うのも分からなくはないな。
 
「えっと、そうすると郵便局の設立に関しては芽依先輩が関わっていると言う事ですか?」
「まだ、それは分からないわ。月山五郎さんは、村を捨てて出て行った人でしょう?」
 
 何故か困惑した表情で、石川さんの娘さんが関わることに関して低い声で呟いた雪音さんに対して、辛辣な声をかける石川さん。
 それも、遠回しに俺に向けて。
 
「ハハハハッ。これは手厳しいですね」
 
 話合いが成立した場合、俺はオーナーと言う事になるんだが、やたらと強い口調でしょっぱなから良いパンチを打ってくるな……。
 まぁ、村を捨てたと言えば聞こえは悪いが村から出て行ったと言う事だったら、遠からず近からずと言った感じなので否定もできない。
 
「そうですか。それで、芽依先輩のお父さんは簡易郵便局の設立に対して前向きだと五郎さんに伺いました。その話でいいのですよね?」
 
 湯飲みをドンッ! と、石川さんの前に叩きつけるようにしながら笑顔で、石川さんに話しかける雪音さん。
 
「相も変わらずね。雪音さん」
「芽依先輩に言われたくはないです」
「これだと嫁の貰い手も――」
「私は、五郎さんと結婚する予定ですから、余計な心配は不要です」
「――なっ!」
 
 何故か、雪音さんではなく俺を睨みつけてくる石川さん。
 俺、何かしたか?
 
「――ど、どど、どういうことかしら? 月山五郎さん、そのへん、詳しく聞かせてもらっても?」
「芽依先輩。他人の家の恋愛事に口を挟むのは、どうかと思いますよ? 今日は、石川さんのお父さんの前向きに検討頂いている簡易郵便局の件で起こしになられたのですよね? それなら、ビジネスの話をすることが大事だと思います」
「――ッ!」
 
 俺が答える前に、雪音さんが答えてしまう。
しかも言葉の選び方にやけにやたらと棘があるような気がする。
 これが女子の先輩、後輩という立場上の話なのかも知れない……と、俺は無理矢理納得することにする。
 
「――わ、わかったわ。月山五郎さん」
「な、なんでしょうか?」
「簡易郵便局の設立の件は、正式に父に代わって受けたいと思います。ただ簡易郵便局を開くにあたって幾つか必要なモノがあります」
「必要なモノですか?」
「はい。まず資金です」
「それに関しては安心してください。海外でプロドライバーとして働いて稼いだお金がありますから」
「そ、そうですか……」
「次に建物です。以前に利用していた実家は、老朽化で店舗側は既に潰してあります。よって新しい建物が必要となります。その建物の確保が必要となります」
「なるほど……」
 
 俺は席から立ちあがる。
 
「五郎さん、どちらへ?」
「雪音さん。ノートパソコンを持ってきます」
 
 本当は雪音さんに持ってきてもらってもいいんだが、どうもあの雰囲気の客間には居たくない。
 仕方なく俺は客間から出て居間に行く。
 そして居間でノートパソコンを手にしたあと客間に戻りコタツのテーブルの上にノートパソコンを置いてから電源を入れる。
 
「簡易郵便局に関してですが、今後のことを考えると店内の一角を利用してでの郵便局業務というのは現実的ではないと考えました」
 
 俺は、ノートパソコンを操作しながら、建物の完成図の図面をノートパソコンの画面上に表示させる。
 
「それはその通りです。ですから、簡易郵便局を設立させるに当たって建物の手配をどうするかを月山五郎さんに伺ったんです」
「分かっています」
 
 俺は、喧嘩腰の石川さんに言葉を返しながら図面を見せる。
 
「――! こ、これは……」
「よく携帯電話ショップや中古車販売などで事務所として利用しているプレハブ小屋です。これの少し立派な建物を月山雑貨店の道路を挟んだ向かい側に建てようと思います。建物の広さは一般的なコンビニと同じくらいを想定しています」
「そ、それって……、下手しなくても1千万円以上の建築費が!? それだと、ATMなどやオンライン回線を引いたら――」
「分かっています。その分のお金はありますから、こちらで新しい簡易郵便局の建物を建築した上で郵便業務を行いたいと思います。あと、建物は2階建てを想定していますので――」
 
 この建築図面は、踝誠さんから紹介された工務店のモノで、価格は3000万円ほど。
 それでも、今後の結城村の発展を考えれば高すぎるというモノではない。
 謂わば先行投資のようなモノだ。
 
「…………分かったわ。そこまで考えているのなら、建物と開業に当たっての資金は問題ないのでしょう。ただ――、人件費は考えていますか?」
「考えています。月山順次さんにお話しをお伺いしましたが、石川芽依さんの年収は総支給で350万円ほどと伺っています」
「そ、そうね……」
「ですから、こちらとしてはプラス100万円の年収で言えば総支給450万円で貴女を雇いたいと思っています」
 
 俺の言葉に、いきなりテーブルをバンと叩く石川さんは口を開く。
 
「こんな人口200人程度の村の簡易郵便局の職員に年収450万も出すって普通じゃないわ! 簡易郵便局経由でも年で260万近くは郵便局から支給されるけど、さらに200万円以上払うなんて、そんなの毎年200万円の赤字が出るようなモノじゃない!」
 
 
 
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